ユーザー登録・ログイン

新規登録

ログイン

作品

レビュー

登録/ログイン

その他

オノログについてFAQ利用規約プライバシーポリシー問い合わせユーザー管理者Twitter
レビューを投稿
書籍化
コミカライズ原作
ジャンル別
サイト別
サイト関連
運営している人

@オノログ

世界の殻を割って外に飛び出る雛鳥の不安と期待

5.0
0

 音楽好きの女子と読書家の男子が、ふとしたきっかけからお互いにCDや本を貸し借りするようになるお話。

 ひと夏の青春の物語です。タグにある「友達以上恋人未満」という語がまさにそのまま本作の内容を表していて、つまりこの「以上」と「未満」のバランス感覚が最高でした。なかなか着陸の難しい狭い範囲にぴったり収まってくれるというか、「これだよこれ!」みたいなストライク感。このふたりの関係を説明するのに、「友情」という語は違うし「恋愛」というのはなおのこと違和感のある、つまりそう容易には言い換えの効かない関係。だからこそ物語で語られるべきであるかのような、「このふたりだけの特別」が非常に嬉しく思える作品です。

 仲のよい男女のお話なのですけれど、そう安易に恋愛らしい部分に傾いていかないのが好みです。実際いかにもという感じの描写はほとんどなくて(個人的な印象かも)、でも「物語のその後」として勝手に夢想するのを許してくれるくらいの余地はあるという、これが読んでいて本当に心地がいい。といって、では「あくまでも友情の物語」となるかというと、それはそれでまた少しニュアンスが違うというか、実は友人関係としても日が浅かったりするのが面白いです。

 あくまで互いの趣味を貸し借りし合うだけの関係で、でも「趣味が同じ」なのではなく、互いに自分のまったく知らない世界を教え合う間柄。ここが重要というかツボといいますか、考えようによっては「恋人以上」とも取れちゃうのが本当に好き。考えようによっては恋人に対してすら望めない関係性。自分の好きなものってそれこそ自分を形作るもので、それを他人に受容してもらえるかどうかって、すごくドキドキするものだと思うんですよね。不安と、そして受け入れてもらえた瞬間の嬉しさと。そういうものがさらりと、でもくっきり食い込んでくる形で描かれているのが、もう本当に青春という感じでたまりませんでした。この『前向きな不安』って最高じゃありません?

 その上で、というかなんというか、このお話の内容というか筋というか、向かう先の力強さが素敵でした。若干ネタバレになりますがタグにもあるので言ってしまいますと、このお話は『創作』の物語です。つまりはこう、さっき言った『自分を形作るものを需要してもらえるかの不安と期待』が、中盤からそのままいきなり十倍くらい濃厚になって(正確にはその可能性を匂わせる形から入るのですが)、あるいはそれと似たような経験があればこその感想なのかもしれませんが、でもその書き方・組み上げ方がもう本当にすごい。

 構成の面でのテクニカルさ。というのもこのお話、実は結構実験的なところがあって、主人公ふたりの視点を交互に行き来する形で描かれているんです。これがもう、本当に、すんごい活きているというかなるほどこの構成でなければこれは描き出せなかったというか、こういう『仕掛け』のようなものがしっかり仕掛けとして、作者の意図通りに機能している(そして読者としてそれに見事に嵌められる)感覚は、それだけでものすんごく楽しくなってしまうものがあります。

 というわけで、ここまで述べてきた主観的な感想というか、「嬉しく」「心地がいい」「楽しくなって」等々からも分かる通り、とにかく幸せな作品です。ハラハラする不安だって期待の裏返し、嫌なことや重たいものは全然なくて、とにかく前へと拓けていく、まさに「ハッピーエンド!」という感覚を与えてくれる作品でした。素直に好きになれる物語だと思います。

和田島イサキ

登録:2021/12/13 20:04

更新:2021/12/13 20:04

こちらは和田島イサキさんが読んだ当時の個人の感想です。詳細な事実については対象作品をご確認ください。

同じレビュアーの他レビュー!!

610 light-years Love

来世における巡り合いのお話(※語弊のある表現)

 約九十年の人生の締めくくり、間抜けな人生だと自嘲しながらも、でも満ち足りて往生するひとりの男性のお話。  しっとりと落ち着いた描写が胸に沁みる、切なくも優しい手触りの人間ドラマ、のようなSFです。ドSF。どうやってもネタバレになるというか、いやそもそもタグの時点で明かされてるも同然な部分なので〝そこ〟についてはもう気にせず触れてしまうのですが(困る人はいますぐ本編へ!)、シミュレーション仮説をモチーフにしたお話です。その辺りを端的かつ印象深く象徴しているのが、本作のキャッチである『あなたの愛する人は本当に実在するのでしょうか?』の一文。これ好きです。本編の内容を読み終えてからだと、より強く意味合いが強調されるような感覚(後述します)。  導入であるところの「九十年の人生」、それはすべて仮想現実だった、というところから始まる物語。宇宙船での星間航行中、どうしても持て余すことになる長い時間を潰すための、娯楽としての人生のシミュレーション。要は長い夢から覚めたようなもので、さっきまでの人生はすべて作り物でしかなかった、というのがこのお話の肝というか前提になるわけですけれど。  ここで面白いのがこの主人公、というか作中の人類全般のことなのですけれど、寿命が半永久的に続くんです。現生人類の人生一回分の時間くらいは、ほとんどあっという間の出来事。さすがに未来(千年後)の世界だけあって全然違うと、それ自体は特段なんてことはないのですけれど。  宇宙船のコンピュータによってシミュレートされた方の人生、それが千年前(作品外における現代)の世界であるということと、そして『シミュレーション仮説』というタグ。これらの意味するところというかなんというか、まあ要するにメタ的に見ることで作品の主軸とはまた別の妙味を上乗せしてくるという、この構造とそのさりげなさにニヤリとしました。あくまでも副次的に書かれている、そのお洒落というか上品な感じ。  さて、その上でその主軸、物語のメインとなるドラマなのですが。まんまとやられたというか綺麗に決まったというか、きっちり組まれた構造の綺麗さにうっとりします。単純にロマンティックないい話でもあるのですけれど、これ構造だけ見てちょっと見方を変えるなら、ある意味転生ものみたいなところもあるんですよね。いわゆる前世からの生まれ変わり、離れ離れになった運命の相手に再び巡り合うお話のような。王道であり古典でもあるその類型を、でもただSF的な設定の上に持ってきただけでなく、まったく違う手触りに変えてみせる。物語を自分の(作者自身の)ものにする、というのは、たぶんこういうことなのかなと思いました。  あと大好きなところ、というか絶対触れずにはいられないのは、やっぱり結びのあの一文。このサゲの爽快感がもう最高に好きです。伏線等も綺麗に回収しつつ、すべてがこの瞬間のために描かれた物語。とても綺麗で、しっかり壮大なSFでありながらも、その向こうから人の生を伝えてくれる素敵な作品でした。

5.0
0
和田島イサキ