恒星間宇宙船は、加速を続けていた。このままでは、太陽系を飛び出してしまうことに、間違いはなかった。「くそッ、ここまで来て!」マサルは、目の前の制御盤に拳を叩き付けた。恒星間旅行者の帰還を待って、冷凍睡眠装置の中で横たわる人々は、いつしかコスモ・マドンナ、宇宙の聖母達と呼ばれるようになった。実際には、乗組員の家族には男性も女性も、大人も子供も含まれていたのだから、マドンナというのは正しくはない。その人達を目の前にして……。
更新:2007/7/26
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フランス南西部を流れる、ロアール川の流域には、いくつかもの古城が点在する。そこは、この国に無数に存在する観光ルートの一つだった。しかし、フランス政府の財政事情も手伝って、そのどれもが見学可能という訳ではなかった。外観は立派でも、中は廃虚同然であったり、土台と外壁以外は、すべて崩れ落ちてしまったようなものも多かった。観光ビザで入国した秋津隆也は、そんな薄暗い廃虚のような城の一つの中で、大きく口を開けた石畳の床下を覗いていた。その穴の中で、炭坑夫のように穴を掘っていたのは、ピエールという名の金髪の美青年だった。日本で、建築家としての夢に敗れた隆也は、この国の古い城を巡る旅を続けていた。
更新:2007/7/17
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彼女の名前は、クリスターナ。全身を、薄緑色の半透明な結晶板に覆われた、美しい船だった。彼女を覆う結晶板は、特殊な性質を持つ、変位相クリスタルと呼ばれていた。彼女は、あらゆる意味で貴重な船だったのだ。ところが、どういうものか彼女には心があったのだ。しかし、目覚めたクリスターナは孤独だった。ところが、意外なことに意識が確立して間もなく、彼女は自分の存在を知る人間に出会った。それは、これも半ば偶然、彼女に乗り込むことになった精神感応会話、即ちテレパスの能力を持つ娘キアラだった。
更新:2007/7/10
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柳京子は、不幸だった。彼女は、母の祖父が細々と伝える高野流格闘術の、唯一の継承者であること以外、取り立てて言うことのない、平凡な女子高生だと思っていた。もっとも、彼女の周辺、特に彼女の通う私立聖麗高校の生徒達は、そうは思っていなかった。何しろ彼女は、街の不良やヤクザを相手に、百戦して百勝。武術の競技にこそ参加していなかったが、その強さは女子高生離れどころか、人間離れしていると、彼らは噂していた。そんな京子が、ひょんなことから、荒神彩香と知り合った、いや、知り合ってしまったことから、彼女の不幸は始まった。
更新:2007/7/12
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そもそもの間違いは、両親が結婚したことだと僕は信じていた。かつて、ロフトの女王とまで呼ばれ、芸能界入り間違い無しと思われていた母親が、何を勘違いしたのか平凡な父親と恋に落ちた。いや、平凡な父親ならまだ良かった。僕の父という人は、頭脳明晰にして学術優秀なはずなのだが、徹底的にお人好しだった。それも、ただお人好しというだけではない。信じられないくらい間が抜けていて、しかもどう考えても一般常識に欠落していた。そんな父親が、学歴だけで採用された一流商社の、激烈な出世競争などに勝てるはずもない。簡単に上役の機嫌を損ね、同僚に欺かれると、最果てのアラスカへと左遷された。
更新:2007/7/14
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やたら女好きで、それ以上に酒好きの上に剣の腕前もめっぽう凄いグレンは、とある国の六十六番目の王子であった。一方、何をやらせてもうまく行かない九十九番目の魔法使いの弟子ニッカは、とうとうたった一つの火遁の術を身に付けただけで、これもまた諸国修行の旅に、ていよく追い出されてしまった。そしてそんな二人が、今度は三十三番目のお姫様であるシェリーと出会ったことから、思いもよらない面倒に巻き込まれてしまう。それが、運命的な出会いを導き、彼らが引き返せない新たなる旅路につく時、一つの伝承が始まるのだった‥‥‥。
更新:2007/7/13
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