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カクヨムミステリー連載:2話完結

名探偵は謎を解かない

 単眼族や有翼族など、幻想的な種族の暮らす世界での、とある学校の小さな事件のお話。  ミステリです。いわゆる人の死なないミステリで、学園を舞台にしたキャラクター文芸で、そのうえしっかりファンタジーです。それがなんと一万文字の短編で。いやいやこの分量でやれること? という、読み終えてまず思ったのがそこでした。すごい衝撃。全部の要素がしっかりと、余すところなく使い切られている……本当にこの設定、この謎、このキャラだからこその物語だというのがわかって、いやもう凄まじい完成度です。とんでもないもの読みました。  世界の設定が独特です。お話の主軸というか、「これがなんのお話か」という部分は完全にミステリそのものなのですけれど、それに対して思いっきりファンタジーしてくる世界。いわゆるローファンタジーで、例えば学校のありようとか技術レベルのようなものは現代そのものと思われるのですけれど、そこにいろんな異種族(いわゆる人外)が存在している世界。もちろんしっかり意味があって、例えば一番わかりやすいのは、探偵役であるところの単眼族、シクロくんの種族的な特性です。  なんと彼の目には、他者の感情がぼんやり見えてしまう。探偵にはもってこいの能力で、当然それはしっかり活かされるのですけれど、でもすごいのはそれらの設定の折り込み方というか、語り口の自然さです。結構尖った設定のはずなんですけど、普通にわかる。なんとなく読んでるだけでちゃんと頭に入る。  ちょっと個人的な話なのですが、自分は探偵ものに対して結構不誠実な読み方をしてしまうタイプで、つまりあんまり謎について考えないままノリでぐんぐん読んじゃうのですけれど(探偵の格好いいところが目当てなので)、でもそんな読み方をする自分でも本作、必要な情報の取りこぼしがない。順を追って、丁寧に、かつ難しかったり情報がパンクしたりしないように書かれている。もうこれだけで勝ったようなものだと思います。  キャラクター、というか主人公コンビが好きです。彼らの関係性というか、ほんのり漂う信頼感のようなもの。キャラクターはしっかり立っているんですけど、全然コテコテではなく自然なんですよね。単眼というすんごい派手な特徴があるのに。この感じ、どこまでも自然なところが好きです。すごく好感が持てるというか、気がついたら好きになっている感じ。  あとはもう、本作を語る上で絶対に欠かせない最大の魅力なのですけれど、やっぱり『名探偵は謎を解かない』です。その言葉の意味。いわゆるタイトル回収といえばそれはそうなのですけれど、ただ拾うという感じではまったくなく、〝本当にそれをただ最初から書いていたのだ〟というのが最後にわかる感じ。なによりだからこそ、でなければ絶対に辿り着けなかったであろう、この物語の結末の心地よさ。非の打ちどころのないハッピーエンド!  読後の余韻というか「あー」ってなる感じというか、もう本当に満足感がすごい。捨てるべき要素がなにひとつない、ぴったり綺麗に組み上げられた佳作でした。結末が好きです。格好良すぎる!

