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決して『出落ち』には終わらない、どこまでも強い王道のエンタメ小説

5.0
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 海難事故に遭い無人島に漂着した青年と、同じく遭難したお嬢様のサバイバル冒険譚。

 勢いとパワーのあるコメディ作品、には違いないのですけれど、でも決してそれだけにとどまらないお話です。一見飛び道具的というかむしろ出落ち気味というか、奇抜な設定が売りのお話のようにも見えるのですけれど、さにあらず。

 いやその辺りも別に嘘ではないというか、タイトルやキャッチから受ける強烈な印象そのままにお話が展開していくのは事実で、でもその先にあるものが本当にすごかった。王道かつ正統派のボーイ・ミーツ・ガール、ひとりの青年の冒険譚であり、そして成長物語。

 本当にもう、ただただ「よかった……」となるお話。なにどうよかったか、どういうラインの「よい」なのかと言えば、「こういうお話が読みたかった!」というような感覚。誤解を招きそうですけどそれでもあえて言いますと、自分の中ではこういう物語を『ライトノベル(少年向け)』の基本線であり理想系と捉えています。ジュブナイルをエンタメ小説の形に徹底的にはめ込んだ作品。太古の昔より伝わる王道を王道のままに、ものすごく食べやすい味付けにしてしまう神業のようなお話。

 総じて、この作品の姿勢そのものが大好きなのですけれど、特にクローズアップして言及するのであれば、やっぱり登場人物のキャラクター性が好きです。

 例えば、本作無二のヒロインたるお嬢様。相当に風変わりで個性的で、でもその突飛さがあくまで自然な範囲に着地しているところ。一見めちゃくちゃなようでいて、でもしっかり地に足のついたひとりの人間として描かれているのがわかって、だから尖っていても浮ついてはいない、身近な存在として認識できる。彼女のわかりやすい設定(お嬢様然としたところ等)はあくまで取っ掛かりでしかなく、その本当の魅力はもっと軸の部分というか、〝物語に沿わなければ見えてこない程度には深いところ〟にある、というこの造形。

 惚れ惚れします。というか、惚れました。いわゆる「魅力的なヒロイン」って、ここまでやらないと張れないんですよね。相当なことで、それは主人公についても同じです。詳細は割愛します(というか読めば一発でわかると思います)が、最高でした。完璧に役割を果たしていたし、して欲しいこと(あるいはそれ以上)をちゃんとやってくれる主人公! そうだよ! それが見たかった! お前最高! 好き!

 いやもう、本当、面白かったです。面白かったし最高でした。繰り返しになってしまうんですけど、こういうお話が読みたかったんです。もちろんネタ成分というかパッと見の飛び道具感も大好きで、それがトラップのように働いたというか、コメディとしての面白さをデコイに王道勝負を仕掛けてくる、この豪腕っぷりがもうただただ好きです。太くて強い物語。娯楽作品としての理想系を見た思いでした。

和田島イサキ

登録:2021/12/13 20:11

更新:2021/12/13 20:10

こちらは和田島イサキさんが読んだ当時の個人の感想です。詳細な事実については対象作品をご確認ください。

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610 light-years Love

来世における巡り合いのお話(※語弊のある表現)

 約九十年の人生の締めくくり、間抜けな人生だと自嘲しながらも、でも満ち足りて往生するひとりの男性のお話。  しっとりと落ち着いた描写が胸に沁みる、切なくも優しい手触りの人間ドラマ、のようなSFです。ドSF。どうやってもネタバレになるというか、いやそもそもタグの時点で明かされてるも同然な部分なので〝そこ〟についてはもう気にせず触れてしまうのですが(困る人はいますぐ本編へ!)、シミュレーション仮説をモチーフにしたお話です。その辺りを端的かつ印象深く象徴しているのが、本作のキャッチである『あなたの愛する人は本当に実在するのでしょうか?』の一文。これ好きです。本編の内容を読み終えてからだと、より強く意味合いが強調されるような感覚(後述します)。  導入であるところの「九十年の人生」、それはすべて仮想現実だった、というところから始まる物語。宇宙船での星間航行中、どうしても持て余すことになる長い時間を潰すための、娯楽としての人生のシミュレーション。要は長い夢から覚めたようなもので、さっきまでの人生はすべて作り物でしかなかった、というのがこのお話の肝というか前提になるわけですけれど。  ここで面白いのがこの主人公、というか作中の人類全般のことなのですけれど、寿命が半永久的に続くんです。現生人類の人生一回分の時間くらいは、ほとんどあっという間の出来事。さすがに未来(千年後)の世界だけあって全然違うと、それ自体は特段なんてことはないのですけれど。  宇宙船のコンピュータによってシミュレートされた方の人生、それが千年前(作品外における現代)の世界であるということと、そして『シミュレーション仮説』というタグ。これらの意味するところというかなんというか、まあ要するにメタ的に見ることで作品の主軸とはまた別の妙味を上乗せしてくるという、この構造とそのさりげなさにニヤリとしました。あくまでも副次的に書かれている、そのお洒落というか上品な感じ。  さて、その上でその主軸、物語のメインとなるドラマなのですが。まんまとやられたというか綺麗に決まったというか、きっちり組まれた構造の綺麗さにうっとりします。単純にロマンティックないい話でもあるのですけれど、これ構造だけ見てちょっと見方を変えるなら、ある意味転生ものみたいなところもあるんですよね。いわゆる前世からの生まれ変わり、離れ離れになった運命の相手に再び巡り合うお話のような。王道であり古典でもあるその類型を、でもただSF的な設定の上に持ってきただけでなく、まったく違う手触りに変えてみせる。物語を自分の(作者自身の)ものにする、というのは、たぶんこういうことなのかなと思いました。  あと大好きなところ、というか絶対触れずにはいられないのは、やっぱり結びのあの一文。このサゲの爽快感がもう最高に好きです。伏線等も綺麗に回収しつつ、すべてがこの瞬間のために描かれた物語。とても綺麗で、しっかり壮大なSFでありながらも、その向こうから人の生を伝えてくれる素敵な作品でした。

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和田島イサキ