タイトルが意味深です。やがて死に至る幸福。幸福が死に至るとはどういうことなのでしょうか。
こちらは、意図的ではないとは言え、竜の子を殺してしまった夫婦の両方の視点から語られる物語です。
母竜の気持ちも、父竜の気持ちもわかります。しかし結果的に妻は死に至る呪いをかけられてしまう。
自身の一部を犠牲にしてまで、妻に呪いをかけた竜の言葉はとても重たいものです。妻のせいで死んでしまった竜の子を思いながら生きる。それはきっと竜が与えた罰なのでしょう。
夫は呪いのもとである竜を殺そうと力をつけてゆき……竜伐の英雄と呼ばれるようになる、運命の日がやってきました。
しかし果たして夫は竜を殺す必要があったのでしょうか。
どちらが正しいとか悪いとか、そういった話ではない。どちらにも立場があるのです。
なんだかとても複雑な気持ちにさせられました。正義とはひとつではないことがよくわかります。そして妻が夫に遺した手紙でわかるタイトルの意味。
名もなき語り部が、最後に救いと希望をもたらしているようにも思えました。
悲しくもどこか幸せな気持ちを残してくれる、素敵なお話です。
登録:2022/6/5 12:53
更新:2022/6/5 12:56