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ハッピーエンド、あるいは喜劇

5.0
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 とある青年の起こした殺人事件、その足跡を辿る弁護士のお話。

 上記の一文の他に、何も説明できる気がしません。例えばこの作品を誰かに紹介するにあたって、まずざっくりしたジャンル名からして思い浮かばないレベル。こういうお話、なんと呼べばいいのでしょう……例えば「なんだか翻訳ものの名作文学のよう」というのは、そりゃ「あくまでいち個人の感想」という意味では間違いではないのでしょうけれど、でもなんかいかにもアホっぽい感想で恥ずかしいというか。どうにも言いようがないです。そして言いようがないお話というものは、それだけでもう〝替えが効かない〟ということでもあったりして、つまり面白いので本当に困ります。どうしよう……。

 引き付けられたというのか、ぐいぐい引っ張られるみたいにして読みました。書かれているのはひとりの青年の小さな恋と、それが敗れた末の悲劇的な結末。すんごい雑な丸め方をするなら『ふられた腹いせに相手を刺しちゃうお話』なのですけれど、まあこう、すごい。何が? 迫力……というのもまた違うんですけど、人のありようというか心の置きどころというか、なんかぐいぐい持って行かれるんです。なんでしょう本当。とりあえず文章が達者で読みやすいのは間違いないんですけど。スルスル読めちゃう。しかも頭の中にしっかり残る。別段わかりやすい派手さがあるわけでもないのに、でもはっきりしていて強い文。

 お話の筋、というか書かれているものというか、明らかに響くものがあったのですけれど、正直言って言語化が非常に困難です。これはもう本格的な批評でもないと解体しきれないのではないか、という予感があって、つまり何もできないので震えています。それでも拙いなりに言語化を試みるのであれば、とどのつまりは『貧しさ』という語に収斂されるお話ではないかと、少なくとも自分はそのように読みました。

 青年ユルバックの狭い世界、その貧しい想像力。あまりにも拙い先走りの恋や、その落とし前をあんな形でつけるしかなかったこと。また冒頭の虚勢、死ぬ勇気にこだわるところや、それを簡単に覆してしまうところも。貧すればなんとやら、結び付近の展開なんかはもうまさにというか、いえだめですやっぱり全然違う気がしてきた。ていうか違う。こうじゃない、これじゃないんですよ自分の〝好き〟は。本当に言いようがないので、ただ本文を読んでくださいとしか言えません。

 凄かったです。何が凄かったのかすら説明できない。なんだか深く静かに圧倒されたような、ただとにかく強い物語でした。面白かったです!

和田島イサキ

登録:2021/12/13 20:09

更新:2021/12/13 20:09

こちらは和田島イサキさんが読んだ当時の個人の感想です。詳細な事実については対象作品をご確認ください。

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610 light-years Love

来世における巡り合いのお話(※語弊のある表現)

 約九十年の人生の締めくくり、間抜けな人生だと自嘲しながらも、でも満ち足りて往生するひとりの男性のお話。  しっとりと落ち着いた描写が胸に沁みる、切なくも優しい手触りの人間ドラマ、のようなSFです。ドSF。どうやってもネタバレになるというか、いやそもそもタグの時点で明かされてるも同然な部分なので〝そこ〟についてはもう気にせず触れてしまうのですが(困る人はいますぐ本編へ!)、シミュレーション仮説をモチーフにしたお話です。その辺りを端的かつ印象深く象徴しているのが、本作のキャッチである『あなたの愛する人は本当に実在するのでしょうか?』の一文。これ好きです。本編の内容を読み終えてからだと、より強く意味合いが強調されるような感覚(後述します)。  導入であるところの「九十年の人生」、それはすべて仮想現実だった、というところから始まる物語。宇宙船での星間航行中、どうしても持て余すことになる長い時間を潰すための、娯楽としての人生のシミュレーション。要は長い夢から覚めたようなもので、さっきまでの人生はすべて作り物でしかなかった、というのがこのお話の肝というか前提になるわけですけれど。  ここで面白いのがこの主人公、というか作中の人類全般のことなのですけれど、寿命が半永久的に続くんです。現生人類の人生一回分の時間くらいは、ほとんどあっという間の出来事。さすがに未来(千年後)の世界だけあって全然違うと、それ自体は特段なんてことはないのですけれど。  宇宙船のコンピュータによってシミュレートされた方の人生、それが千年前(作品外における現代)の世界であるということと、そして『シミュレーション仮説』というタグ。これらの意味するところというかなんというか、まあ要するにメタ的に見ることで作品の主軸とはまた別の妙味を上乗せしてくるという、この構造とそのさりげなさにニヤリとしました。あくまでも副次的に書かれている、そのお洒落というか上品な感じ。  さて、その上でその主軸、物語のメインとなるドラマなのですが。まんまとやられたというか綺麗に決まったというか、きっちり組まれた構造の綺麗さにうっとりします。単純にロマンティックないい話でもあるのですけれど、これ構造だけ見てちょっと見方を変えるなら、ある意味転生ものみたいなところもあるんですよね。いわゆる前世からの生まれ変わり、離れ離れになった運命の相手に再び巡り合うお話のような。王道であり古典でもあるその類型を、でもただSF的な設定の上に持ってきただけでなく、まったく違う手触りに変えてみせる。物語を自分の(作者自身の)ものにする、というのは、たぶんこういうことなのかなと思いました。  あと大好きなところ、というか絶対触れずにはいられないのは、やっぱり結びのあの一文。このサゲの爽快感がもう最高に好きです。伏線等も綺麗に回収しつつ、すべてがこの瞬間のために描かれた物語。とても綺麗で、しっかり壮大なSFでありながらも、その向こうから人の生を伝えてくれる素敵な作品でした。

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和田島イサキ