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作:葛生 雪人

記憶をめぐる、彼と少女の物語

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最終更新:2020/12/1

作品紹介

この世には『遺却の湖』という名の、人の記憶を溶かし石にかえてしまう湖があった。 捨てたい記憶。捨てたい自分。苦しむものたちがその特別な力にすがり湖を目指した。 そのひとつ、険しい山々に抱かれる湖で石を拾い続ける男・ヴァール。 ある日彼の目の前でひとりの少女が湖にその身を投じた。 望んで記憶を捨てたはずなのだが、目覚めた少女は信じようとはしなかった。 以前の自分がなぜ湖の力にすがったのか。 真実を求めヴァールや村人を巻き込んだ『理由探し』を始めるが……。 『記憶』をめぐり繰り広げられる、『彼』と『少女』の物語。 【重複投稿作品】 この作品は2022年2月より小説投稿サイト『小説家になろう』でも公開しています。

ファンタジー異世界軍人ロストテクノロジー山岳民族

評価・レビュー

記憶を失った少女と、彼女に巻き込まれた男。彼が最後にした決断は——。

 山岳民族の住む山奥にある『遺却の湖』。その水に触れた者は、記憶が溶けてしまい、別人のようになってしまうという——。  その溶けた記憶が凝ってできた「追憶の石」を拾い集めて日々の糧に変えていたヴァールは、その湖で一人の少女に出会う。  硬質で美しい湖と静かなヴァールの心情の描写から、少女ビルカが意識を取り戻した後の圧倒的に無邪気でヴァールを振り回すギャップが凄まじく、思わずニヤニヤしてしまいました。  彼女に絆されるでもなく内心でぼやきながらも、ついつい世話を焼いてしまうヴァールと全力でそこに甘えていくビルカのほのぼのしたお話になるのかと思いきや、やがて語られるヴァールの暗い過去。  全ての記憶を失いたいと思うのがどんなことなのか、ビルカがその特異な能力を使っている時に、ヴァールだけがその悲しみや苦痛に気づき、気づいてもらえたことで、半ば無意識に涙を流したビルカのシーンで胸がぎゅううっとなりました。  やがて、ビルカの過去が明らかになり「変わりたくない」と言っていた彼が駆け出す背中はもう最高に格好いいのです……!  彼らを見守る山岳民族の守り神やその使いの青年、そして彼を気遣う少女カムラや村人たちがなんだかんだみんないい人たちなのもほっこりポイントでした。  ぼやきがちだけど優しい元軍人と破天荒に無邪気な少女の運命の物語、本当におすすめです!

5.0

橘 紀里