5.0
  • 作品更新日:2020/9/12
  • 投稿日:2021/12/13
カクヨムファンタジー短編完結

龍王ここに崩ず

 山とか谷とかもう陸そのものってくらいに巨大な龍と、その臨終に立ち会う羽目になった小さな妖精の、その対話とその後の顛末のお話。  いかにもファンタジーらしいファンタジー、というわけではないのですけれど(この言い方だときっと剣とか魔法とか冒険の旅のイメージが強そう)、でも「ファンタジーだからこそ」を目一杯使ったお話です。特に龍ことガイルベロンさんなんかは非常にわかりやすいというか、この体の巨大さに寿命の長さ、なにより生きてきた足跡のスケールの大きさなんかは、まず人間のそれとはまるで比較になりません。この大きさそのものがすでに魅力的というか、なんだか足元がソワソワしちゃうような壮大さをしっかり感じさせてくれるところが素敵です。  とにかく巨大で、小さな妖精や人間からはとても想像のつかない次元から物事を見つめてきた存在。本来なら対話など叶わないはずのその龍に、でも念話の力を持つ妖精の協力によって、初めて成り立った意思の疎通。それにより明らかになる龍の内心、いやあるいは望みというかむしろ性格そのものというか、その意外さがとても好きです。ややネタバレ気味の感想になってしまうかもしれませんが、ただこちらの予想や想定を裏切ってくるのではなく、その結果にとても共感させられてしまうところ。また対話相手としてそれを受ける妖精の感覚というか、その内心の変遷のコミカルさも面白かったです。期待から困惑、あるいは呆れのような感情になり、なんなら半ばツッコミ役みたいな役回りまで。こうしてみると龍も妖精も非常にキャラクターが立っているというか、性格そのものは自然な味付けなのに(極端なのはその大きさ小ささくらい)、でも造形そのものが実に生き生きとしている。この辺りが読み口に自然な味わいを与えているのだと思います。  そして、龍の最期とそれを踏まえての結末。余韻が美しいのもあるのですが、「ハッピー・エンド」という章題とあわせて考えると、より深みを感じさせてくれる幕引きでした。

5.0
  • 作品更新日:2020/8/21
  • 投稿日:2021/12/13
カクヨムその他連載:2話完結

殺人犯Aの存在証明

 いろいろどん詰まりの苦しい人生を送る少年が、白昼堂々通り魔事件を起こしてしまうお話。  現代ドラマ、それも相当に直接的なお話です。ある種の社会問題というか、この世の中の抱える重たい何かのようなものを、かなりストレートに叩きつけてくる物語。物語世界そのものは私たちの生きる現実となんら変わりがなく、また事件そのものも普通に起こり得る範囲のものであるため、例えば共感にせよ反撥にせよ、感想が我がことのように身近な感覚になるのが特徴的でした。テーマ性の部分にこっちを引き摺り込んでくる強さ。『読者』という安全な観覧席から、無理矢理リングの上に引っ張り出してくれる物語。  完全に主観のみで書かれているところが好きです。半ば主人公の言い分だけを聞いているような状態になるため、読んでいるとどうしても気持ちが反撥に傾いてしまう。もちろん起こした事件の凶悪さや、その動機の不明瞭さや身勝手さというのもあるのですけど。ですが、そもそもこの物語で描かれているのは、市井の人々の多くが抱くであろうその反感の、その中にどうしても含まれる〝切断操作〟——逸脱した人間を非人間化することで己を守る行為そのものなわけです。この辺りはもう本当にこれでもかってくらいに何度も書かれていて、例えばプロローグもそうですしまた終盤手前にもそんな一幕があって、なによりタイトルにすら含まれる『殺人者A』という、この呼び名そのものが切断操作の賜物なわけです。  この辺なかなか容赦がないというか、なにしろどっちの側についても納得できないものが残る。反撥なら保身のために主人公を切り捨てた有象無象と同じになるし、といって主人公に肩入れするのも、それはそれで身勝手な八つ当たりを正当化することになってしまう。この主題の部分から絶対に逃してくれない感じ、なんとしてもこちらに考えさせにくる姿勢の強さと真っ直ぐさが鮮烈でした。  また、主観のみを通じて書かれることでもう一点、それとは別の部分も好きというか、ある種の叙述トリック的な読み方ができるところも楽しいです。いわゆる〝信用できない語り手〟のようなものというか、実際この主人公は精神に不安定なところもあるようで、それゆえに生じる細かな感情の揺らぎ。例えばふと思いついて行動を翻す(もともとの予定を急にやめて凶行を決意する)ところや、自分でも全くわからないうちに凶器を所持しているところ。さらには別に取り繕う必要のない場面で、内心に「うるさい」と思いながらでも口では謝罪するなど、節々に見え隠れする支離滅裂さ。どうにも心許なく揺らぎつづける〝自己〟の、その最後に行き着く先。  結局、彼の望んだものは何だったのか? 答えの出ない問いのようなものまで考えさせてくる、強くて真っ直ぐな主題を感じる作品でした。

