伝統ある女学園の頂点に座する少女を取り巻く、5人の少女たち。
思春期特有の万能感は自らを物語の主人公だと思わせる。
閉じられた世界のごく限られた期間、少女が少女でいられる時間をどう生きるのか。
その顛末はあまく、かぐわしく、知らぬ間に広がっていく毒のようでもありました。
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全寮制の女子高を舞台にした、ほんのり百合の香りがただよう現代ドラマ作品です。
全6話(約6万字)で毎話、違う語り手の視点で話が進められます。
いいところで物語が締めくくられており、その結末に納得すると同時に「この先が気になる……!」としばらく唸りました。
そして「なるほど『悪役令嬢』とはこういうことを言うんだな」と感嘆しました。
タイトルに「花の教え」と添えられているように、話の中にはいくつもの花が登場します。
それらは語り手にうまく絡められており、主な舞台となるサロンだけでなくそれぞれの心情にも合っていて、この閉じられた世界観を彩っていました。
そして『花言葉』もまた意味深です。
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あらすじ欄が『プロローグ』のように書かれているため、まずそこから読んでほしいです。
舞台となる学園の背景が語られ、物語の中心となる『エトワール』と呼ばれる二人一組の少女たちがどういった存在なのか分かります。
そして『物語』は彼女たちが所属する文芸部の部員勧誘に行動をうつすところから始まります。
私が『これぞ悪役令嬢と言える一作だ』と評したこちらの作品。
読んだ方には理解していただけると思います。
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語り手は自身の背景を語る中で、いろんな考え方や他者への接し方を読者に示します。
一人称で語られるからこそ『本人』が見て感じたことと『他人』が知って感じることに差が生じることが面白い。
視点が変わると、同じことでも違う意味になってくる。
この物語の場合は『秘密』というワード自体、表裏一体のコインのように扱われるのが印象的でした。
そして語り手の少女たちは必ず、それぞれ違った角度から『エトワール』の二人を見ています。
ときには苦手意識を、ときには羨望の眼差しを。
一話一話いろんな少女の目線を通して魅せてくれます。
この物語においては『読者』ですら一種の舞台装置なのでは、と感じました。
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ある話で「少女時代に同性しかいない空間で、同性に惹かれるのは一種の『ハシカ』のようだ」と描写されていたのが、個人的には好きでした。
自由が少ないところに生きている閉塞感や、その中で自分の性的嗜好に気づいたり勘違いしたり、本気になった人には振り向いてもらえない寂しさなんかも伝わってきました。
最初の語り手と、起承転結の『転』の部分が、個人的にはとても好きです
登録:2021/7/17 13:43
更新:2021/7/23 17:15