大正石華戀奇譚 <桜の章>
最終更新:2021/8/27
作品紹介
大正の時代. 珂祥伯爵家の長女・菫子(とうこ)は自身を取り巻く「ある噂」のせいで疎まれ孤立していた。 家族はおろか、使用人にすら疎まれ。女学校においても友の一人もない。 身の回りの世話を焼いてくれる女中の沙夜(さよ)と、噂を恐れず求婚してくれたただ一人の求婚者である唯貴(ただたか)だけが心の支えであったが、何処か諦観と共に生きていた。 ある日、内々の話であった唯貴との婚約が正式なものとなり、そのお披露目の宴が開かれる。婚約に躊躇う様子の菫子に、庭園にて薔薇の意匠の紅い石の指輪を贈り自身の想いを伝える唯貴。その時、悲鳴が響き渡る。向かった先に在ったのは無惨な亡骸だった。 人々が「やはり」と囁く中、菫子は物思いに沈む。以前から菫子に縁づこうとする男性は謎の不幸に見舞われ、災いが起こって周囲の人間がどれほど傷つこうとも菫子だけは無傷なままだった。それ故に周囲の人間に不幸を呼ぶ「不幸の菫子さま」と忌まれるようになったのだ。 菫子は以前沙夜から聞いた「あやかし」の事を考えていた。 美しい宝石の華を与え何時か魂を取りに来るあやかしの御伽噺は、菫子の中で何時か来る時の確信。 何時からか肌身離さずもっている美しい珠を手に、いつかあやかしが何時か魂を取りに来てくれるのを――己の死を待つようにすらなっていた。 姉を無邪気に慕う末の異母妹・薔子(しょうこ)からおかしくなりゆく母の様子を聞いた菫子は、これ以上災いを周囲に齎す事を恐れ屋敷を離れる事を決意する。だが、その夜菫子の前に刃を手にした母が現れる。母が壊れた責任を感じた菫子は甘んじてその刃を受けようとするが、突如として現れた灰色の髪の男・氷桜(ひおう)によってそれは阻まれる。流麗な美貌を持つその男こそが自分が待っていたあやかしであると悟る菫子。何処か懐かしく感じるあやかしは、母の凶刃から菫子を守るのだが……。 その運命の『再会』を境に、菫子の世界は変わっていく。 唯貴の、沙夜の、薔子の想いを絡めとりながら、不可思議な夢と共に菫子を取り巻く運命は収束して行く。 全ての真実へと至る悲哀の終焉へと。 ※時代設定的に、現代では女性蔑視や差別など不適切とされる表現等がありますが、差別や偏見を肯定する意図はありません。 ※この作品は『カクヨム』『ノベルアップ+』『Novelism』『エブリスタ』様にも掲載しています。