5.0
  • 作品更新日:2020/8/22
  • 投稿日:2021/12/13
カクヨム恋愛短編完結

月に届くまで

 終わりのない作業に没頭する『僕』と、それを「逃げちゃおっか」と逃避行に誘う何者かのお話。  たぶんネタバレが致命的なダメージになるタイプのお話ではない、とは思うのですけれど、でも個人的には予備知識のないまま読んでほしい、と感じたお話。というのも、もう本当に雰囲気がいいんです。普段はあんまり〝雰囲気〟なんて曖昧な(というか人によってたぶん想定するものの差が大きい)箇所を推したりはしないんですけど、でもこの作品に関してはそこを押してでも「雰囲気すき!」と言いたいというか、雰囲気という言葉でもなければ表せない何かを直接静脈に注射されてるような読み口がすごいです。  具体的には序盤における全体像のぼやけぶりの匙加減というか、個々の細かい要素要素にピンポイントでカメラを寄せて、そこから後追いで推測するような形で世界の像を組み上げていく、その感覚がとても面白いです。文章自体は非常に読みやすく、するする頭に入ってくるのですけど、でも(というか、なのに)読書感覚そのものはむしろ意図的にこちらに負荷をかけてくるというか、濃い霧の中をかき分けながら進むかのような感覚。この読み味、物語の中を進むのに自分で意識的に足を踏み出すような感じが、序盤から中盤の内容にぴったり合致している(あるいは合致しているからこそ重たさを感じる)ところが最高でした。  というのもお話の筋、というか中盤までに書かれているのは決して明るい物語でなく、むしろ読めば読むほどに押しつぶされそうになるほどの重苦しい現実。それを主人公の自覚すら一足飛びに超えて、読み手の感覚のレベルに直接伝えてくるみたいなこの書かれ方。主人公の置かれた境遇、彼自身の苦しみや周囲から浴びせられる悪意のようなものが、ただ伝わるばかりでなくもうどんどこお腹に溜まって、だからこそというかそれが故にというか、ようやく辿り着いた終盤の心地よさと言ったら!  特に好きなのは晴れやかな結末の、でも客観的には惨事が起こっていたりまた「逃げ」でもあったりするところ。きっと他人事として見たなら本来幸せではないはずのそれが、でも確かにしっかりハッピーエンドしているとわかる、その感覚が楽しい(というよりも嬉しい!)素敵な物語でした。

5.0
  • 作品更新日:2020/8/21
  • 投稿日:2021/12/13
カクヨムSF連載:4話完結

夜が明けるまで、私と

 肉体を持たない人工知能の少女と、彼女に魅せられた『僕』のお話。  約3,500文字とコンパクトなお話で、その分量通り非常にシンプルにまとまった小品なのですが、にもかかわらず意外と食べ出があるというか、咀嚼すればするほど味わいが出てくるお話です。  物語の芯がしっかりしているというか、見方次第で結構いろいろな意味を読み取れそうな物語。個人的にはジュブナイルとして、少年の冒険物語のような感覚で読みました。設定そのものはSFなのですけれど、なんとなくファンタジーのような読み心地。  お話の筋はシンプルで、ディスプレイの向こう側の存在である『彼女』に、主人公が現実世界での依代を与える、というもの。画面のあちらとこちらがそれぞれ異界と顕界の役割を果たして、そしてその狭く不自由な〝あちら側〟から彼女を連れ出す行為。ボーイ・ミーツ・ガールでありまた囚われの姫を救い出す勇者のお話でもあって、この辺りの要素の重なり具合が本当に綺麗でうっとりします。加えて、とても優しい物語であるところも。ヒロインを救うのに強大な敵を倒したりこそしないものの、でも自身の技能に加えて長い年月を捧げることでそれを成す、というのが、静かながら思いの深さを感じさせるようで素敵でした。  若干ネタバレになりますが、この主人公の行為が完全な『禁忌』であるところがよかったです。というか、それがあってこそ上記のいろいろな意味がきっちり定まるというか。この世界の法はふたりが出会うことを認めてはくれず、でもそれを知っていてなお逆らうという決断。狭量な世界に対する反逆であり、また同時に逃避行でもあるというお話。特に好きなのがこの『逃避行』での彼女の活躍ぶりで、ただ自由な翼を与えてもらうばかりのか弱い存在でなく、その翼で彼を空へと誘う天馬でもあるという、この逆転というかただ守られるだけでないところに本当に惚れ惚れしました。  なにより大好きなのが、タイトルにもある『夜が明けるまで』の使われ方。というより、それによって著されているであろうもの。明けるまで、ということはすなわち、裏を返せば「明けてしまったら終わり」ということでもあるわけです。所詮は一夜限りの儚い夢と、つまりこの結末の先には朝が来るのだと、そう解釈することもできると言えばできるのですが。それでも最後に辿り着いた夜、その瞬間はもうそれだけで特別な、まるでこのまま永遠に明けることがないかのような、そんな強い言い切りで締め括られる物語(だって最後の単語がもう)。加えて、「踊り」というのも好きです。物理的な肉体を持たない彼女にとって、月明かりの下でのダンスが事実上の契りであるという、このジュブナイルをそのまま形にしたかのようなどこまでも優しい耽美!  沁みました。暗く寂しいはずの夜の闇の中に、優しい美しさを描き出してくれる素敵な作品でした。

