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ジャンル:ファンタジー

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イッヌ-幸せの運び手-

ジェットコースターの速度で回るメリーゴーランドのような小説

 授業中、校庭に犬が乱入してきて騒然となる教室のお話。  キャッチコピーに偽りなし、まさに神話という趣の作品でした。感想を言語化するのが非常に難しいお話で、何を言おうとしても「すごかった」になってしまうのが困ります。あらすじをうまく紹介できないというか、好きなところに触れるために作品の中身について語ろうとすると、まったくどうしていいか分からなくなるような感覚。お話の筋そのものがかなり前衛的というか、そのまま受け止めると相当に混沌としていて、要約ではただの意味不明な文章になってしまうんですよね。面白いのはわかるんですけど、でも「どこが」「どう」を説明するのがもう恐ろしく難しい。  とりあえずわかることとして、文章がとても最高でした。偉そうになっちゃうのであんまり言わないんですけど、それでも「上手い」と言いたくなってしまう文章。勢いというかドライブ感というか、なんだか読んでいるだけで気持ち良くなるような書きっぷりの良さがあって、それが内容のかっ飛び具合とも合わさり(というかこの内容だからこその文章だと思う)、とにかく読んでいて楽しいという実感がありました。  特に、というか個人的なツボとしては、中盤の山場であるシームレスに神話化していくところが大好きです。世界の外枠を規定するべきタガのようなもの、この場合はおそらく視点保持者の自我が、でも急にしゅわしゅわ溶けちゃう感じ。その上でまったく衰えない主張の火力、食い込んでくる牙の力が緩まないところ。もちろん言い回しの妙や読みやすさもあるのですけれど、とにかく不思議な心地よさがありました。  そしてもちろん、そこに決して負けていないのが物語で、特に中盤を抜けて終盤に入ってからの展開(神話を見せてからの現実的な危機)なんかはもう本当に大好きなのですけれど、でも本当に説明できません。きっと支離滅裂と言ってもおかしくないくらいのはちゃめちゃっぷりなのに、どうしてこんなに筋の通った物語を感じるのか? 危機が本当に危機していて、そこからの解決が本当に強いんです。「訪れた危機の解消」自体が解決であるのは当然なのですけれど、でも同時にそれを成したのが彼であることそのものが、彼の存在をはっきり確実なものへと変化させている、というような。  ここまでどこか現実味のなかったティコ太郎という存在、それが初めて実体を伴ったのがこの話の終幕であり、つまり物語的な状況を解決するのみでなく、彼そのものをも救済してしまっているところがこう、なんですか、本当に〝こう〟なるから困るんです。最初に言った通り、頑張って説明しようとすればするほど、異常な文章が出来上がってしまう……一体どう伝えたらいいんでしょう……。  いやもう、本当に面白かったです。地味にタイトルも好きです。ほんのり感動映画風。そして全然間違いではないところ。でもそこが主人公みたいな扱いだけどいいのかしら、という、細かいツボを突いてくれる作品でした。好きです。

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和田島イサキ

月と酔っ払い

突然の転調と、そこから始まる幻想的な風景

 親に押し付けられた借金で首が回らなくなった『ぼく』が、杏子と一緒にテキーラを飲んで、そのまま石抱えて湖に沈んでいくお話。  とまあ、ここまで書くと完全に入水自殺のお話で、事実そのつもりで読んでいたのですけれど。よく見たら現代ファンタジーで、どうも現実の世界とはちょっと勝手が違うみたいです。  例えば5メートル級のウナギがいたり、あと入水しても酔っている間は窒息しなかったり。冒頭を抜けたあたりでの突然の転調、急に物語のリアリティラインが変わったように見えて、でも実は全然そんなことはない(ただそう錯覚させられていただけ)という不意打ちが面白かったです。入水自殺にしか見えなかった目の前の景色が、まったく違うものに見えるようになる瞬間。  タイトルと章題に共通する『酔っ払い』という語の通り、作品全体に通底する酩酊感、ちょっと酔っ払ったみたいな幻想の風景がとても魅力的です。青く染まった水中の景色。いえ夜の湖なので暗い(黒い)のかもしれませんけど、でも月光が届いているようなのでやっぱり青のイメージ。酔生夢死、というとちょっと意味が違うのですけれど、でも酔っていて生きるか死ぬかの際にあって、それでいて夢のような景色が続いているなので、むしろ今日からこっちが酔生夢死でいいと思います。  この世界の物理法則は結構独特なようにも思えるのですが、でもそのわりにはスッと飲み込めたのがなんだか驚きました。わかりやすさというかわからせ上手というか。なんだか絵本のような雰囲気、という感想は、でもたぶん嘘っていうか登場人物のおかげだと思います。だってやってること自体は絵本みたいな牧歌的な世界と程遠い(借金に追われての命がけの冒険)。にもかかわらずそんなに悲惨な感じを抱かせない、杏子さんと『ぼく』のこのふわっとした感じがとても好きです。  ふんわりした幻想的なお話ではあるのですけれど、同時にしっかり物語しているのも嬉しいです。苦難があり、それに立ち向かい、でも敵わず危機に陥ったり……と、だいぶしっかりした冒険をしている。特に終盤手前、絶体絶命の状況を半ば受け入れそうになりさえするのですが、でも悲劇的であっても暗い話にはならないんです。このふんわりした優しい雰囲気と、実際に起こっている出来事のハードコアさ加減、このふたつがうまく両立されているというか、それぞれいいとこ取りしているのがすごいなと思いました。どうやってるんです?  その上で、一番好き、というかもう心底最高だと思ったのは、やっぱり終盤から結びにかけての展開です。ハッピーエンド。それも個人的にはもうこれ以上ない、まさにお「手本のような」という形容のぴったりくる感じのそれ。幸せな結末の前にはまず苦難があって、その振れ幅が大きければ大きいほどハッピーエンドの威力は増すのですけれど、でもさっきの〝いいとこどり〟のおかげで、余計な副作用(重かったり辛かったりするところ)が抑えられている。読み手の心が折れないようにしてあるのに、でも落差だけはきっちり効いている、というこのずるさ。  よかったです。本当にただただ「無条件にいい」と言いたくなる、心の洗われるような見事なハッピーエンドでした。大好き!

