作者さまはプロのシンガーで作詞作曲もされる。詩人の言葉はところどころ、美しく光芒を放っている。
例えば、「屋上はいつも自由に近いところにあるように思えた」という一文、いったい何人が書けるだろうか。わたしなどは単純だから、もうこの一文だけで「僕」の孤独な世界に連れ去られてしまう。
みなさんもぜひお気に入りのセンテンスを探してみてほしい。
内容にも少し触れておこう。、
孤独な生い立ちの(おそらくネグレクトされてきた)僕が、家族の豊かな愛情に包まれて育った彼女のおおらかな気質と態度で少しずつ少しずつ他人を受け入れることができるようになっていく過程が繊細に綴られている。詩人はかくも克明かつ鮮明に出来事を記憶し再現できるのだと驚かされた。それは本人にとってはつらいことに違いないが、読み手にとってはひどく幸福なのである。
本作は詩人の手になる第一級の青春小説である。
登録:2021/12/16 16:58
更新:2021/12/16 16:57