5.0
  • 作品更新日:2020/8/22
  • 投稿日:2021/12/13
カクヨムファンタジー連載:6話完結

滅びの国の氷姫

 民衆の反乱により滅亡の危機に瀕する王国の、その第一王女の半生を綴った回顧録。  というか、思い出話というのが正確かもしれません。偶然知り合った迷子の少女に、おとぎ話という体で語られる物語。舞台設定としてはハイファンタジーで、いわゆる剣と魔法のそれというか、ワクワクできる要素もしっかり詰まっています。  内容はなかなか骨太で、国家規模の動乱を王女の目線から描いた物語です。民衆と王族の階級闘争、あるいは互いの正義がぶつかり合うお話。一見、主題の部分をストレートにぶつけてくるようにも見えるのですが、でもこれがなかなかに曲者というか、読んでいてどうしても〝ひっかけ〟のようなものを警戒せざるを得ない、視点の罠を駆使した書き方が特徴的です。  主人公である王女ライラと、その親友であり護衛役でもある魔術師のメル。すべての物事が完全にこのふたりの視点を通してのみ書かれているため、ほぼ一方の偏った言い分を聞いているにも等しい状況。ましてや王族ということもあり、どうしても脳裏にちらついてしまう「もしかしてダメな為政者と化しているのでは?」という疑念。いわゆる叙述トリックあるいは〝信用できない語り手〟の変奏というか、こういった手法で読み手の側からの積極的な考察を誘発する、その罠にまんまと乗せられた感じです。果たして正義はどちらの側にあるのか? いやそれぞれに異なる正義があるのですけれど、でも自分だったらどっちにつきたい? という、その問いをずっと考えさせられている状態。  結果どうなったかはまあ、是非本編で——というわけで、以下は思い切りネタバレを含みます。  物事の善悪、自分ならどちらにつくかの判断材料は、結局最後の最後までほとんど伏せられたままでした。ヒントがあるとすればこの物語が『ハッピーエンド』であると、そうキャッチコピーで予告されているところ。というのも、単純に結果だけ見たならこれ、まごうことなき悲劇なんです。  一度は自らが王女となり統治せんと思っていた国を、でも何ひとつ守ることができなかった、という結末。彼女の視点からは最後まで民衆は唾棄すべき悪として捉えられており、しかしおそらくは国外に逃亡したと思われる彼女の、その得た後日談(隠匿されていた蜂起の理由)の正確さは果たしていかほどのものか。いえわかります、さすがにここが誤情報というのは希望的観測がすぎると思うのですけど、でもせめてそうであってくれないとあまりにも救いがないというか、だって取り残された無辜の民草の今を思うとあまりにも……という、もはや完全な八方塞がりの状態。  さてそれでは希望的観測を捨てた上で、この物語をあくまで『ハッピーエンド』と読むなら? 王族という重荷から解放され親友と共に過ごす〝彼女個人の幸せ〟か、でなければ傲慢な王族を打倒し息を吹き返した〝国家とその民衆の幸せ〟と取るか。あちらを立てればこちらが立たず、このあまりにも残酷な二律背反。『ハッピー』のために差し出さねばならないコストの重さ、その容赦のなさに打ちのめされたような思いです。  内容、というか細かい一要素なのですけれど、玉座が好きです。座り心地の悪い椅子に腰掛けて、それでもなお平然としていた王。一度でもその座についていれば見えていたかもしれない『何か』が、あるいはそんな『何か』などどこにもなかったという可能性も含めて、しかしその機会もないままただ運命に翻弄されるしかなかった無情。結局何も確証のようなものは得られず、だからこそ考えても詮ないはずの『歴史のif』を望んでしまう、悲しくも壮絶な物語でした。

