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『〝物語〟にまつわる実話』風の物語

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 主演女優の命を奪う呪われた舞台演劇と、その呪いに巻き込まれた劇団員、そして彼ら相談を受けた都市伝説ハンターのお話。

 実録ルポ風のホラーです。より正確には「実録ルポ風のホラー風の物語」といった趣の作品。 お話の持つカタルシスの方向性というか、要は面白さの軸のようなものが、巧妙にスライドしていくような感覚。ただこれは「フェイント」や「騙し」といったものではなく、どちらかといえば形態模写、いわゆるパスティーシュの楽しみというべきものではないかと思います。

 見た目のホラー感、「怪異による恐怖を読者に与える」というのはあくまで表面上の形式にすぎず、実際には「事件の発生とその解決(及び謎の解明)」にこそ物語の面白みがある。非常に凝った構造の作品で、メタ構造(というかある種の建前のようなもの)をうまく使ったお話でした。

 と、こう書くとなんだか難解なお話のようですけれど、でも難しいところはまったくないというのがまたすごい。単純に構成面、例えば章題一覧を見ても入り組んでいるのは明らかなのに、でも普通に真っ直ぐ読んでいける。この構成、劇中劇の場面(幕とつく回)と都市伝説ハンターによるルポ(Chapterで始まる回)とが交互に並んでいるのですけれど、でもただの演出かと思えばそうではなく。この二本の流れが最終回、ぴったり収束するのが心地良かったです。

 以下はネタバレになります。それも未読の方は絶対見ないほうがいいやつなのでご注意ください。

 事件の真相、というか、そこへとなだれ込むための強烈なフックというか、具体的には第五話『五幕』の一番最後の一文がもう大好き。やられました。これでやられない人間はいない……こういう不意打ちは大好物というか、この舞台装置は不意打ちで使ってこそというか、そんな「よくぞやってくれた」というような爽快感ももちろんあるのですけれど。

 なにより好き、というかもう手放しで称賛できるのが、〝それ〟が一切の無理なく物語に合流しているところ。

 初見のインパクトとは裏腹に、その存在をしっかりストーリーとして理屈づけられ、なによりそれが物語上の最大の鍵として機能していること。その丁寧さと、そして物語自体の真剣さ。どう見てもふざけているとしか思えない一撃を解き放っておきながら、でも物語そのものに対してはなにひとつふざけることはなく、ただ王道の結末に向けてしっかり歩き通す。この感動、というか盛り上がりはもう、どう言葉にしていいかわからないくらいです。なんというか、「そうだよこうでなきゃ!」というような。もう本当に大好き。

 結末が好きです。悲劇からの救出という、まさに文句なしのハッピーエンド。実質的にはホラーではないからこその終わり方というか、この幕切れだからこそホラーたり得ないというか。いずれにせよ本気でストーリーを貫き通してくれる、その手抜きのなさが気持ちの良い作品でした。やっぱり〝それ〟が好きです。あの瞬間のインパクト。最高。

和田島イサキ

登録:2021/12/13 20:53

更新:2021/12/13 20:52

こちらは和田島イサキさんが読んだ当時の個人の感想です。詳細な事実については対象作品をご確認ください。

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610 light-years Love

来世における巡り合いのお話(※語弊のある表現)

 約九十年の人生の締めくくり、間抜けな人生だと自嘲しながらも、でも満ち足りて往生するひとりの男性のお話。  しっとりと落ち着いた描写が胸に沁みる、切なくも優しい手触りの人間ドラマ、のようなSFです。ドSF。どうやってもネタバレになるというか、いやそもそもタグの時点で明かされてるも同然な部分なので〝そこ〟についてはもう気にせず触れてしまうのですが(困る人はいますぐ本編へ!)、シミュレーション仮説をモチーフにしたお話です。その辺りを端的かつ印象深く象徴しているのが、本作のキャッチである『あなたの愛する人は本当に実在するのでしょうか?』の一文。これ好きです。本編の内容を読み終えてからだと、より強く意味合いが強調されるような感覚(後述します)。  導入であるところの「九十年の人生」、それはすべて仮想現実だった、というところから始まる物語。宇宙船での星間航行中、どうしても持て余すことになる長い時間を潰すための、娯楽としての人生のシミュレーション。要は長い夢から覚めたようなもので、さっきまでの人生はすべて作り物でしかなかった、というのがこのお話の肝というか前提になるわけですけれど。  ここで面白いのがこの主人公、というか作中の人類全般のことなのですけれど、寿命が半永久的に続くんです。現生人類の人生一回分の時間くらいは、ほとんどあっという間の出来事。さすがに未来(千年後)の世界だけあって全然違うと、それ自体は特段なんてことはないのですけれど。  宇宙船のコンピュータによってシミュレートされた方の人生、それが千年前(作品外における現代)の世界であるということと、そして『シミュレーション仮説』というタグ。これらの意味するところというかなんというか、まあ要するにメタ的に見ることで作品の主軸とはまた別の妙味を上乗せしてくるという、この構造とそのさりげなさにニヤリとしました。あくまでも副次的に書かれている、そのお洒落というか上品な感じ。  さて、その上でその主軸、物語のメインとなるドラマなのですが。まんまとやられたというか綺麗に決まったというか、きっちり組まれた構造の綺麗さにうっとりします。単純にロマンティックないい話でもあるのですけれど、これ構造だけ見てちょっと見方を変えるなら、ある意味転生ものみたいなところもあるんですよね。いわゆる前世からの生まれ変わり、離れ離れになった運命の相手に再び巡り合うお話のような。王道であり古典でもあるその類型を、でもただSF的な設定の上に持ってきただけでなく、まったく違う手触りに変えてみせる。物語を自分の(作者自身の)ものにする、というのは、たぶんこういうことなのかなと思いました。  あと大好きなところ、というか絶対触れずにはいられないのは、やっぱり結びのあの一文。このサゲの爽快感がもう最高に好きです。伏線等も綺麗に回収しつつ、すべてがこの瞬間のために描かれた物語。とても綺麗で、しっかり壮大なSFでありながらも、その向こうから人の生を伝えてくれる素敵な作品でした。

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和田島イサキ