ユーザー登録・ログイン

新規登録

ログイン

作品

レビュー

登録/ログイン

その他

オノログについてFAQ利用規約プライバシーポリシー問い合わせユーザー管理者Twitter
レビューを投稿
書籍化
コミカライズ原作
ジャンル別
サイト別
サイト関連
運営している人

@オノログ

タイトル+キャッチを目にした瞬間のときめき、忘れない

5.0
0

 突如ニューヨークを襲った未曾有の危機、大量のサキュバスを含んだ巨大ハリケーンと、それに立ち向かう男たちの物語。

 混ぜるまでもなく危険物だったはずのコメディを、さらに混ぜるな危険のコメディにしてしまった恐るべき作品です。ていうか暴力。こんなの発想力を凶器にした殺人だと思います。

 緊迫しているはずのドラマチックな状況に、でも明らかに場違いな〝サキュバス〟の一語を混ぜるだけで、もういろいろどうしようもないことに。いやおそらくオマージュ元と思われる映画の時点ですでにどうしようもないのですが(サメの竜巻)、でもそのどうしようもなさをさらに上書き・倍増してくるこの発想。だって元が完全なインパクトの塊なのに、それに押し負けない出力という時点で相当な異常事態ですよ……こんなの思いついた時点でもう勝っている……。

 いや本当すごいです。おそらく『パロディ』と言っていいくらいにネタ元を連想させるタイトル(及び設定)ではあるのですが、でもその魅力や面白み自体はパロディのそれではないんです。作品外の何かに依存しない、独立した作品としての面白さ。逆に言うと『独立してるのに綺麗に被せている』という、ある意味矛盾したことを同時にやってのけているのがすでにすごい。

 お話の内容は徹底したコメディで、頭を空っぽにして楽しめます。わかりやすさと勢いがあって、その辺りは下敷きとしたモチーフ、B級サメパニック映画のそれをそのまま再現しているような趣を感じるのがとても好き。ジェットコースターのように進行していくスリリングな状況を、ただそのまま(そして細かいあれやこれやに笑いながら)楽しめばいい作品だと思うのですけれど、でも同時に意外としっかりした人間ドラマが描かれていたりするところも面白かったです。

 主人公であるメイスン・タグチの来歴や境遇、そしてそこに生じる苦悩や葛藤など。それが本編の活躍を経て解決あるいは前進するなどして、つまりよく見るとしっかり物語しているのだから侮れません。バーバラの存在や父との確執、そしてマークに対する感情の変化等、むしろ分量の割にはドラマが多いくらいなのだからまったく恐ろしい話。

 とまあ、すごいところや好きなところ、そしてコメディとしての笑いどころはいくらでもあるのですが。中でも一番好きなのは——若干ネタバレになってしまいますが、このお話のラスボスにあたる存在です。ある意味どんでん返しとも言える衝撃の造形(※場合によっては「やっぱり!」あるいは「待ってた!」かもしれません)に加えて、今までの淫魔に比べて破格の扱い。いやむしろその「今まで」の方が軽すぎるのですけれど、でも実際ハリケーンの中に何匹でもいる以上はそりゃ大安売りにもなるよね、というこの無常感。笑いました。それもこの笑ったという感覚に、謎の爽快感がついてくるような不思議な面白み。

 凄かったです。心を鷲掴みにして離さない強烈なインパクトと、その傍らで丁寧に綴られる人間ドラマ。にもかかわらず『B級』っぽさを失わない、しっかりした芯のある作品でした。

和田島イサキ

登録:2021/12/13 19:19

更新:2021/12/13 19:19

こちらは和田島イサキさんが読んだ当時の個人の感想です。詳細な事実については対象作品をご確認ください。

同じレビュアーの他レビュー!!

610 light-years Love

来世における巡り合いのお話(※語弊のある表現)

 約九十年の人生の締めくくり、間抜けな人生だと自嘲しながらも、でも満ち足りて往生するひとりの男性のお話。  しっとりと落ち着いた描写が胸に沁みる、切なくも優しい手触りの人間ドラマ、のようなSFです。ドSF。どうやってもネタバレになるというか、いやそもそもタグの時点で明かされてるも同然な部分なので〝そこ〟についてはもう気にせず触れてしまうのですが(困る人はいますぐ本編へ!)、シミュレーション仮説をモチーフにしたお話です。その辺りを端的かつ印象深く象徴しているのが、本作のキャッチである『あなたの愛する人は本当に実在するのでしょうか?』の一文。これ好きです。本編の内容を読み終えてからだと、より強く意味合いが強調されるような感覚(後述します)。  導入であるところの「九十年の人生」、それはすべて仮想現実だった、というところから始まる物語。宇宙船での星間航行中、どうしても持て余すことになる長い時間を潰すための、娯楽としての人生のシミュレーション。要は長い夢から覚めたようなもので、さっきまでの人生はすべて作り物でしかなかった、というのがこのお話の肝というか前提になるわけですけれど。  ここで面白いのがこの主人公、というか作中の人類全般のことなのですけれど、寿命が半永久的に続くんです。現生人類の人生一回分の時間くらいは、ほとんどあっという間の出来事。さすがに未来(千年後)の世界だけあって全然違うと、それ自体は特段なんてことはないのですけれど。  宇宙船のコンピュータによってシミュレートされた方の人生、それが千年前(作品外における現代)の世界であるということと、そして『シミュレーション仮説』というタグ。これらの意味するところというかなんというか、まあ要するにメタ的に見ることで作品の主軸とはまた別の妙味を上乗せしてくるという、この構造とそのさりげなさにニヤリとしました。あくまでも副次的に書かれている、そのお洒落というか上品な感じ。  さて、その上でその主軸、物語のメインとなるドラマなのですが。まんまとやられたというか綺麗に決まったというか、きっちり組まれた構造の綺麗さにうっとりします。単純にロマンティックないい話でもあるのですけれど、これ構造だけ見てちょっと見方を変えるなら、ある意味転生ものみたいなところもあるんですよね。いわゆる前世からの生まれ変わり、離れ離れになった運命の相手に再び巡り合うお話のような。王道であり古典でもあるその類型を、でもただSF的な設定の上に持ってきただけでなく、まったく違う手触りに変えてみせる。物語を自分の(作者自身の)ものにする、というのは、たぶんこういうことなのかなと思いました。  あと大好きなところ、というか絶対触れずにはいられないのは、やっぱり結びのあの一文。このサゲの爽快感がもう最高に好きです。伏線等も綺麗に回収しつつ、すべてがこの瞬間のために描かれた物語。とても綺麗で、しっかり壮大なSFでありながらも、その向こうから人の生を伝えてくれる素敵な作品でした。

5.0
0
和田島イサキ