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ピリピリしてるけどシュワッと爽快な初恋の味

5.0
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 高校三年生の少女の目線から描かれる、等身大の恋と青春の物語。

 それ以外に形容のしようもないくらい、まさに恋愛オブ恋愛といった風格の恋愛劇です。恋に思い悩む少女の日常。きっと不思議なことや大掛かりな事件なんかは何ひとつなくて、客観的な視点からはそこにはただ、何の変哲もない日々が続いているだけなのですけれど。でも『恋をしている』という事実ひとつが、その何もないはずの毎日を、波乱万丈な冒険の日々に変えてしまう。その感覚が生き生きと描かれていましたっていうか、もうまさに〝それ〟そのものでした。

 恋と青春をそのまま現物で持ってきたかのような迫力。ストーリーよりもキャラクターよりも(もちろんこれらがないというわけではないのですが)、ただ『恋の感覚を文章上に再現すること』だけを優先したかのような物語です。事実、カメラは主人公である咲良さんにべったり寄り添っていて(というかもうほとんど同化していて)、その時々の感情や情動に応じてくるくると色を変える文章の、その浮き沈みの激しさの醸す思春期独特の感覚。遠いあの日の青さと甘酸っぱさ。きっと他人からすればなんてことのない些細な出来事、そのひとつひとつに喜んだりあるいは不安になってみたりと、まさに恋の嵐の最中を行く感覚をそのまま文章にしたような風情。実に印象的で、なにより力強いものを感じました。

 ストーリーはこれもある種の王道と言っていいのか、特別捻ったところはない(というか何の変哲もない日常が嵐になってしまう時点で捻る必要もない)のですが、でもこの作品独自のエッセンスとして、車椅子の存在が挙げられます。主人公が恋をする相手であるところの隼人くんの移動手段。どうしてそれを使うようになったかは書かれていないのですが、でもそれゆえの悩みというか引け目というか、コンプレックスのようなものがお話の主軸にうまく作用して、物語の展開に綺麗なメリハリを生んでいるように思います。なかなか多くの人には分かってもらえない苦悩。

 また車椅子と同様に、作中に出てくるいくつかの要素、いわゆる道具立てにこだわりを感じました。タイトルにも出てくる『ソーダ』なんかがわかりやすいと思うのですけれど、作品のイメージをそのまま象徴するかのようなあれやこれや。音楽を聞く趣味とか、その曲の内容などなど。総じて非常に爽やかで、でも同時に思春期特有のヒリヒリした不安もある、まっすぐで甘酸っぱい恋愛物語でした。

和田島イサキ

登録:2021/12/13 20:01

更新:2021/12/13 20:01

こちらは和田島イサキさんが読んだ当時の個人の感想です。詳細な事実については対象作品をご確認ください。

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610 light-years Love

来世における巡り合いのお話(※語弊のある表現)

 約九十年の人生の締めくくり、間抜けな人生だと自嘲しながらも、でも満ち足りて往生するひとりの男性のお話。  しっとりと落ち着いた描写が胸に沁みる、切なくも優しい手触りの人間ドラマ、のようなSFです。ドSF。どうやってもネタバレになるというか、いやそもそもタグの時点で明かされてるも同然な部分なので〝そこ〟についてはもう気にせず触れてしまうのですが(困る人はいますぐ本編へ!)、シミュレーション仮説をモチーフにしたお話です。その辺りを端的かつ印象深く象徴しているのが、本作のキャッチである『あなたの愛する人は本当に実在するのでしょうか?』の一文。これ好きです。本編の内容を読み終えてからだと、より強く意味合いが強調されるような感覚(後述します)。  導入であるところの「九十年の人生」、それはすべて仮想現実だった、というところから始まる物語。宇宙船での星間航行中、どうしても持て余すことになる長い時間を潰すための、娯楽としての人生のシミュレーション。要は長い夢から覚めたようなもので、さっきまでの人生はすべて作り物でしかなかった、というのがこのお話の肝というか前提になるわけですけれど。  ここで面白いのがこの主人公、というか作中の人類全般のことなのですけれど、寿命が半永久的に続くんです。現生人類の人生一回分の時間くらいは、ほとんどあっという間の出来事。さすがに未来(千年後)の世界だけあって全然違うと、それ自体は特段なんてことはないのですけれど。  宇宙船のコンピュータによってシミュレートされた方の人生、それが千年前(作品外における現代)の世界であるということと、そして『シミュレーション仮説』というタグ。これらの意味するところというかなんというか、まあ要するにメタ的に見ることで作品の主軸とはまた別の妙味を上乗せしてくるという、この構造とそのさりげなさにニヤリとしました。あくまでも副次的に書かれている、そのお洒落というか上品な感じ。  さて、その上でその主軸、物語のメインとなるドラマなのですが。まんまとやられたというか綺麗に決まったというか、きっちり組まれた構造の綺麗さにうっとりします。単純にロマンティックないい話でもあるのですけれど、これ構造だけ見てちょっと見方を変えるなら、ある意味転生ものみたいなところもあるんですよね。いわゆる前世からの生まれ変わり、離れ離れになった運命の相手に再び巡り合うお話のような。王道であり古典でもあるその類型を、でもただSF的な設定の上に持ってきただけでなく、まったく違う手触りに変えてみせる。物語を自分の(作者自身の)ものにする、というのは、たぶんこういうことなのかなと思いました。  あと大好きなところ、というか絶対触れずにはいられないのは、やっぱり結びのあの一文。このサゲの爽快感がもう最高に好きです。伏線等も綺麗に回収しつつ、すべてがこの瞬間のために描かれた物語。とても綺麗で、しっかり壮大なSFでありながらも、その向こうから人の生を伝えてくれる素敵な作品でした。

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和田島イサキ