ラブストーリーの片隅に切り捨てられた私達
最終更新:2022/7/10
作品紹介
私は裕福な家に生まれた。しかし、父はいつも母と私に冷たかった。 その原因は母と父が結婚した経緯にある。 家同士の利害の一致により双方の親から強引に決められた、いわゆる政略結婚だったのだ。 それでも母は良い妻になる努力を続けた。 しかし、父の態度が変わる事はなく、私は父と目が合った事もなければ笑った顔もみた事はない。私達を存在しないもののように扱い続けた父はある日、突然失踪した。原因は分からない。 その日から生活の全てが変わった。 嫁いだ家から生家に戻された母は、母の継母によって追い返さる。他に頼る当てのない私達は帰る場所を失った。大人達の非常な対応に落胆する私を見た母はある提案をする。 『旅をしながら穏やかに暮らせる場所を探そう』 母のその言葉に希望を抱いた私はすぐに賛成した。 長い旅を経て、ようやく落ち着ける場所も見つかり、平穏に暮らす私達はとても幸せだった。 しかしそんな幸せは、ある時見知らぬ誰かから届けられた一冊の本によって壊されていく。 その本には『悪役令嬢は地獄に落ちろ』そう殴り書きで書かれたメモが挟まっていた。 父の名前で書かれたその本の内容は、父自身の体験を元に書かれた恋愛小説だったのだ。感動のラブストーリーとして世間で話題の人気小説になっているようだった。 母はその小説の中で、二人の純愛を引き裂く悪役令嬢として登場していた。まったくの事実無根のひどい内容だった。 本の最後には幼い子供を抱く見知らぬ女性とその横で幸せそうな笑顔を向ける父の姿が載っていたのだ。 その瞬間、失踪の理由はその女性との駆け落ちだと理解した。同時に心の底から父を恨んだ。 それ以来私はその小説の存在を母に隠し続けた。 しかし、ある時見知らぬ誰かの手であの暴言が書かれたメモと共に、その本は母の元に届けられてしまう。 その日から顔の見えない誰かからの嫌がらせが続く。執拗な嫌がらせに母はしだいに壊れていく。 そんなある日ついに決定的な出来事が起こってしまう。 私は母の幸せを取り戻す為にある決断をした。
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