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煌びやかな映像の洪水に呑まれる

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 荒廃した終末世界、ときに廃墟に転がるジャンクをあさり、また怪物らしきものから逃れながら、日々生きてゆくふたりの少女のお話。

 終末ものSFです。タグに偽りなし、ポストアポカリプスでサイバーパンクな物語。これらの語から想像されるものというか、欲しいと期待するものをしっかり提供してくれる作品で、とっぷり浸りながら読みました。

 没入感というか、現実とはかけ離れた世界を描いているのに、そこへと引き込む手際が非常に鮮やかです。例えば何らかの敵に追われる冒頭や、そのあとの生き生きした食事の場面など。外敵による生命の危機、そして生命維持のための栄養摂取。いずれも生に直結した行為で、つまりただガジェットや技術が登場するのみでなく、それらを『そこに生きること』を通じて描き出している。この世界設定の飲み込ませ方がものすごく自然で、気づけば物語の中に取り込まれていたような感覚。

 また肝心要のSF要素、この世界をサイバーパンクたらしめる技術的な部分もゴリゴリ刺さりました。具体的には映獣や〈くらやみ〉の正体など。理屈というか原理というかがしっかり組み上げてあって、それが現実の技術に立脚しているところ。あんまり難しすぎない程度にちゃんと「難しい」を与えてくれるというか、SFというジャンルでなければ出せないタイプの魅力をちゃんと織り込んであるのが嬉しいです。

 その上でとにかく魅力的だったのが、そのSF要素によって描き出されたもの。つまりはクライマックスの映像美です。いやもう、その、すごかった……本当にただただ圧倒されるばかりで、脳内に次々炸裂する映像の花火というか、もうあの辺の盛り上がりが尋常でない。一文一文読むごとにテンションが上がる。単純に筆力もあるのでしょうけどそれだけではなくて、〝この世界〟と理解した上で読むからこその上がり方。きっちり組み上げた設定があって、そこに読む人間がしっかり乗った状態だからこそ、初めて100%の威力を発揮する文章。こういうの本当に好きです。仮にそこだけピックアップされて出されたとしてもこの光景は見えないはずで、つまりこれこそが「物語を文章として読むこと」の魅力なのだと思います。

 総じて、鮮やかかつ骨太なSFでした。お話の筋というかストーリーも好きです。特に最後、というか最後へとつながる要素というか、『幸せ(ハッピーエンド)』というものの扱い方。それが出てきてからの、そこに向かって進んでいく感じ。好き。幸せについて考える彼女が、その過程で自分なりの答えというか、何か自分の心にケリをつけるとようなところも。荒涼とした世界の中、生きることについてしっかりと捉えた、幸せへと向かっていく人々の物語でした。

和田島イサキ

登録:2021/12/13 20:20

更新:2021/12/13 20:20

こちらは和田島イサキさんが読んだ当時の個人の感想です。詳細な事実については対象作品をご確認ください。

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610 light-years Love

来世における巡り合いのお話(※語弊のある表現)

 約九十年の人生の締めくくり、間抜けな人生だと自嘲しながらも、でも満ち足りて往生するひとりの男性のお話。  しっとりと落ち着いた描写が胸に沁みる、切なくも優しい手触りの人間ドラマ、のようなSFです。ドSF。どうやってもネタバレになるというか、いやそもそもタグの時点で明かされてるも同然な部分なので〝そこ〟についてはもう気にせず触れてしまうのですが(困る人はいますぐ本編へ!)、シミュレーション仮説をモチーフにしたお話です。その辺りを端的かつ印象深く象徴しているのが、本作のキャッチである『あなたの愛する人は本当に実在するのでしょうか?』の一文。これ好きです。本編の内容を読み終えてからだと、より強く意味合いが強調されるような感覚(後述します)。  導入であるところの「九十年の人生」、それはすべて仮想現実だった、というところから始まる物語。宇宙船での星間航行中、どうしても持て余すことになる長い時間を潰すための、娯楽としての人生のシミュレーション。要は長い夢から覚めたようなもので、さっきまでの人生はすべて作り物でしかなかった、というのがこのお話の肝というか前提になるわけですけれど。  ここで面白いのがこの主人公、というか作中の人類全般のことなのですけれど、寿命が半永久的に続くんです。現生人類の人生一回分の時間くらいは、ほとんどあっという間の出来事。さすがに未来(千年後)の世界だけあって全然違うと、それ自体は特段なんてことはないのですけれど。  宇宙船のコンピュータによってシミュレートされた方の人生、それが千年前(作品外における現代)の世界であるということと、そして『シミュレーション仮説』というタグ。これらの意味するところというかなんというか、まあ要するにメタ的に見ることで作品の主軸とはまた別の妙味を上乗せしてくるという、この構造とそのさりげなさにニヤリとしました。あくまでも副次的に書かれている、そのお洒落というか上品な感じ。  さて、その上でその主軸、物語のメインとなるドラマなのですが。まんまとやられたというか綺麗に決まったというか、きっちり組まれた構造の綺麗さにうっとりします。単純にロマンティックないい話でもあるのですけれど、これ構造だけ見てちょっと見方を変えるなら、ある意味転生ものみたいなところもあるんですよね。いわゆる前世からの生まれ変わり、離れ離れになった運命の相手に再び巡り合うお話のような。王道であり古典でもあるその類型を、でもただSF的な設定の上に持ってきただけでなく、まったく違う手触りに変えてみせる。物語を自分の(作者自身の)ものにする、というのは、たぶんこういうことなのかなと思いました。  あと大好きなところ、というか絶対触れずにはいられないのは、やっぱり結びのあの一文。このサゲの爽快感がもう最高に好きです。伏線等も綺麗に回収しつつ、すべてがこの瞬間のために描かれた物語。とても綺麗で、しっかり壮大なSFでありながらも、その向こうから人の生を伝えてくれる素敵な作品でした。

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和田島イサキ