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地球の終わりの小さなドラマと、それを眺める無機質な瞳

5.0
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 崩壊寸前の荒廃した地球で、ひとりの男が未知との遭遇を果たすお話。

 SFです。実を言うと上記の要約は少し語弊のある表現で、正確には「未知がひとりの男との遭遇を果たす」お話です。視点保持者は男の方でなくこの未知さんの方で、つまり「人ならざる何者かの目を通して見た世界」というのがこのお話の最大の持ち味、魅力の根源だと思います。

 というのもこの未知さんの個性というか、存在そのものがすでにして面白い。どうやら人間とはまるで生態の異なる知的生命体で、それを端的に表現できる単語(名称)がありません。ただし特性や特徴はしっかり作中に書き表されており、したがってそれがどういう生き物であるか、ざっくり外側からのイメージを想起すること自体は難しくないのですが。

 この作品、完全にその未知さんの一人称視点によって書かれている、というのが肝で、つまり価値観も哲学も宗教も、それどころか生物としての様態からして異なる生物の、その頭の中を覗く形になるわけです。

 この感覚、掴めるようで掴めない未知さんのものの考え方を、あれこれ想像しながら追いかけていく読書体験。この味わいが実に絶妙で、不思議なわくわく感がありました。その上で、さらに描かれる『ひとりの男』の情動や心情を、この未知さんのフィルターを通して見ることの心地よさ。なんとも説明の難しい、独特の手触りに悶えます。

 巧妙な道具立てと、それにぴったりはまった使い方の光る、物悲しくも優しい終末SFでした。

和田島イサキ

登録:2021/11/4 17:36

更新:2021/11/4 17:36

こちらは和田島イサキさんが読んだ当時の個人の感想です。詳細な事実については対象作品をご確認ください。

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610 light-years Love

来世における巡り合いのお話(※語弊のある表現)

 約九十年の人生の締めくくり、間抜けな人生だと自嘲しながらも、でも満ち足りて往生するひとりの男性のお話。  しっとりと落ち着いた描写が胸に沁みる、切なくも優しい手触りの人間ドラマ、のようなSFです。ドSF。どうやってもネタバレになるというか、いやそもそもタグの時点で明かされてるも同然な部分なので〝そこ〟についてはもう気にせず触れてしまうのですが(困る人はいますぐ本編へ!)、シミュレーション仮説をモチーフにしたお話です。その辺りを端的かつ印象深く象徴しているのが、本作のキャッチである『あなたの愛する人は本当に実在するのでしょうか?』の一文。これ好きです。本編の内容を読み終えてからだと、より強く意味合いが強調されるような感覚(後述します)。  導入であるところの「九十年の人生」、それはすべて仮想現実だった、というところから始まる物語。宇宙船での星間航行中、どうしても持て余すことになる長い時間を潰すための、娯楽としての人生のシミュレーション。要は長い夢から覚めたようなもので、さっきまでの人生はすべて作り物でしかなかった、というのがこのお話の肝というか前提になるわけですけれど。  ここで面白いのがこの主人公、というか作中の人類全般のことなのですけれど、寿命が半永久的に続くんです。現生人類の人生一回分の時間くらいは、ほとんどあっという間の出来事。さすがに未来(千年後)の世界だけあって全然違うと、それ自体は特段なんてことはないのですけれど。  宇宙船のコンピュータによってシミュレートされた方の人生、それが千年前(作品外における現代)の世界であるということと、そして『シミュレーション仮説』というタグ。これらの意味するところというかなんというか、まあ要するにメタ的に見ることで作品の主軸とはまた別の妙味を上乗せしてくるという、この構造とそのさりげなさにニヤリとしました。あくまでも副次的に書かれている、そのお洒落というか上品な感じ。  さて、その上でその主軸、物語のメインとなるドラマなのですが。まんまとやられたというか綺麗に決まったというか、きっちり組まれた構造の綺麗さにうっとりします。単純にロマンティックないい話でもあるのですけれど、これ構造だけ見てちょっと見方を変えるなら、ある意味転生ものみたいなところもあるんですよね。いわゆる前世からの生まれ変わり、離れ離れになった運命の相手に再び巡り合うお話のような。王道であり古典でもあるその類型を、でもただSF的な設定の上に持ってきただけでなく、まったく違う手触りに変えてみせる。物語を自分の(作者自身の)ものにする、というのは、たぶんこういうことなのかなと思いました。  あと大好きなところ、というか絶対触れずにはいられないのは、やっぱり結びのあの一文。このサゲの爽快感がもう最高に好きです。伏線等も綺麗に回収しつつ、すべてがこの瞬間のために描かれた物語。とても綺麗で、しっかり壮大なSFでありながらも、その向こうから人の生を伝えてくれる素敵な作品でした。

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和田島イサキ