ユーザー登録・ログイン

新規登録

ログイン

作品

レビュー

登録/ログイン

その他

オノログについてFAQ利用規約プライバシーポリシー問い合わせユーザー管理者Twitter
レビューを投稿
書籍化
コミカライズ原作
ジャンル別
サイト別
サイト関連
運営している人

@オノログ

過去の傷を上書きするのは大事な人の幸せ

5.0
0

 幼少期、戦後の食料事情から散々かぼちゃばかりを食べさせられた女性が、長い年月を経てそのトラウマを克服するまでのお話。

 かっちりした手触りの現代ドラマです。いい話、なんて言い方ではあまりにも漠然としているのですけれど、でも本当に心温まるいい話。

 食卓に上るかぼちゃを題材に、ひとりの女性の人生の足跡を振り返るお話で、『食』によって世界を切り取るアプローチの丁寧さと、時代の移り変わりを感じさせる時間のたたみ方が光っていました。特に魅力的なのがその現実性の手堅さ。謎や事件や不思議が一切出てこない、ひとりの人間の人生をただそのまま描いた、その姿勢というか物語自体のコンセプトのようなものが嬉しい作品でした。

 少し風変わり、というか読み始めてすぐに目を引かれるのは、構成(形式?)の独特さです。一話おきに時制が切り替わり、特に偶数話は現代からの視点となっているところ。つまり本作は主人公が現在から過去を振り返る形式のお話で、この構成が非常に技巧的でした。現代パートは比較的短く、全体のリズムを整えるような役割も果たしているのですけれど、でもそれ以上に好きなのは、先に解決を予告している点。

 というのもこのお話、実質的にトラウマに苦しむ様子を描いた物語には違いなく、またその発端も戦後の食糧難というシビアな現実だったりするわけです。もしそのまま時系列順に語ったなら、きっとどうあがいても暗い話になるであろうところ、でも先に現代を見せることでその重さを回避している。おかげで読んでいて辛くないというか、少なくとも先の見えない暗闇の中を歩いているような感覚はなくて、そしてそれこそが本作の肝、あるいは一番大事なところです。このどこまでも優しく晴れやかな読後感は、きっとこの構成であればこそのもの。

 そして「辛くない」とは言ったものの、でも好きなのはやっぱりこの過去の出来事。発端となった幼少期の思い出を皮切りに、青春期に出会った意外な救済(というほどではないにせよ、でも重荷を少し分け合えたような小さな救い)、そしてそれを『乗り越えるべきもの』として対峙する母としての日々。それぞれにしっかりとした手応えがあり、まただからこそ描き出される彼女の成長の、その自然さが胸に沁み入るかのようでした。

 伯母さんの嫌なやつっぷりと、あと前山さんのちょい役っぷり(※語弊のある表現)がものすごく好きです。特に後者。人生のうちの一瞬関わっただけだけど、でも強く胸に刻まれる人。総じて、大袈裟な舞台装置や派手なレトリックに頼ることのない、どこまでも堅実で実直な人間のドラマでした。

和田島イサキ

登録:2021/12/13 20:48

更新:2021/12/13 20:48

こちらは和田島イサキさんが読んだ当時の個人の感想です。詳細な事実については対象作品をご確認ください。

同じレビュアーの他レビュー!!

610 light-years Love

来世における巡り合いのお話(※語弊のある表現)

 約九十年の人生の締めくくり、間抜けな人生だと自嘲しながらも、でも満ち足りて往生するひとりの男性のお話。  しっとりと落ち着いた描写が胸に沁みる、切なくも優しい手触りの人間ドラマ、のようなSFです。ドSF。どうやってもネタバレになるというか、いやそもそもタグの時点で明かされてるも同然な部分なので〝そこ〟についてはもう気にせず触れてしまうのですが(困る人はいますぐ本編へ!)、シミュレーション仮説をモチーフにしたお話です。その辺りを端的かつ印象深く象徴しているのが、本作のキャッチである『あなたの愛する人は本当に実在するのでしょうか?』の一文。これ好きです。本編の内容を読み終えてからだと、より強く意味合いが強調されるような感覚(後述します)。  導入であるところの「九十年の人生」、それはすべて仮想現実だった、というところから始まる物語。宇宙船での星間航行中、どうしても持て余すことになる長い時間を潰すための、娯楽としての人生のシミュレーション。要は長い夢から覚めたようなもので、さっきまでの人生はすべて作り物でしかなかった、というのがこのお話の肝というか前提になるわけですけれど。  ここで面白いのがこの主人公、というか作中の人類全般のことなのですけれど、寿命が半永久的に続くんです。現生人類の人生一回分の時間くらいは、ほとんどあっという間の出来事。さすがに未来(千年後)の世界だけあって全然違うと、それ自体は特段なんてことはないのですけれど。  宇宙船のコンピュータによってシミュレートされた方の人生、それが千年前(作品外における現代)の世界であるということと、そして『シミュレーション仮説』というタグ。これらの意味するところというかなんというか、まあ要するにメタ的に見ることで作品の主軸とはまた別の妙味を上乗せしてくるという、この構造とそのさりげなさにニヤリとしました。あくまでも副次的に書かれている、そのお洒落というか上品な感じ。  さて、その上でその主軸、物語のメインとなるドラマなのですが。まんまとやられたというか綺麗に決まったというか、きっちり組まれた構造の綺麗さにうっとりします。単純にロマンティックないい話でもあるのですけれど、これ構造だけ見てちょっと見方を変えるなら、ある意味転生ものみたいなところもあるんですよね。いわゆる前世からの生まれ変わり、離れ離れになった運命の相手に再び巡り合うお話のような。王道であり古典でもあるその類型を、でもただSF的な設定の上に持ってきただけでなく、まったく違う手触りに変えてみせる。物語を自分の(作者自身の)ものにする、というのは、たぶんこういうことなのかなと思いました。  あと大好きなところ、というか絶対触れずにはいられないのは、やっぱり結びのあの一文。このサゲの爽快感がもう最高に好きです。伏線等も綺麗に回収しつつ、すべてがこの瞬間のために描かれた物語。とても綺麗で、しっかり壮大なSFでありながらも、その向こうから人の生を伝えてくれる素敵な作品でした。

5.0
0
和田島イサキ