5.0
  • 作品更新日:2020/8/23
  • 投稿日:2021/12/13
カクヨム恋愛短編完結

海野ちゃんの小さな嫉妬

 告白の結果見事に玉砕した高校生の少女が、その恨みからついやってしまった小さな復讐と、その後の顛末の物語。  全体を通じて、というかただお話の筋そのものを見たなら、思春期の少年少女の甘酸っぱい恋物語です。なのですけれど、でもただそれだけでは終わらないというか、所々に癖の強いフックが仕込まれているから侮れません。どの辺が、というとまあいろいろあるのですけれど、特にはっきり大きなところを二点挙げると、まずはこのお話が復讐という後ろ暗い行為から始まっている点、そしてもうひとつは予想以上に高火力だった性描写です。  冒頭から行われるえげつない行為。級友らの集まるSNSにおいて、とある男子に対する事実無根の悪評をばら撒く、という嫌がらせ。動機は復讐であり、主人公の少女『海野』はつい最近、先述の男子『真夏』に告白して玉砕していたのだった、というお話の筋。  なかなかにえぐみの強い滑り出しで、でも動機が逆恨みによる復讐であることが見えてくる段になると、それなりに共感……はしないもののでも「あー」となるというか、まあそんなこともあるよねとゴニョゴニョしちゃうような感覚。他人のしたことと思えばひどいとしか言いようがないんですけど、でも「もしこれが自分のやらかしたことだったら」と思うといろいろ言い訳できちゃいそうな感じ。やってることは陰湿な陰口で、それも身も蓋もない下ネタが飛び交う有様、恋愛劇をやるのに(これは読後だからわかることですが)いきなりこんなところから入ってくるわけですから、もうそれだけでいろいろ打ちのめされたような気分になります。  その上で、というかその流れのままに一気に畳み掛けるかのような、予想外の性描写。詳細は述べませんけど、強いです。半ば混乱するくらいの生々しさ。ある種のグロテスクさすら感じるくらいで、いやそもそも人の肉欲自体にグロテスクな側面があるといっても、しかしなにより凄まじいのはそれらの苛烈な要素が、そのまま主人公の中の甘酸っぱい恋と並び立ってしまっていること。この感覚、主人公の生きている世界を、わかりやすく翻訳せずに活写する書き方。  強烈でした。ガツンと頭を殴られたような感じ。私たちが物語の向こう、瑞々しい青春年代の少年少女に、つい求めてしまいがちな何か。それをことごとく裏切ってくれる——というか、裏切った上でのこのお話の筋。あくまで彼ら自身は青春の中を生きていること。予想外の方向から読み手の情動を振り回しにくる、なかなか容赦のないお話でした。

