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甘酸っぱい恋の裏に潜むはちきれそうな危うさ

5.0
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 転校してきたばかりの少女が、願いを叶えてくれるという『学校の神様』に出会うお話。

 どこかノスタルジックな光景の中に、ふんわり神秘的な雰囲気の漂う優しい百合物語です。いやノスタルジックというのは少しニュアンスが違うのですが、ある種の懐かしさのようなものをくすぐられる風景。田舎の女子校という環境と、そこに持ち込まれた『学校の神様』という存在。校内限定で願いを叶えてくれる小さな神様。このまるで世界の半分以上が学校だけで完結している感じというか、内部に神様すら生み出してしまう価値観の中に生きている感覚に、胸の奥の忘れかけていた記憶を揺り起こされるような思いがしました。

 この物語は少女ふたりの恋のお話であると同時に(あるいはそれ以上に)、彼女たちの生きる『世界』そのものを非常に強く意識させてくれるお話です。世界が学校と家庭だけで成り立っている年代の、でもそのうちの片一方をなげうってでも成就させたいと願う恋。あるいはなげうつことそのものが目的でもあるのか、つまりはある種の逃避行——俗世から聖域へ、または現実を捨てて理想の先へと、あちらとこちらの境を飛び越える行為としての恋。絶対に後戻りのきかない選択であり、同時にきっと一種の禁忌(だって実質この世ならざるものとの契りですよ!)。彼女のその決断をただの逃げと言えるのは、それが無責任な第三者の、それも大人の目線から見ているからこその感想であって、だいたい恋なんて大抵逃避行みたいなものですよねと(いうのは言い過ぎにしても偉そうなこと言えるほど立派な大人でもないよねわたしと)、脳の中に蘇った『あの頃の自分』の立場で彼女たちを応援する感覚が楽しかったです。

 とはいえ、危なっかしいのはそれはそれで事実ではあるのですけど。恋は盲目というよりも盲目であるが故の恋というか、紛い物ではないにせよどうにも不安定さのようなものを孕んで見える、その想いの純粋さ故の危うさがとても好きです。基本的には綺麗で爽やかなハッピーエンドで、でもその裏にいくらでもヒリヒリしたピーキーさを読み取ることができる、擦り切れるような青春の迸りが嬉しい作品でした。

和田島イサキ

登録:2021/11/4 18:14

更新:2021/11/4 18:13

こちらは和田島イサキさんが読んだ当時の個人の感想です。詳細な事実については対象作品をご確認ください。

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610 light-years Love

来世における巡り合いのお話(※語弊のある表現)

 約九十年の人生の締めくくり、間抜けな人生だと自嘲しながらも、でも満ち足りて往生するひとりの男性のお話。  しっとりと落ち着いた描写が胸に沁みる、切なくも優しい手触りの人間ドラマ、のようなSFです。ドSF。どうやってもネタバレになるというか、いやそもそもタグの時点で明かされてるも同然な部分なので〝そこ〟についてはもう気にせず触れてしまうのですが(困る人はいますぐ本編へ!)、シミュレーション仮説をモチーフにしたお話です。その辺りを端的かつ印象深く象徴しているのが、本作のキャッチである『あなたの愛する人は本当に実在するのでしょうか?』の一文。これ好きです。本編の内容を読み終えてからだと、より強く意味合いが強調されるような感覚(後述します)。  導入であるところの「九十年の人生」、それはすべて仮想現実だった、というところから始まる物語。宇宙船での星間航行中、どうしても持て余すことになる長い時間を潰すための、娯楽としての人生のシミュレーション。要は長い夢から覚めたようなもので、さっきまでの人生はすべて作り物でしかなかった、というのがこのお話の肝というか前提になるわけですけれど。  ここで面白いのがこの主人公、というか作中の人類全般のことなのですけれど、寿命が半永久的に続くんです。現生人類の人生一回分の時間くらいは、ほとんどあっという間の出来事。さすがに未来(千年後)の世界だけあって全然違うと、それ自体は特段なんてことはないのですけれど。  宇宙船のコンピュータによってシミュレートされた方の人生、それが千年前(作品外における現代)の世界であるということと、そして『シミュレーション仮説』というタグ。これらの意味するところというかなんというか、まあ要するにメタ的に見ることで作品の主軸とはまた別の妙味を上乗せしてくるという、この構造とそのさりげなさにニヤリとしました。あくまでも副次的に書かれている、そのお洒落というか上品な感じ。  さて、その上でその主軸、物語のメインとなるドラマなのですが。まんまとやられたというか綺麗に決まったというか、きっちり組まれた構造の綺麗さにうっとりします。単純にロマンティックないい話でもあるのですけれど、これ構造だけ見てちょっと見方を変えるなら、ある意味転生ものみたいなところもあるんですよね。いわゆる前世からの生まれ変わり、離れ離れになった運命の相手に再び巡り合うお話のような。王道であり古典でもあるその類型を、でもただSF的な設定の上に持ってきただけでなく、まったく違う手触りに変えてみせる。物語を自分の(作者自身の)ものにする、というのは、たぶんこういうことなのかなと思いました。  あと大好きなところ、というか絶対触れずにはいられないのは、やっぱり結びのあの一文。このサゲの爽快感がもう最高に好きです。伏線等も綺麗に回収しつつ、すべてがこの瞬間のために描かれた物語。とても綺麗で、しっかり壮大なSFでありながらも、その向こうから人の生を伝えてくれる素敵な作品でした。

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和田島イサキ