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物語の入り口に剥き出しのまま置かれた核心の異質さ

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 雨の中の凶行と、同日に誕生日を迎えた少年とその友達の日常のお話。

 ジャンルとしては『現代ドラマ』、事実高校生ふたりの交流を軸とした物語なのですが、しかしその割にはというかもう明らかに異質なのが冒頭の一幕。雨の早朝、凄惨な殺人事件の場面から始まり、その詳細を明かさず宙吊りにしたまま学校生活の場面になだれ込んでいくという、ある種サイコスリラーやサスペンス的な風合いの作品でした。

 かなりネタバレ気味の感想になってしまうのですが、結局最後の最後まで、詳細な背景については一切語られないところが好きです。一応、直接的な動機であるところの『なぜ』は書かれているのですが、しかしその回答は一般的な感覚では到底共感できるようなものではなく、つまりその答えに至るまでのさらなる『なぜ』があってもよさそうなところ、しかし一切見当たらない。その〝一切〟が素敵でした。

 説明の必要がないのは、それが当たり前のことだから。つまりは『それはそういうものだから』と結論づけてしまう、このあまりにも冷たく絶対的な断絶。ずっと一緒に過ごしてきた見慣れた隣人の、その笑顔のすぐ裏に潜んでいるかもしれない、理解不能の別の生き物。そこに感じる恐ろしさはしかし、そのまま自戒となって我が身に跳ね返ってきます。

 本来、人間とはひとりひとりがまったく別の生き物、まして精神は目に見えるものでもないのに、でも他人が〝理解できない〟ことがこんなにも恐ろしい。無意識のうちに自分と同じであることを他者に強要してしまう、それだけならまだ良かったのですが。これまで作中で散々見てきた彼の印象、勝手に思い描いた理想の彼の通りでなかったことに、言いようのない不満を抱いてしまう。そんな自分の中の身勝手さに、改めて気づかされたような気分です。

和田島イサキ

登録:2021/11/4 17:53

更新:2021/11/4 17:53

こちらは和田島イサキさんが読んだ当時の個人の感想です。詳細な事実については対象作品をご確認ください。

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和田島イサキ