ユーザー登録・ログイン

新規登録

ログイン

作品

レビュー

登録/ログイン

その他

オノログについてFAQ利用規約プライバシーポリシー問い合わせユーザー管理者Twitter
レビューを投稿
書籍化
コミカライズ原作
ジャンル別
サイト別
サイト関連
運営している人

@オノログ

望郷と初恋の物語

5.0
0

 小さな島で生まれ育った恋仲の男女が、高校進学のために島を出て別れ別れになるお話。

 ピュアで切ない王道の恋物語です。全編を通じてどこかノスタルジックというか、読んでいて胸がきゅうっとなるような、独特の雰囲気の盛り上げ方がすごい。丁寧に組み立てられた各種の設定、というか道具立ての巧みさだと思います。自分は小さな島に生まれ育った経験はないのですけれど(田舎ではあったもののここまでではなかった)、それでもしっかり伝わるし想像もできる、この丁寧な語り口が魅力的でした。

 例えば、小中学合わせて生徒児童が13人しかいないこと。ここまでの田舎というのはきっと珍しくはあるのですけれど、でも割合として珍しいだけで、フィクション的な意味での〝特別〟ではないんですよね。ふたりだけの思い出という意味での特別ではあっても、現実として不思議だったり奇跡だったりすることはない。序盤のまだ幼い彼らの足跡、初々しい恋模様はきっと誰にでもありえた普通の恋の積み重ねで、だからこそ伝わるというか感じられるというか、なんか脳の奥の方から勝手に湧いてくるみたいなこの甘酸っぱさ! さっきも言った道具立て、クローズアップする詳細の取捨選択が実に巧みで、例えば序盤であれば「グラウンドの端っこ」「停泊場」「オリオン座の下」とか、力のある強い情景を自然に投げつけてくるのが最高でした。舞台を島にした意味がはっきりわかるというか、絵的なイメージと彼らの心情が、しっかり結びついて胸に刻み付けられる感じ。

 非常に甘酸っぱく仲睦まじい、初々しい恋の様子が描かれているのですが、当然物語はそれだけでは終わりません。この先はお話の筋に触れるためネタバレを含みます。

 中盤以降、相思相愛のふたりの前に立ちはだかる障害。高校進学のためには島を出る必要があり、どうしても離れ離れになってしまうのですが、でもお互いいつかもう一度会おうと交わした約束。もっとも、ここまでは最初からわかっていたことで、だから本番はその先です。

 そこからの畳み掛けるような苦難というか悲劇というか、ふたりを引き裂くことになる大きな運命の、その抗いようのなさが強烈でした。まごうことなき悲劇であり、そしてそれを乗り越えるからこそ光る恋。無条件に良いです。恋愛小説に求めるものをしっかり提供してくれる、この堅実さがとても好みでした。

 一番印象深い、というか単純に好きなのは、やっぱり舞台です。舞台設定のディティールが、物語そのものの強さを裏打ちしているところ。小さな島。そしてタイトルにもなっている『ひんぎゃ』。自分自身はそこに過ごした経験もないのに、でも郷愁を誘う風景としてしっかり胸に食い込んでくる、切なくも力強さのある作品でした。

和田島イサキ

登録:2021/12/13 19:59

更新:2021/12/13 19:59

こちらは和田島イサキさんが読んだ当時の個人の感想です。詳細な事実については対象作品をご確認ください。

同じレビュアーの他レビュー!!

610 light-years Love

来世における巡り合いのお話(※語弊のある表現)

 約九十年の人生の締めくくり、間抜けな人生だと自嘲しながらも、でも満ち足りて往生するひとりの男性のお話。  しっとりと落ち着いた描写が胸に沁みる、切なくも優しい手触りの人間ドラマ、のようなSFです。ドSF。どうやってもネタバレになるというか、いやそもそもタグの時点で明かされてるも同然な部分なので〝そこ〟についてはもう気にせず触れてしまうのですが(困る人はいますぐ本編へ!)、シミュレーション仮説をモチーフにしたお話です。その辺りを端的かつ印象深く象徴しているのが、本作のキャッチである『あなたの愛する人は本当に実在するのでしょうか?』の一文。これ好きです。本編の内容を読み終えてからだと、より強く意味合いが強調されるような感覚(後述します)。  導入であるところの「九十年の人生」、それはすべて仮想現実だった、というところから始まる物語。宇宙船での星間航行中、どうしても持て余すことになる長い時間を潰すための、娯楽としての人生のシミュレーション。要は長い夢から覚めたようなもので、さっきまでの人生はすべて作り物でしかなかった、というのがこのお話の肝というか前提になるわけですけれど。  ここで面白いのがこの主人公、というか作中の人類全般のことなのですけれど、寿命が半永久的に続くんです。現生人類の人生一回分の時間くらいは、ほとんどあっという間の出来事。さすがに未来(千年後)の世界だけあって全然違うと、それ自体は特段なんてことはないのですけれど。  宇宙船のコンピュータによってシミュレートされた方の人生、それが千年前(作品外における現代)の世界であるということと、そして『シミュレーション仮説』というタグ。これらの意味するところというかなんというか、まあ要するにメタ的に見ることで作品の主軸とはまた別の妙味を上乗せしてくるという、この構造とそのさりげなさにニヤリとしました。あくまでも副次的に書かれている、そのお洒落というか上品な感じ。  さて、その上でその主軸、物語のメインとなるドラマなのですが。まんまとやられたというか綺麗に決まったというか、きっちり組まれた構造の綺麗さにうっとりします。単純にロマンティックないい話でもあるのですけれど、これ構造だけ見てちょっと見方を変えるなら、ある意味転生ものみたいなところもあるんですよね。いわゆる前世からの生まれ変わり、離れ離れになった運命の相手に再び巡り合うお話のような。王道であり古典でもあるその類型を、でもただSF的な設定の上に持ってきただけでなく、まったく違う手触りに変えてみせる。物語を自分の(作者自身の)ものにする、というのは、たぶんこういうことなのかなと思いました。  あと大好きなところ、というか絶対触れずにはいられないのは、やっぱり結びのあの一文。このサゲの爽快感がもう最高に好きです。伏線等も綺麗に回収しつつ、すべてがこの瞬間のために描かれた物語。とても綺麗で、しっかり壮大なSFでありながらも、その向こうから人の生を伝えてくれる素敵な作品でした。

5.0
0
和田島イサキ