5.0
  • 作品更新日:2020/8/22
  • 投稿日:2021/12/13
カクヨムファンタジー連載:7話完結

サキュバスネード

 突如ニューヨークを襲った未曾有の危機、大量のサキュバスを含んだ巨大ハリケーンと、それに立ち向かう男たちの物語。  混ぜるまでもなく危険物だったはずのコメディを、さらに混ぜるな危険のコメディにしてしまった恐るべき作品です。ていうか暴力。こんなの発想力を凶器にした殺人だと思います。  緊迫しているはずのドラマチックな状況に、でも明らかに場違いな〝サキュバス〟の一語を混ぜるだけで、もういろいろどうしようもないことに。いやおそらくオマージュ元と思われる映画の時点ですでにどうしようもないのですが(サメの竜巻)、でもそのどうしようもなさをさらに上書き・倍増してくるこの発想。だって元が完全なインパクトの塊なのに、それに押し負けない出力という時点で相当な異常事態ですよ……こんなの思いついた時点でもう勝っている……。  いや本当すごいです。おそらく『パロディ』と言っていいくらいにネタ元を連想させるタイトル(及び設定)ではあるのですが、でもその魅力や面白み自体はパロディのそれではないんです。作品外の何かに依存しない、独立した作品としての面白さ。逆に言うと『独立してるのに綺麗に被せている』という、ある意味矛盾したことを同時にやってのけているのがすでにすごい。  お話の内容は徹底したコメディで、頭を空っぽにして楽しめます。わかりやすさと勢いがあって、その辺りは下敷きとしたモチーフ、B級サメパニック映画のそれをそのまま再現しているような趣を感じるのがとても好き。ジェットコースターのように進行していくスリリングな状況を、ただそのまま(そして細かいあれやこれやに笑いながら)楽しめばいい作品だと思うのですけれど、でも同時に意外としっかりした人間ドラマが描かれていたりするところも面白かったです。  主人公であるメイスン・タグチの来歴や境遇、そしてそこに生じる苦悩や葛藤など。それが本編の活躍を経て解決あるいは前進するなどして、つまりよく見るとしっかり物語しているのだから侮れません。バーバラの存在や父との確執、そしてマークに対する感情の変化等、むしろ分量の割にはドラマが多いくらいなのだからまったく恐ろしい話。  とまあ、すごいところや好きなところ、そしてコメディとしての笑いどころはいくらでもあるのですが。中でも一番好きなのは——若干ネタバレになってしまいますが、このお話のラスボスにあたる存在です。ある意味どんでん返しとも言える衝撃の造形(※場合によっては「やっぱり!」あるいは「待ってた!」かもしれません)に加えて、今までの淫魔に比べて破格の扱い。いやむしろその「今まで」の方が軽すぎるのですけれど、でも実際ハリケーンの中に何匹でもいる以上はそりゃ大安売りにもなるよね、というこの無常感。笑いました。それもこの笑ったという感覚に、謎の爽快感がついてくるような不思議な面白み。  凄かったです。心を鷲掴みにして離さない強烈なインパクトと、その傍らで丁寧に綴られる人間ドラマ。にもかかわらず『B級』っぽさを失わない、しっかりした芯のある作品でした。

5.0
  • 作品更新日:2021/6/20
  • 投稿日:2021/12/13
カクヨムファンタジー連載:4話完結

影のあなたの

 両親を亡くし親戚に引き取られた不遇の少女が、散々にこき使われる日々の中で〝影〟と交流するお話。  ホラーです。と、完全にそう言い切ってしまうとたぶん語弊しかないのですけれど、でも相当にホラいです。ジャンルは現代ファンタジーとなっており、もちろんその通りの内容ではあるのですが、でも登場するものがどう見てもホラーのそれというか。だって作中の「影さん」がどう考えても〝あちら側〟の存在、読者の胸の奥をゾワゾワざわつかせてくれるタイプの何かなんです。つまり『読者に恐怖を提供することを主目的とする作品』という意味でのホラーではないのですけれど(たぶん)、でもそれ以外はホラーだと思います。手触りとか味わいとか。  で、その上でタグにある通りの「ハッピーエンド」をやってしまうのですからとんでもない。  以下はその結末に触れるためネタバレ込みの内容になります。  これがハッピーエンドしていること、そう読まされてしまうことがもう凄まじいです。だってこれ普通に考えたら絶対ダメなやつで、少なくとも〝あちら側〟に取り込まれているのは確実なはずで、つまり普通ならバッドエンドの要素しかないはずの幕引きが、でも一切の疑問も含みもなく「よかったね」と思える。しかもそれが自然になされているので最初はなんとも思わなかったのですけれど、でも考えれば考えるほどすごいというか、いやなんでしょうこれだんだん恐ろしくなってきたんですけど?  というのも、たぶんこのお話、ホラーとして(=読者を怖がらせるのを主目的とした話として)書いたらそのままホラーになっちゃいそうに見えるんです。  というか、現状でも結構ホラーしている。作中の「影さん」はざっくり言えば、主人公を苦境から救い出す超常的な存在としての役割を果たしているわけで、言うなれば「魔法使いのお婆さん」や「無敵のヒーロー」と同じ役回りのはずが、でもそんな要素は一切ない。救済をもたらす存在なのにポジティブに書かれていない。徹底してただ〝正体不明のあちら側の存在〟としてのみ書かれて、というかどう読んでも本当にただの怪異そのもので、にもかかわらずのハッピーエンド。あれっどういうこと? 自分はいま何を読まされた? いや読了時点では普通に(もちろん多少のゾッとするような手触りは残しながらも)「よかったー」ってなってたんです。でもこうして内容を意識的に振り返ってみると、どんどん困惑が増していく。  たぶんこれ、ほぼホラーそのものの話を「素敵ないい話」として読まされてるんです。でもですよ、だとすれば今の自分はもしかして、怪異に魅せられている人間と同じ状態なのでは……? そんな疑念が拭えないというか、いやすみませんやっぱりこれホラーだと思います。たとえお話自体がファンタジーであっても、彼女に取ってはそうだとしても、でも読んだ時点で一個上の次元でホラー化しちゃう……というか、彼女は救われたのに自分だけホラーの中にいるんですけど? おかしくない? おうち帰して?  いやもう、凄かったです。個人的な趣味に寄りすぎた読み方かもしれないですけど、本当に。  あと最後にどうしてもここだけは言いたいのですけれど、終盤点前で明かされる真実が好きです。本当は彼女自身わかっていたこと。眠いばかりの素直な子だと思っていたのが、でも突然開示されるあからさまな欺瞞。嘘そのものよりも「これくらいの嘘なら自然に吐ける」という事実、暗黙の何かを破壊するレベルの鈍器で頭を殴り付けられた瞬間の、あのびっくりするくらいの気持ちよさ。最高でした。彼女、ワーリカさんの眠りが永遠に幸せでありますように。

