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作:佐倉島こみかん

ケンちゃんと悪くない魔女?

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未評価

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最終更新:2020/8/30

作品紹介

土曜日の中央公園には魔女が出る――小学生の間で噂になっているその『魔女』は、夕方にベンチでクレープを食べるという。チビでビビリと馬鹿にされたケンタは、その『魔女』に本当に魔女なのか聞いて、ビビリでないことを証明することになってしまった。

魔女青春・ヒューマンドラマ小学生ショタ第一回神ひな川小説大賞

評価・レビュー

少年の日の小さな冒険

 小学生男子の四人組が、度胸試しを兼ねて、近所の公園で見かける『魔女』の正体を探るお話。  とても優しい手触りの現代ドラマです。なにより目を引くのは作品の細やかさ、丁寧に一歩一歩道を踏み締めて進むかのようなストーリーテリングで、それによってもたらされるリアルな質感というか、物語世界の実存を感じさせる手腕がとんでもなかったです。  主人公のケンタを含め、メインの登場人物であるところの四人組は、その全員が小学三年生で、つまりこれは子供の物語です。子供の世界を子供の視点から、子供の感覚で描いた物語。読む分にはただ普通に読んでしまうのですけれど、でも冷静に考えるとこの時点ですでにとんでもないことになっています。だって少なくともこの作品を書いているのは大人なわけで(たぶん。もしかしたら違うのかもしれませんが)、にもかかわらず子供の感覚をそれらしく、かつわかりやすく、しかも自然な形で書き上げるというのは、それだけである種の特殊技能みたいなところがあります。普通はできることじゃありません。  お話の筋そのものは至ってシンプルというか、『魔女』という存在が登場する割には、実に落ち着いた流れの物語です。少なくとも物語のリアリティラインは現実のそれとほぼ同等で、そして度胸試しと言っても具体的には『魔女に直接その正体を訪ねること』、つまりメインに来るのはあくまでも対話です。  特に派手な事件や魔法のような不思議が巻き起こるわけでもない、出来事自体はきっとなんてことのない物語。にもかかわらずそこには非日常があって、つまり『魔女』という非現実の存在がそれで、そして対話がメインであるにもかかわらず(会話が多くなるとそのぶん行動が起こしづらいのに)、そこにはしっかり冒険がある。  怖い魔女に挑んだ勇気の物語。彼の勇気と迷い、そこに魔女の与えたいくつかの答えと、それをしっかり受け止めての成長。ビルドゥングスロマン、少年の冒険と成長の物語に必要なものが、余すところなく揃っている。それも現実に起こりうる範囲の出来事に、対話メインの展開で。気づけばすっかりのめり込んでいたというか、もうこのお話の筋そのものが魔女の仕業みたいな感じです。  ここから先は個人的な趣味に偏った話になりますが、魔女さんの正体があくまで不明なところが好きです。もっというなら、本当に魔女なのかもしれないところ。彼女の思わせぶりな返答、というか絶妙ないなし方のおかげで、子供たちは結局彼女のことを半ば魔女と確信するのですけれど。しかし読み手はそれを〝大人として見ている〟わけで、したがってただの「魔女のふり」だというのは簡単にわかります。わかるのですけど、でも同時に〝読者として見ている〟のもあって、つまりこのお話が創作である以上、魔女であったとしても何もおかしくないという、この想像の余地がもう本当に最高でした。だってこんなの絶対「本当に魔女だったらいいな」と思ってしまう……。いわゆるロマンとはこういうことかと、言葉でなく心で理解させてくれるお話でした。結び周辺の心地よさ、はっきり伝わる主人公の成長が好きです。

5.0

和田島イサキ

良かったねえ、少年――私が悪い魔女じゃなくて

 キャプションの時点で好きです。実は以前(神ひな川がまだ開催されていた時?)に読んでいて、その時の感想は和田島さんと大体一緒でした。  まず小学生目線の物語をきちんと小学生目線の話として書いていることに驚嘆せざるを得ません。かなり難易度の高いことを見事になさっていると思います。決して派手なことが起こる話ではない、どちらかといえばかなり地味な話ですけど、この小学生目線への入り込みがすでに娯楽要素として機能していてそれ自体スリリングです。これはずるい。 “魔女”も絶妙なバランスで。読者には「ああ、本当は魔女ではないのだろうな」と思わせる言動をとりますが、でも全くそのことで失望させないというか、だってこの日少年である彼らにとって彼女は紛れもなく魔女ですし、読み手としても「もしかして、ひょっとして」と思う余地があって、魔法を使わない彼女に魅せられてしまっているんです。それってもう魔法のようで。個人的に今こういうのに滅茶苦茶弱いので、もう胸の辺りが大変なことになっています。  と、いうのを思い出しながら書きました。もう一回読みます…………  改めて読むとカタカナの使い方が上手いですね。子ども言葉にすると普通漢字にするところを平仮名にせざるを得ず読みやすさを損なったりするんですけど、要所要所でカタカナにすることで読みやすいし、小学生男子感が出ています。細かいところですけどすごい。 “ 魔女は、みんなが顔を出して様子をうかがっている大イチョウ木の方をちらりと見て言った。三人があわてて首をひっこめるのが見える”。ありがちな動きですが、動きの描写というよりカメラの動かし方がうまいです。ここでカメラを一旦外に動かすことで動きのない息苦しさみたいなものを感じさせないようにしています。  会話。これだけ長い会話、しかも一方、つまり“魔女”の方がかなり喋るものを捌くのは難しいはずですが、書き手の苦しさを感じさせません。こうやってデティールを挙げるときりがありません。  最後もそのよさをうまく言語化できないんですがいいなあと思いました。もう一回読めてよかったです。読ませてくださりありがとうございました。

5.0

辰井圭斗