クトゥルフ神話の一ページとして、現代を生きる少年少女が譲れないもののために、必死で頑張るヘヴィノベルとでもいうべき傑作。
旧きよきゼロ年代のノベルゲームの重厚な味わいを残しつつ、約束された結末に向かって突き進むスピード感がたまらない。
いくつかの物語が相互に作用するアンソロジー的な性質を持っているこの作品だが、一つ一つの物語が秀逸であり、また出色が鮮やかに違うため、何処までも読者を飽きさせない作りになっている。
クトゥルフ神話といえば狂気の物語として有名だが、安易に狂う人間など存在せず、登場人物はみな大切なもののために最後まで足掻ききってみせてくれる。
そういった意味では、生命賛歌としても楽しむことができ、個人的には大変嬉しかった。
こんな作品を読みたかったという思いと、書きたかったなぁという痛痒に支配される不思議な読み心地である。
とくに少女同士の関係性の描写は白眉であり、胸がキュンとしたりキュッとする。
暗黒神話として楽しむもよし。
青春エンターテイメントとしてワクワクするもよし。
あるいは不吉な影に怯えるのもよい。
じつに多種多様な楽しみ方のある、素敵な小説である。
登録:2021/7/12 17:46
更新:2021/7/23 17:15