ユーザー登録・ログイン

新規登録

ログイン

作品

レビュー

登録/ログイン

その他

オノログについてFAQ利用規約プライバシーポリシー問い合わせユーザー管理者Twitter
レビューを投稿
書籍化
コミカライズ原作
ジャンル別
サイト別
サイト関連
運営している人

@オノログ

言われてみれば一体なんだろう「輝く」って

5.0
0

 昔の友達から届いたあからさまに怪しいお誘いに、のこのこ出かけて行った結果あからさまに怪しい建物に着いてしまった人のお話。

 ホラーです。紹介文によれば「輝けたのでハッピーエンドです」とのことで、もうこの言い方の時点で明らかにハッピーではないのですが、でもハッピーエンドの物語。何がハッピーでどれがそうでないかは個々人の立場によって変わるという意味でもありますし、また単純に「ホラーにおけるハッピーエンドってこうだよね」みたいな捉え方もできる作品でした。なるほど。

 お話の筋としては最初の一行に書いた通りで、最終的には命が輝けます。この「輝く」の用法が面白いというか、それがタイトルと紹介文にしか出てこないところが本当に好きです。完全に物語の外、いうならメタ的な傍観者としての立ち位置からの用語。こうなるともうどう解釈したところで隠語的な意味としてしか解釈できないというか、実際こういうポジティブな語での言い換えはよくあるというか、漠としているけどでも〝絶対あかんやつ〟というのがわかるこの感じ。最後「あちゃー輝いちゃったかー」となるのがおかしいというか、この作中で起こった出来事をして「人間が輝く」という言い方をしているのが面白——いや面白いって言い方はどうなのかしらだいぶおっかないことになってますけどー、という感じでした。ブラックっていうかシニックな笑い。恐怖と両立するユーモア性のような。

 よくよく考えると理不尽極まりないっていうか、主人公の当初の懸念とあんまり外れてないのがよかったです。「怪しい宗教やサロンの勧誘」。大差ない、というか実質それのすごいバージョンというか。別に望んでないのに無理矢理〝輝き〟に引き込む感じ、というか呼びつけた時点でそれが前提になっているのがもうだいぶ酷くて好きです。

 はなから相手の合意とか考えてない感じ。だって輝けるのは幸せことだから、というか実際彼がだいぶ幸せそうなのが面白い。本当に、一般的に使われる比喩としての意味でも「輝けた」彼。ダブルミーニング、というのとはまたちょっと違うのですけれど、でもホラーとしての筋にもう一押し、「輝けた」という語の使い方そのものに旨味をのっけてきた、渋い技巧のようなものを感じる作品でした。

和田島イサキ

登録:2021/12/13 19:38

更新:2021/12/13 19:38

こちらは和田島イサキさんが読んだ当時の個人の感想です。詳細な事実については対象作品をご確認ください。

同じレビュアーの他レビュー!!

610 light-years Love

来世における巡り合いのお話(※語弊のある表現)

 約九十年の人生の締めくくり、間抜けな人生だと自嘲しながらも、でも満ち足りて往生するひとりの男性のお話。  しっとりと落ち着いた描写が胸に沁みる、切なくも優しい手触りの人間ドラマ、のようなSFです。ドSF。どうやってもネタバレになるというか、いやそもそもタグの時点で明かされてるも同然な部分なので〝そこ〟についてはもう気にせず触れてしまうのですが(困る人はいますぐ本編へ!)、シミュレーション仮説をモチーフにしたお話です。その辺りを端的かつ印象深く象徴しているのが、本作のキャッチである『あなたの愛する人は本当に実在するのでしょうか?』の一文。これ好きです。本編の内容を読み終えてからだと、より強く意味合いが強調されるような感覚(後述します)。  導入であるところの「九十年の人生」、それはすべて仮想現実だった、というところから始まる物語。宇宙船での星間航行中、どうしても持て余すことになる長い時間を潰すための、娯楽としての人生のシミュレーション。要は長い夢から覚めたようなもので、さっきまでの人生はすべて作り物でしかなかった、というのがこのお話の肝というか前提になるわけですけれど。  ここで面白いのがこの主人公、というか作中の人類全般のことなのですけれど、寿命が半永久的に続くんです。現生人類の人生一回分の時間くらいは、ほとんどあっという間の出来事。さすがに未来(千年後)の世界だけあって全然違うと、それ自体は特段なんてことはないのですけれど。  宇宙船のコンピュータによってシミュレートされた方の人生、それが千年前(作品外における現代)の世界であるということと、そして『シミュレーション仮説』というタグ。これらの意味するところというかなんというか、まあ要するにメタ的に見ることで作品の主軸とはまた別の妙味を上乗せしてくるという、この構造とそのさりげなさにニヤリとしました。あくまでも副次的に書かれている、そのお洒落というか上品な感じ。  さて、その上でその主軸、物語のメインとなるドラマなのですが。まんまとやられたというか綺麗に決まったというか、きっちり組まれた構造の綺麗さにうっとりします。単純にロマンティックないい話でもあるのですけれど、これ構造だけ見てちょっと見方を変えるなら、ある意味転生ものみたいなところもあるんですよね。いわゆる前世からの生まれ変わり、離れ離れになった運命の相手に再び巡り合うお話のような。王道であり古典でもあるその類型を、でもただSF的な設定の上に持ってきただけでなく、まったく違う手触りに変えてみせる。物語を自分の(作者自身の)ものにする、というのは、たぶんこういうことなのかなと思いました。  あと大好きなところ、というか絶対触れずにはいられないのは、やっぱり結びのあの一文。このサゲの爽快感がもう最高に好きです。伏線等も綺麗に回収しつつ、すべてがこの瞬間のために描かれた物語。とても綺麗で、しっかり壮大なSFでありながらも、その向こうから人の生を伝えてくれる素敵な作品でした。

5.0
0
和田島イサキ