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『ハッピーエンド』の主体と客体

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 ネタバレを嫌うひとりの男性が、逆に平気でネタバレしてしまうタイプの男性と出会って、いろいろ揉めたりするお話。

 という、上記の一文はほとんどただの導入部分でしかないのですが。でもこの『ネタバレ』という要素の使われ方がなかなか面白いというか、物語の入り口として機能しながらもガッチリお話の本質に食い込んでいて、思わずむむむと唸らされたような部分があります。

 タイトルの通りこの物語は『ハッピーエンド』にまつわるお話で、そしてなるほど『ハッピーエンド』という概念は、その名前そのものが重大なネタバレの要素を含んでいる、という事実。いや普通に当たり前のことではあるのですけれど、でもそれを〝実際にやる〟とどうなるか、という形で物語にしてしまう、その発想そのものに小気味よいものがありました。

 ここから先はややネタバレを含みます。

 構成が面白いです。前編と後編でくっきりふたつに別れたお話。前編だけを見るとちょっとしたショートショートのような趣ですが、それを踏まえてさらに踏み込んでくる後編の感じがとても好きです。物語の芯というか、面白みを感じさせる部分の変調ぶり。オチの切れ味が魅力の口当たりの良いショートショートから、読み手の思考や感情を動かしてくるどっしり手堅い内容へ、というような。要は落差と言えばそうなのですけれど、でも別に前編後編で話が切り替わっているというようなことはなく、文章やお話はスムーズに連結した上でのそれというのが大変綺麗で好みでした。

 さらにネタバレ気味になりますが、やっぱり好きなのはその後編で語られている内容。主人公に共感、というか彼の立場になって考えたときの(ここが地味にうまいというか、単純な共感でなくこっちから彼の身に立って考えるように仕向けられている感じがもう大好き)、このなんとも絶妙な座りの悪い感じ。隔靴掻痒というかなんというか、きっと非の打ちどころのない幸せな終幕なのに、でもそこに行き着くしかなかったこの状況そのものに納得できない感覚。ちょっと捻れたようなこの不思議な状態を、そのまましっかりひとつのお話の形に仕上げてしまう、その構造というか構成というかがとても美しい作品でした。

和田島イサキ

登録:2021/12/13 19:15

更新:2021/12/13 19:22

こちらは和田島イサキさんが読んだ当時の個人の感想です。詳細な事実については対象作品をご確認ください。

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610 light-years Love

来世における巡り合いのお話(※語弊のある表現)

 約九十年の人生の締めくくり、間抜けな人生だと自嘲しながらも、でも満ち足りて往生するひとりの男性のお話。  しっとりと落ち着いた描写が胸に沁みる、切なくも優しい手触りの人間ドラマ、のようなSFです。ドSF。どうやってもネタバレになるというか、いやそもそもタグの時点で明かされてるも同然な部分なので〝そこ〟についてはもう気にせず触れてしまうのですが(困る人はいますぐ本編へ!)、シミュレーション仮説をモチーフにしたお話です。その辺りを端的かつ印象深く象徴しているのが、本作のキャッチである『あなたの愛する人は本当に実在するのでしょうか?』の一文。これ好きです。本編の内容を読み終えてからだと、より強く意味合いが強調されるような感覚(後述します)。  導入であるところの「九十年の人生」、それはすべて仮想現実だった、というところから始まる物語。宇宙船での星間航行中、どうしても持て余すことになる長い時間を潰すための、娯楽としての人生のシミュレーション。要は長い夢から覚めたようなもので、さっきまでの人生はすべて作り物でしかなかった、というのがこのお話の肝というか前提になるわけですけれど。  ここで面白いのがこの主人公、というか作中の人類全般のことなのですけれど、寿命が半永久的に続くんです。現生人類の人生一回分の時間くらいは、ほとんどあっという間の出来事。さすがに未来(千年後)の世界だけあって全然違うと、それ自体は特段なんてことはないのですけれど。  宇宙船のコンピュータによってシミュレートされた方の人生、それが千年前(作品外における現代)の世界であるということと、そして『シミュレーション仮説』というタグ。これらの意味するところというかなんというか、まあ要するにメタ的に見ることで作品の主軸とはまた別の妙味を上乗せしてくるという、この構造とそのさりげなさにニヤリとしました。あくまでも副次的に書かれている、そのお洒落というか上品な感じ。  さて、その上でその主軸、物語のメインとなるドラマなのですが。まんまとやられたというか綺麗に決まったというか、きっちり組まれた構造の綺麗さにうっとりします。単純にロマンティックないい話でもあるのですけれど、これ構造だけ見てちょっと見方を変えるなら、ある意味転生ものみたいなところもあるんですよね。いわゆる前世からの生まれ変わり、離れ離れになった運命の相手に再び巡り合うお話のような。王道であり古典でもあるその類型を、でもただSF的な設定の上に持ってきただけでなく、まったく違う手触りに変えてみせる。物語を自分の(作者自身の)ものにする、というのは、たぶんこういうことなのかなと思いました。  あと大好きなところ、というか絶対触れずにはいられないのは、やっぱり結びのあの一文。このサゲの爽快感がもう最高に好きです。伏線等も綺麗に回収しつつ、すべてがこの瞬間のために描かれた物語。とても綺麗で、しっかり壮大なSFでありながらも、その向こうから人の生を伝えてくれる素敵な作品でした。

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和田島イサキ