三ツ星のスピカ【3月31日 消去予定】
読書体験により他人の持つ自分とは違う価値観を知って、糧にしたり考えを深めたりできるものですが、この作品の主人公たちはその個性的な性格と考え方で新たな知見を与えてくれる存在です。 舞台はこの作者さんが描いた「奈落の神の福音」と同じオルカ市。未来の日本の海をゆく船上都市ですが、一作目の登場人物は出て来るものの直接的な関係はないので、読んでいればより楽しめるという感じなので、こちらから読まれても問題ないかと思います。こちらの作品の方が対象年齢は低めかも? 主人公はスピカという少女。死と隣合わせの砂漠地帯で、生きる事だけを目指した彼女と、天才的頭脳を持ちながらも役立たずの扱いを受けて来た少年、昴。二人がバディを組む形で市警の特殊技能官を目指す所から話は始まります。 学生という年齢的立場から学園での事件の解決に、二人はそれぞれの持つ能力を駆使し活用していきます。最初はちぐはぐだった関係も、お互いを相棒と認めあっていく過程も。 登場人物が個性的で、とにかく考え方が特殊。昴が一番常識人といった感じもしますが、スピカは死生観からして特殊なため、見ているこちらはドキドキ冷や冷やしっぱなし。 事件も癖のあるものばかりで、バディもの、警察物としても楽しめます。 彼らの活躍をぜひ堪能してください!
- 作品更新日:2022/2/25
- 投稿日:2021/8/14
緑森洋菓子店と齢七年のりんごの木
いっやぁもう! かわいい! かわいいんだよコンチクショウ! 甘い匂いが漂っていそうな洋菓子店の庭に、無造作に植えられた(生えてきた?)一本のりんごの木。 七年経ってやっと実を付けたりんごの木には精霊が宿っていました。 パティシエらしからぬ風貌の無精ひげ男トーゴにまとわりつくりんごちゃん。彼女はそのりんごの木の精霊なんです。 この子がもう、とにかく、猛烈に可愛い。ビジュアルも可愛いと思うのですが、やる事なすこと喋る事。どこをとっても可愛い。何がどう可愛いかというと、可愛いんだよもう何もかもが! 呼吸してそこにいるだけで可愛いレベル。 子供扱いされてふくれたり、大人扱いされて子供ぶったり。 実が成るのだから大人になったと言ってもいいのだろうけど、見た目は恐らく樹齢と同じで七歳ぐらいかと思われます。 メルヘンぽく見せかけて、お菓子を作る無精ひげ男はやたらと現実味のある影があったりするから、ただの可愛い女の子が可愛さをふりまくだけの日常話ではないところもお薦めポイント。
- 作品更新日:2024/2/13
- 投稿日:2021/9/12
真白の森に住む魔女
童話のような物語なのに、大人に刺さるお話です。 「本を届ける」 それが小さな魔女、アドリの今日のお使いだ。 母の友人に、半年分という大量の本を運ぶ事になった彼女は、箒にまたがって一人で目的地へ。 色鮮やかな世界から真っ白な世界へ。その色の差の理由と、お使いの意味と、魔法が使えない魔女という存在。 短編なのであっという間に読めてしまうけど、彼女達のこの先の未来に想いを馳せずにはいられなくて、自分の中で物語が広がり続ける感じです。 ぜひ本編で味わって欲しい。
- 作品更新日:2021/2/16
- 投稿日:2021/9/11
魔城楽団モンストロケストラ
異世界に召喚される主人公といえば、聖女だったり勇者だったり、もしくは役立たずスキルと言われて追放されるなどバリエーションパターンがありますが、こちら、音楽を趣味にしている凡人が、その凡人のまんまで魔王の元に召喚されております。そして、そのままの自分で良いという。 主人公の詫歌志(たかし)はDTMを趣味にする普通の男子。徹夜で作曲にいそしんでいたところ、気付いたら魔王の前に引き立てられ、国歌を作れと命じられるという形で物語は始まるのですが……。 この作品、ダークな出来事をとにかくライトに読ませて来る。 主人公が魔王サイドになるためか、読者としても考えが魔王軍の方に寄ってしまって、討伐に来る人間よりモンスターの方に愛着がわいてきてしまい。というか、モンスターが可愛くてコミカル。ハロウィン感。 物語のシナリオだけをなぞると、結構重い設定で混沌とした闇の世界観、魔王のやってる事は凄惨極まりないのですが、もうそんなの欠片も感じさせないぐらい、コメディ。 コメディには風刺や毒がスパイスとして効いて来る事がありますが、この作品では魔王軍らしい闇の部分、残虐な部分がその毒の役割を果たしている感じかも。 勢いと、ノリと、絶妙な言葉選びで、笑ってしまうシーンが随所に。外出先で読むのは控えた方が良いかと思います!
