ユーザー登録・ログイン

新規登録

ログイン

作品

レビュー

登録/ログイン

その他

オノログについてFAQ利用規約プライバシーポリシー問い合わせユーザー管理者Twitter
レビューを投稿
書籍化
コミカライズ原作
ジャンル別
サイト別
サイト関連
運営している人

@オノログ

作:三谷一葉

滅びの国の氷姫

星4つ

0%(0)

星3つ

0%(0)

星2つ

0%(0)

星1つ

0%(0)

未評価

0%(0)

最終更新:2020/8/23

作品紹介

 その国は、長い間ひどい男尊女卑が続いていた。  女は家畜。男の持ち物。王族でも庶民でも女であれば同じである。  今代の王の時代になり、ようやく男女平等が叫ばれ始めた。だが、所詮は見せかけだけだ。  女王候補だった第一王女は、弟が生まれた途端に王位継承権を失った。  政治の席に着くことは許されたが、女が口を開けば男は目を見開いて驚き、老婆達は「殿方に意見するなんて」と顔をしかめる。  紛い物の男女平等の世界で、元女王候補であったライラは、それでも王族としての義務を果たそうとする。  しかし、自由と平等を求める反乱軍の手が、すぐそこにまで迫っていた。  

異世界ファンタジー王女魔術師男尊女卑反乱軍

評価・レビュー

誰ひとり『正しさ』を捨てることはできない

 民衆の反乱により滅亡の危機に瀕する王国の、その第一王女の半生を綴った回顧録。  というか、思い出話というのが正確かもしれません。偶然知り合った迷子の少女に、おとぎ話という体で語られる物語。舞台設定としてはハイファンタジーで、いわゆる剣と魔法のそれというか、ワクワクできる要素もしっかり詰まっています。  内容はなかなか骨太で、国家規模の動乱を王女の目線から描いた物語です。民衆と王族の階級闘争、あるいは互いの正義がぶつかり合うお話。一見、主題の部分をストレートにぶつけてくるようにも見えるのですが、でもこれがなかなかに曲者というか、読んでいてどうしても〝ひっかけ〟のようなものを警戒せざるを得ない、視点の罠を駆使した書き方が特徴的です。  主人公である王女ライラと、その親友であり護衛役でもある魔術師のメル。すべての物事が完全にこのふたりの視点を通してのみ書かれているため、ほぼ一方の偏った言い分を聞いているにも等しい状況。ましてや王族ということもあり、どうしても脳裏にちらついてしまう「もしかしてダメな為政者と化しているのでは?」という疑念。いわゆる叙述トリックあるいは〝信用できない語り手〟の変奏というか、こういった手法で読み手の側からの積極的な考察を誘発する、その罠にまんまと乗せられた感じです。果たして正義はどちらの側にあるのか? いやそれぞれに異なる正義があるのですけれど、でも自分だったらどっちにつきたい? という、その問いをずっと考えさせられている状態。  結果どうなったかはまあ、是非本編で——というわけで、以下は思い切りネタバレを含みます。  物事の善悪、自分ならどちらにつくかの判断材料は、結局最後の最後までほとんど伏せられたままでした。ヒントがあるとすればこの物語が『ハッピーエンド』であると、そうキャッチコピーで予告されているところ。というのも、単純に結果だけ見たならこれ、まごうことなき悲劇なんです。  一度は自らが王女となり統治せんと思っていた国を、でも何ひとつ守ることができなかった、という結末。彼女の視点からは最後まで民衆は唾棄すべき悪として捉えられており、しかしおそらくは国外に逃亡したと思われる彼女の、その得た後日談(隠匿されていた蜂起の理由)の正確さは果たしていかほどのものか。いえわかります、さすがにここが誤情報というのは希望的観測がすぎると思うのですけど、でもせめてそうであってくれないとあまりにも救いがないというか、だって取り残された無辜の民草の今を思うとあまりにも……という、もはや完全な八方塞がりの状態。  さてそれでは希望的観測を捨てた上で、この物語をあくまで『ハッピーエンド』と読むなら? 王族という重荷から解放され親友と共に過ごす〝彼女個人の幸せ〟か、でなければ傲慢な王族を打倒し息を吹き返した〝国家とその民衆の幸せ〟と取るか。あちらを立てればこちらが立たず、このあまりにも残酷な二律背反。『ハッピー』のために差し出さねばならないコストの重さ、その容赦のなさに打ちのめされたような思いです。  内容、というか細かい一要素なのですけれど、玉座が好きです。座り心地の悪い椅子に腰掛けて、それでもなお平然としていた王。一度でもその座についていれば見えていたかもしれない『何か』が、あるいはそんな『何か』などどこにもなかったという可能性も含めて、しかしその機会もないままただ運命に翻弄されるしかなかった無情。結局何も確証のようなものは得られず、だからこそ考えても詮ないはずの『歴史のif』を望んでしまう、悲しくも壮絶な物語でした。

5.0

和田島イサキ