5.0
  • 作品更新日:2020/8/22
  • 投稿日:2021/12/13
カクヨムファンタジー連載:2話完結

ハッピーエンドへの導き方

 ネタバレを嫌うひとりの男性が、逆に平気でネタバレしてしまうタイプの男性と出会って、いろいろ揉めたりするお話。  という、上記の一文はほとんどただの導入部分でしかないのですが。でもこの『ネタバレ』という要素の使われ方がなかなか面白いというか、物語の入り口として機能しながらもガッチリお話の本質に食い込んでいて、思わずむむむと唸らされたような部分があります。  タイトルの通りこの物語は『ハッピーエンド』にまつわるお話で、そしてなるほど『ハッピーエンド』という概念は、その名前そのものが重大なネタバレの要素を含んでいる、という事実。いや普通に当たり前のことではあるのですけれど、でもそれを〝実際にやる〟とどうなるか、という形で物語にしてしまう、その発想そのものに小気味よいものがありました。  ここから先はややネタバレを含みます。  構成が面白いです。前編と後編でくっきりふたつに別れたお話。前編だけを見るとちょっとしたショートショートのような趣ですが、それを踏まえてさらに踏み込んでくる後編の感じがとても好きです。物語の芯というか、面白みを感じさせる部分の変調ぶり。オチの切れ味が魅力の口当たりの良いショートショートから、読み手の思考や感情を動かしてくるどっしり手堅い内容へ、というような。要は落差と言えばそうなのですけれど、でも別に前編後編で話が切り替わっているというようなことはなく、文章やお話はスムーズに連結した上でのそれというのが大変綺麗で好みでした。  さらにネタバレ気味になりますが、やっぱり好きなのはその後編で語られている内容。主人公に共感、というか彼の立場になって考えたときの(ここが地味にうまいというか、単純な共感でなくこっちから彼の身に立って考えるように仕向けられている感じがもう大好き)、このなんとも絶妙な座りの悪い感じ。隔靴掻痒というかなんというか、きっと非の打ちどころのない幸せな終幕なのに、でもそこに行き着くしかなかったこの状況そのものに納得できない感覚。ちょっと捻れたようなこの不思議な状態を、そのまましっかりひとつのお話の形に仕上げてしまう、その構造というか構成というかがとても美しい作品でした。

5.0
  • 作品更新日:2020/8/21
  • 投稿日:2021/12/13