- 作品更新日:2024/5/7
- 投稿日:2021/8/17
チューベローズとアップルパイ
林檎は、アダムとイブの物語から禁断の果実と言われ、男女関係を彷彿とさせるけれど。なら、そんな果実を使うアップルパイは何なのか。 それは、罪の果実を包み込む秘密の重なり。 重なり合い、幾重もの層となる。 色の描写、香りの描写、音の描写によって艶やかに表現される風景と、しっとりとした大人向けの雰囲気とラストに、短編と思えぬ印象を残すでしょう。
- 作品更新日:2021/8/30
- 投稿日:2021/9/2
真夜中のアップルパイ
姉からの連絡に、金曜の夜の予定が強引に決められてしまう妹。以前もこんな事があったのか、嫌な予感を見事に的中させる。姉の家に行けばどういう事があるのかわかっているように、必要になるであろうワインとつまみを携えて行くところから二人の日頃の関係が垣間見えたり。 アップルパイを前にしての愚痴の流れも面白く、そこから一気にオチに向けて転がって行く様子も軽快で、男に対し、読者もおそらく姉妹と同じ感想を持つはず。 この姉妹はまたこんな時間を過ごすんだろうなという気の置けない二人の関係に思いを馳せる、読後感がとってもスッキリしたお話でとても良かったです!
- 作品更新日:2021/9/3
- 投稿日:2021/9/4
アップルパイにはアイスを添えて
読了後、もう一度最初から読み直したくなったこの作品。恋のキューピットはいつも顔で笑って心で泣いてだよなあ、なんてありきたりな物語を想像して読み始めたのですが。 「主人公は失恋するのだろう」と感じさせる一文で始まります。だけど、読み進めると先入観通りのお話ではなくて。 親しい先輩と付き合う事になった親友が、引き合わせてくれたお礼として焼いてくれるアップルパイには思い出が折り重なり、二人のやり取りは今までずっと親友だったのだと実感させられる息の合い方で。 この関係が変化してしまうのは、ただただ惜しいと思えてしまうほどに。 最後の一行に、苦しさと生々しさがあってドキリとさせられました。 読み切ると主人公の視点を追いかけ直したくなり、もう一度最初から読みたくなる。そんなお話です。
- 作品更新日:2021/9/11
- 投稿日:2021/9/13
リクルートスーツの死神
人が自ら死を選ぶときとは。 連戦連敗、三桁が見えて来る就活の失敗。問われる己の存在意義。全てを諦めて登った廃ビルの上で、彼は出会ってしまった。 研修中の死神ナナミ。なんとリクルートスーツ姿である。 死神の世界でも希望業種への就職は大変なようで……。この彼女、とっても勉強熱心! はじまる質問責めラッシュ。面接でよく聞かれるあれやこれやが、漢字が違うだけで内容がとんでもなくなる。しょっぱなが死亡動機ですからね。ダジャレのようであり、韻を踏んでいてリズミカル。ボケとツッコミの乱舞。現代社会への皮肉も効いてる爽快感あるコメディです。 現実は厳しいけど、踏み出す一歩は地に足を付けてと思える、鮮やかな展開。とにかく二人のやり取りを読んで欲しい!
- 作品更新日:2021/8/29
- 投稿日:2021/9/14
詐欺師にアップルパイを
リンゴの果実の花言葉(実に花言葉というもの不思議だけど)には「誘惑」と「後悔」があるという。 主人公テリは、二股三股も余裕そうなクズ男と付き合っていたけど、好きだけどもこれ以上搾取されてなるものかと、別れを予感するその日に渾身のアップルパイを焼く。隠し味はなんと下剤だ。 しかし受け取り自体を拒否されるという形で、計画は失敗してしまい。 美味しそうなアップルパイの誘惑に負けたのか、はたまた別の理由があったのか、偶然居合わせた謎の男が、そのアップルパイを食べて……後悔する。 という導入から始まるこの物語。 膝上に落ちたパイの欠片のようなクズ男を払いのけて捨てる、サバサバとした主人公の性格に親しみが沸きます。サクサクと読み進められる軽快な文面と、シナモンのように香るミステリー、そして読後に残る甘酸っぱさ。 おお、この作品そのものがアップルパイみたいだ! 紅茶を一杯を飲み切る時間で、美味しくいただける物語です。 おやつの時間に軽く読書したい、そんな時に特におすすめ!
- 作品更新日:2021/8/27
- 投稿日:2021/8/29
緑のアップルパイ VS 無口男子
不器用女子作のできたてアップルパイ、色は突っ込んではいけない。 付き合い始めたばかりの、まだ相手の事を完全に理解出来てない頃って、それぞれが相手の気持ちを勝手に想像しては落ち込んだりするもの。 無口すぎる相手を前にして、相手の気持ちがわからなくてアップルパイを握りしめる女の子がとにかくいじらしくて可愛い。 ところで、硬い外面に中身は熱々で甘くトロトロだなんて、そんなアップルパイみたいな男子がいるだろうか? ここにいた。 そんなぎこちなさだと、外面のパイ生地がポロポロ落ちてしまいますよー!と心配になるような男子が! 不器用な無口男子と、一途な頑張り屋さん女子の、甘酸っぱいエピソードです。 サクサク読める短編。青春物語好きな方にお薦めします!
- 作品更新日:2021/8/28
- 投稿日:2021/8/31