ユーザー登録・ログイン

新規登録

ログイン

作品

レビュー

登録/ログイン

その他

オノログについてFAQ利用規約プライバシーポリシー問い合わせユーザー管理者Twitter
レビューを投稿
書籍化
コミカライズ原作
ジャンル別
サイト別
サイト関連
運営している人

@オノログ

人によって全然違う解釈ができそうなお話

5.0
0

 とあるカップルの食卓と、あと映画館デート、それと思い出話などの対話劇。

 仲良しカップルがいちゃいちゃ過ごす様を眺める感じのお話で、ジャンルはラブコメとなっています。分量は約3,000文字強と非常にコンパクトで、登場人物は『楠くん』と『雫』の二名のみ、彼らふたりの対話を中心にその過去や関係性を掘り下げていく、といった筋の作品です。

 非常にシンプルな構成で、わかりやすいというか話の筋そのものはとても追いやすいのですけれど、そのぶん主軸の部分で攻めてくるというか、いろんな読み方の可能性を提示してくるようなところがあります。

 例えば、一番わかりやすいのが作品の紹介文、本文外の部分に書かれた「ノンセクシャル」という語とその説明。最初に目に入るところに書いてあったため、なんとなくそれを前提として読み始めたものの、でもこれは本当にノンセクのお話だったのか? その辺を確定できるだけの記述は本文中にはどこにもなくて、だからもしかするとミスリードなのかも——というのはさすがに穿ち過ぎというか、書いてある以上はそれに準ずる姿勢で読みはしたのですけれど。それでも(というか、それはそれとして)彼女や彼の自認や解釈、またその感覚についてどんどん想像させられてしまう、いわば想像の余地のようなものこそがこのお話の肝だと思いました。物語としての核というか、きっと一番おいしいところ。

 もともとグラデーション(段階的)であると言われるセクシュアリティに関して、彼女自身の言葉で語られているわけでもなければ、恋人たる彼の見解が示されているわけでもない。なにしろ「ノンセク」という語を初めとして、セクシュアリティを直接的に言い表す単語は、作中に一切登場しないんです。ぼんやり想像しみただけでも、いろんな解釈が思い浮かぶ。

 この「直接言い切ってしまわない」ところが好きです。もともと個々人で全然違うものを、でも便宜上わかりやすく大雑把に区分けする程度の言葉だとしても、やっぱりはっきりした名前で表されるとその印象が先に立ってしまう——逆説、はっきりそう呼ばないことで固定観念やイメージを先行させることなく、個人のパーソナリティとして書き上げること。前述の「想像の余地」でもあるのですけれど、それ以上にはっきり「彼女の(そして彼の)物語」に仕上げているところがとても魅力的でした。

 その上で、というかなんというか、やっぱり好きなのはいろんな解釈が考えられるところです。彼女は自分をどう捉えているのか? そして彼にはどう見えているのか? ノンセクやAセクもそうですけれど、そうでなく性に対する抵抗感(いわゆる性嫌悪)であったり、また世に言うロマンティック・ラブ・イデオロギー的なものに対して辟易しているだけなのかもしれない。この辺どれでもあり得るというか、考え続けるうちに少しずつ「あれっ、このどれでもない可能性も……?」となってしまう、この不安な感じがたまらなく好きです。

 誤読の恐怖、というか、自分が意地悪な人間になったような気分。ヒントになりそうな情報がどれもこれも危うく(地の文はすべて楠くんの主観でしかないというのもある)、特に最後一行なんかはもうものすごい爆弾投下で、それでも解釈に確信が持てないのはたぶん、自分がへたれなだけなのだと思います。なかなかに考えさせられることの多い、攻めの姿勢を感じるラブコメでした。

和田島イサキ

登録:2021/12/13 19:47

更新:2021/12/13 19:46

こちらは和田島イサキさんが読んだ当時の個人の感想です。詳細な事実については対象作品をご確認ください。

同じレビュアーの他レビュー!!

610 light-years Love

来世における巡り合いのお話(※語弊のある表現)

 約九十年の人生の締めくくり、間抜けな人生だと自嘲しながらも、でも満ち足りて往生するひとりの男性のお話。  しっとりと落ち着いた描写が胸に沁みる、切なくも優しい手触りの人間ドラマ、のようなSFです。ドSF。どうやってもネタバレになるというか、いやそもそもタグの時点で明かされてるも同然な部分なので〝そこ〟についてはもう気にせず触れてしまうのですが(困る人はいますぐ本編へ!)、シミュレーション仮説をモチーフにしたお話です。その辺りを端的かつ印象深く象徴しているのが、本作のキャッチである『あなたの愛する人は本当に実在するのでしょうか?』の一文。これ好きです。本編の内容を読み終えてからだと、より強く意味合いが強調されるような感覚(後述します)。  導入であるところの「九十年の人生」、それはすべて仮想現実だった、というところから始まる物語。宇宙船での星間航行中、どうしても持て余すことになる長い時間を潰すための、娯楽としての人生のシミュレーション。要は長い夢から覚めたようなもので、さっきまでの人生はすべて作り物でしかなかった、というのがこのお話の肝というか前提になるわけですけれど。  ここで面白いのがこの主人公、というか作中の人類全般のことなのですけれど、寿命が半永久的に続くんです。現生人類の人生一回分の時間くらいは、ほとんどあっという間の出来事。さすがに未来(千年後)の世界だけあって全然違うと、それ自体は特段なんてことはないのですけれど。  宇宙船のコンピュータによってシミュレートされた方の人生、それが千年前(作品外における現代)の世界であるということと、そして『シミュレーション仮説』というタグ。これらの意味するところというかなんというか、まあ要するにメタ的に見ることで作品の主軸とはまた別の妙味を上乗せしてくるという、この構造とそのさりげなさにニヤリとしました。あくまでも副次的に書かれている、そのお洒落というか上品な感じ。  さて、その上でその主軸、物語のメインとなるドラマなのですが。まんまとやられたというか綺麗に決まったというか、きっちり組まれた構造の綺麗さにうっとりします。単純にロマンティックないい話でもあるのですけれど、これ構造だけ見てちょっと見方を変えるなら、ある意味転生ものみたいなところもあるんですよね。いわゆる前世からの生まれ変わり、離れ離れになった運命の相手に再び巡り合うお話のような。王道であり古典でもあるその類型を、でもただSF的な設定の上に持ってきただけでなく、まったく違う手触りに変えてみせる。物語を自分の(作者自身の)ものにする、というのは、たぶんこういうことなのかなと思いました。  あと大好きなところ、というか絶対触れずにはいられないのは、やっぱり結びのあの一文。このサゲの爽快感がもう最高に好きです。伏線等も綺麗に回収しつつ、すべてがこの瞬間のために描かれた物語。とても綺麗で、しっかり壮大なSFでありながらも、その向こうから人の生を伝えてくれる素敵な作品でした。

5.0
0
和田島イサキ