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主客転倒であり本末転倒でもある

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 自ら生み出した理想の姿、自分自身のアバターである「私」に、本来の「わたし」自身が嫉妬を抑えきれなくなるお話。

 冒頭、主人公が姿見の中に見る「私」とは、「わたし」自身が作り上げた理想の姿。交際相手である先輩と一緒にいる間は常に「私」でいるのだけれど、そのために「わたし」は永久に思い人から顧みられることがない。やがて主人公は自分自身の生み出したそれに倒錯した嫉妬心を抱くようになり……というお話の筋。

 ホラーであり、サイコスリラーであり、またある意味では悲劇でもあります。一見持たざるものの悲哀が根底にあるように見えて、でも同時に持てるものの不幸を描いてもいる。「わたし」自身は恋人に好かれるべき姿を持たず、故に先輩に好かれる外見そのものである「私」を逆恨みする、というのはまさに〝持たざるもの〟の話なのですが、でもそもそもの「私」の存在そのものが「わたし」の所有物なわけです。いっそのことただの絵に描いた餅、永遠に手の届かないただの理想であればよかったものを、下手にそれを実現してしまう力を持っていたが故の悲劇。作り上げた外見と元々の自意識、そのふたつが噛み合わなくなることによって生じる自己同一性の崩壊が、いやまさに崩れていくその様が、軋む情動そのままに著されていました。

 はっきり明かされないながらも、でもところどころに差し挟まれた「わたし」の実体に関する記述が好きです。文字通りに受け取ったなら、どう見ても尋常の生き物ではない。でもギリギリ比喩的表現と見做せないこともないというか、少なくとも確定はしていない。この辺りが想像の余地として機能して、自然と彼女(「わたし」)について考えてしまうのが楽しいです。

和田島イサキ

登録:2021/11/4 17:49

更新:2021/11/4 17:49

こちらは和田島イサキさんが読んだ当時の個人の感想です。詳細な事実については対象作品をご確認ください。

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610 light-years Love

来世における巡り合いのお話(※語弊のある表現)

 約九十年の人生の締めくくり、間抜けな人生だと自嘲しながらも、でも満ち足りて往生するひとりの男性のお話。  しっとりと落ち着いた描写が胸に沁みる、切なくも優しい手触りの人間ドラマ、のようなSFです。ドSF。どうやってもネタバレになるというか、いやそもそもタグの時点で明かされてるも同然な部分なので〝そこ〟についてはもう気にせず触れてしまうのですが(困る人はいますぐ本編へ!)、シミュレーション仮説をモチーフにしたお話です。その辺りを端的かつ印象深く象徴しているのが、本作のキャッチである『あなたの愛する人は本当に実在するのでしょうか?』の一文。これ好きです。本編の内容を読み終えてからだと、より強く意味合いが強調されるような感覚(後述します)。  導入であるところの「九十年の人生」、それはすべて仮想現実だった、というところから始まる物語。宇宙船での星間航行中、どうしても持て余すことになる長い時間を潰すための、娯楽としての人生のシミュレーション。要は長い夢から覚めたようなもので、さっきまでの人生はすべて作り物でしかなかった、というのがこのお話の肝というか前提になるわけですけれど。  ここで面白いのがこの主人公、というか作中の人類全般のことなのですけれど、寿命が半永久的に続くんです。現生人類の人生一回分の時間くらいは、ほとんどあっという間の出来事。さすがに未来(千年後)の世界だけあって全然違うと、それ自体は特段なんてことはないのですけれど。  宇宙船のコンピュータによってシミュレートされた方の人生、それが千年前(作品外における現代)の世界であるということと、そして『シミュレーション仮説』というタグ。これらの意味するところというかなんというか、まあ要するにメタ的に見ることで作品の主軸とはまた別の妙味を上乗せしてくるという、この構造とそのさりげなさにニヤリとしました。あくまでも副次的に書かれている、そのお洒落というか上品な感じ。  さて、その上でその主軸、物語のメインとなるドラマなのですが。まんまとやられたというか綺麗に決まったというか、きっちり組まれた構造の綺麗さにうっとりします。単純にロマンティックないい話でもあるのですけれど、これ構造だけ見てちょっと見方を変えるなら、ある意味転生ものみたいなところもあるんですよね。いわゆる前世からの生まれ変わり、離れ離れになった運命の相手に再び巡り合うお話のような。王道であり古典でもあるその類型を、でもただSF的な設定の上に持ってきただけでなく、まったく違う手触りに変えてみせる。物語を自分の(作者自身の)ものにする、というのは、たぶんこういうことなのかなと思いました。  あと大好きなところ、というか絶対触れずにはいられないのは、やっぱり結びのあの一文。このサゲの爽快感がもう最高に好きです。伏線等も綺麗に回収しつつ、すべてがこの瞬間のために描かれた物語。とても綺麗で、しっかり壮大なSFでありながらも、その向こうから人の生を伝えてくれる素敵な作品でした。

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和田島イサキ