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作:かんなづき

ひんぎゃ

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未評価

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最終更新:2020/9/4

作品紹介

 東京都という名前だけを借りている本州とは離れた海に浮かぶ一つの島。カルデラ火山を中心としてなる人口200人弱のその島で生まれ育った俺・西尾勇真と幼馴染の栄聖奈は十五歳を迎える中学三年生だった。しかし島に高校はないため、この島の子どもは十五歳になったら島を出て本州の高校へ行くという習わしがあった。  本州東京都へ行く俺と広島へ行く聖奈。  たった一つ約束を残して、俺らは島を出た。

恋愛幼馴染約束携帯電話遠距離忘れた青春

評価・レビュー

望郷と初恋の物語

 小さな島で生まれ育った恋仲の男女が、高校進学のために島を出て別れ別れになるお話。  ピュアで切ない王道の恋物語です。全編を通じてどこかノスタルジックというか、読んでいて胸がきゅうっとなるような、独特の雰囲気の盛り上げ方がすごい。丁寧に組み立てられた各種の設定、というか道具立ての巧みさだと思います。自分は小さな島に生まれ育った経験はないのですけれど(田舎ではあったもののここまでではなかった)、それでもしっかり伝わるし想像もできる、この丁寧な語り口が魅力的でした。  例えば、小中学合わせて生徒児童が13人しかいないこと。ここまでの田舎というのはきっと珍しくはあるのですけれど、でも割合として珍しいだけで、フィクション的な意味での〝特別〟ではないんですよね。ふたりだけの思い出という意味での特別ではあっても、現実として不思議だったり奇跡だったりすることはない。序盤のまだ幼い彼らの足跡、初々しい恋模様はきっと誰にでもありえた普通の恋の積み重ねで、だからこそ伝わるというか感じられるというか、なんか脳の奥の方から勝手に湧いてくるみたいなこの甘酸っぱさ! さっきも言った道具立て、クローズアップする詳細の取捨選択が実に巧みで、例えば序盤であれば「グラウンドの端っこ」「停泊場」「オリオン座の下」とか、力のある強い情景を自然に投げつけてくるのが最高でした。舞台を島にした意味がはっきりわかるというか、絵的なイメージと彼らの心情が、しっかり結びついて胸に刻み付けられる感じ。  非常に甘酸っぱく仲睦まじい、初々しい恋の様子が描かれているのですが、当然物語はそれだけでは終わりません。この先はお話の筋に触れるためネタバレを含みます。  中盤以降、相思相愛のふたりの前に立ちはだかる障害。高校進学のためには島を出る必要があり、どうしても離れ離れになってしまうのですが、でもお互いいつかもう一度会おうと交わした約束。もっとも、ここまでは最初からわかっていたことで、だから本番はその先です。  そこからの畳み掛けるような苦難というか悲劇というか、ふたりを引き裂くことになる大きな運命の、その抗いようのなさが強烈でした。まごうことなき悲劇であり、そしてそれを乗り越えるからこそ光る恋。無条件に良いです。恋愛小説に求めるものをしっかり提供してくれる、この堅実さがとても好みでした。  一番印象深い、というか単純に好きなのは、やっぱり舞台です。舞台設定のディティールが、物語そのものの強さを裏打ちしているところ。小さな島。そしてタイトルにもなっている『ひんぎゃ』。自分自身はそこに過ごした経験もないのに、でも郷愁を誘う風景としてしっかり胸に食い込んでくる、切なくも力強さのある作品でした。

5.0

和田島イサキ