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@オノログ

ごく普通のカフェでの、ちょっとおかしな一幕

5.0
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 カフェで恋人と待ち合わせ中の男性が、急に無言で相席してきた見知らぬ人の相手をする羽目になるお話。

 シンプルかつコンパクトながらも、非常にまとまりの良いショートショートです。ただ実を言いますとこの作品、内容に触れてしまうとどうしてもネタバレになってしまうところがあって、つまりこの文章はその前提で書いています。一応、ネタバレ要素は可能な限り後ろの方に寄せていますが、でも本編の約3,000文字という分量の短さもあって、できれば余計な先入観のない状態で読んでもらいたいお話。

 まず導入のわかりやすさと速さが魅力的です。見知らぬ人にいきなり相席される、という出だし。この『見知らぬ彼が一体何者であるか』がお話の主軸となるのですが、その謎の差し出し方が非常にスムーズです。単純にそこまでが早い(というか冒頭の一行目でもう始まってる)というのと、あと彼の正体を気にさせる手際というか、『少なくとも普通ではない』ことの匂わせ方がうまい。

 例えば主人公の「どちら様」という質問を受けて、ようやく名乗るべき名前がないことに気づいたような様子を見せるなど。明らかに尋常の人間ではなくて、自然とその正体が気になってしまう——という、この流れの自然さがとても好きです。興味の引きつけ方というか、物語への乗っけ方の巧みさのような。

 問題の彼(クロ)の、そのいかにも曲者という感じの人物造形も好きです。ニコニコしていて妙に親しげで、全然人の話を聞いていないくせに、でも愛想ばかりがいい男。正直〝主人公に感情移入している自分〟としては胡散臭いしいい迷惑なのですが、でも同時に〝読者という無関係な第三者としての自分〟の目からは、不思議な魅力を感じる存在です。なによりどちらの自分から見ても気になる存在には違いないのがすごい。気づけばすっかり乗せられていたという意味では主人公とまったく一緒で(今これ書いてて気づいた)、しかも最後まで読み終えてみると、この「彼が魅力的であること」がすごく生きてくるんですよね。

 というわけで肝心のお話全体の感想、というか物語の核心に関してなんですけど、よかったです。ほっとした、胸に沁みた、というニュアンスの「よかった」。実は謎は彼の正体ばかりでなく、例えばこのお話自体がどっちに振れるか最後までわからない——つまりもしかしたら悲しい話や怖い話ってこともあるかもしれないと、そう思っていたところにこのラスト。

 安心したというか、もう本当によかったです。とても嬉しいし後味もいい。なによりきっちり伏線を回収していて、ちゃんと「なるほどアレはそういうことだったのか」ってなるところが好きです。ただの不思議な話でもお話自体は成り立つのだけれど、しっかり説得力で下支えしてくれる。非常に丁寧に練られた、シンプルながらも切れ味のあるお話でした。

和田島イサキ

登録:2021/12/13 20:00

更新:2021/12/13 19:59

こちらは和田島イサキさんが読んだ当時の個人の感想です。詳細な事実については対象作品をご確認ください。

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610 light-years Love

来世における巡り合いのお話(※語弊のある表現)

 約九十年の人生の締めくくり、間抜けな人生だと自嘲しながらも、でも満ち足りて往生するひとりの男性のお話。  しっとりと落ち着いた描写が胸に沁みる、切なくも優しい手触りの人間ドラマ、のようなSFです。ドSF。どうやってもネタバレになるというか、いやそもそもタグの時点で明かされてるも同然な部分なので〝そこ〟についてはもう気にせず触れてしまうのですが(困る人はいますぐ本編へ!)、シミュレーション仮説をモチーフにしたお話です。その辺りを端的かつ印象深く象徴しているのが、本作のキャッチである『あなたの愛する人は本当に実在するのでしょうか?』の一文。これ好きです。本編の内容を読み終えてからだと、より強く意味合いが強調されるような感覚(後述します)。  導入であるところの「九十年の人生」、それはすべて仮想現実だった、というところから始まる物語。宇宙船での星間航行中、どうしても持て余すことになる長い時間を潰すための、娯楽としての人生のシミュレーション。要は長い夢から覚めたようなもので、さっきまでの人生はすべて作り物でしかなかった、というのがこのお話の肝というか前提になるわけですけれど。  ここで面白いのがこの主人公、というか作中の人類全般のことなのですけれど、寿命が半永久的に続くんです。現生人類の人生一回分の時間くらいは、ほとんどあっという間の出来事。さすがに未来(千年後)の世界だけあって全然違うと、それ自体は特段なんてことはないのですけれど。  宇宙船のコンピュータによってシミュレートされた方の人生、それが千年前(作品外における現代)の世界であるということと、そして『シミュレーション仮説』というタグ。これらの意味するところというかなんというか、まあ要するにメタ的に見ることで作品の主軸とはまた別の妙味を上乗せしてくるという、この構造とそのさりげなさにニヤリとしました。あくまでも副次的に書かれている、そのお洒落というか上品な感じ。  さて、その上でその主軸、物語のメインとなるドラマなのですが。まんまとやられたというか綺麗に決まったというか、きっちり組まれた構造の綺麗さにうっとりします。単純にロマンティックないい話でもあるのですけれど、これ構造だけ見てちょっと見方を変えるなら、ある意味転生ものみたいなところもあるんですよね。いわゆる前世からの生まれ変わり、離れ離れになった運命の相手に再び巡り合うお話のような。王道であり古典でもあるその類型を、でもただSF的な設定の上に持ってきただけでなく、まったく違う手触りに変えてみせる。物語を自分の(作者自身の)ものにする、というのは、たぶんこういうことなのかなと思いました。  あと大好きなところ、というか絶対触れずにはいられないのは、やっぱり結びのあの一文。このサゲの爽快感がもう最高に好きです。伏線等も綺麗に回収しつつ、すべてがこの瞬間のために描かれた物語。とても綺麗で、しっかり壮大なSFでありながらも、その向こうから人の生を伝えてくれる素敵な作品でした。

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和田島イサキ