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和田島イサキ

生命の輝き

ともすれば忘れがちな生命というものの無常さ

 とある研究施設における、曰く名状し難い謎の知的生命体に関する実験記録。  ジャンルは現代ファンタジーですが、SFやホラーのような手触りもあったりする作品です。なんならハートウォーミングな学園ラブコメっぽい要素も——いや、「ある」というのはさすがに言い過ぎですけど、「なくはない」なら嘘にはならないと思います(※個人の感想です)。  こう書くとなんだかよくわからん感じに見えるかもしれませんが、でも恐ろしくまとまりが良く完成度の高い、掌編のお手本みたいな作品でした。展開や設定に無駄弾が一発もなく、すべてが綺麗に繋がってひとつの物語を構成している感じ。  こういったところで作品外の要素について触れるのはあまり趣味ではないのですけれど、しかしこの作品に関してはどうしても避けては通れないというか、だってわずか数時間で書き上げられているんですよ? 元ネタ、というよりは実質「きっかけ」とか「お題」くらいのものだと思うのですけれど(本作の著作性はさほど元ネタには依っていないように思えます)、タグにもある〝万博のそれ〟が公表されたのが確か午後三時か四時くらいのこと。この作品の公開がだいたい夜の十時前で、つまり長くても六、七時間しか執筆時間がない。もっとも、ただ書くだけなら筆の早い人には不可能ではないかもしれませんが、しかしそんな〝だけ〟とはどう見ても程遠い出来栄えというか、なんなんでしょうこのすんごい完成度。設定を練るだけで結構かかりそうなものを、でもあんな一瞬でどうやって……まさか魔法……?  いや本当にただの時事ネタ、速さが勝負の一発ネタ的なものならよかったというか、正直そういうものだと勝手に思い込んで読み始めたのですけど。でも読み始めてすぐ「ごめんなさい完全に侮ってました」と土下座したというか、普通に面白いのが本当に腑に落ちません。この速さでこの内容。そこはトレードオフじゃないとおかしいっていうか、なんか世の理とかに反してしまうのでは……魔法……?  設定の見事さやそれを活かした構成、なにより演出のうまさはもう言うまでもないのでこのさい割愛するとして。触れたいのはやっぱりお話の筋そのもの、というか登場人物の抱えたドラマがとても好きです。特に主人公の人物造形、バイオ系研究者の事情の妙な生々しさに加えて、彼がなんらかの大きな病を患っていること。生命の輝きを主題とする作品の、その主人公が生命工学系の研究者であり、なにより生命についてとても逼迫した立場に置かれているという事実。  単純に「生命の輝き」という言葉だけではどうしても綺麗事めいたお題目みたいに響いてしまうのが、しかし生死の際にある人にとってはまた別の響きを伴って聞こえるのかもしれない、と、そんな当たり前の事実にいまさら気づかされたような気分です。ショックというかなんというか、それは自分が普段どれだけ生命というものに対して適当に向き合ってきたかということの証左で、でもそれってある意味とても幸せな身分なんだろうなあと、反省することしきりでした。普段、死を忘れて生きていけるのはある種の特権ですね。  あとはもう、こう、全部です。本当に好きなところがいっぱいというか、無駄弾がないから好きなところしかない。物語的に主人公の行き着いた先とか、書き出しと締めの憎い演出とか、あとなんだかとっても可愛いヒロインとか。いや可愛いというかなんというか、とてもキラキラしていてそばにいるだけで眩しくて、だからこそ納得のハッピーエンドでした。面白かったです。ヒカリちゃん大好き!

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和田島イサキ

そして、世界に平和が訪れた

『めでたしめでたし』のその先に

 魔王を見事打ち倒した勇者一行の、その凱旋、ではなくそれ以前の単純な帰路のお話。  ファンタジー、というか、ある種の寓話のような物語です。もう読む前からエンジン全開で殴りかかってくるというか、タイトルに対して各話章題の不穏さがすでにやばい。加えて冒頭の段落、シンプルに全体を俯瞰するようなこの一行目を見た時点で、この先なにを見せられるのかうっすらわかってしまう、というこの手際。もちろん具体的にどうなるのか、詳細な展開まではわからないのですけど、でもお話がどっちの方向に向かうのかくらいは見当がついてしまって、しかしだからこそ真正面から食らうしかないこの〝わかっていたのに躱せない〟一撃。しっかり丁寧に組み立てられたお話で、まんまとボコボコにされてしまいました。  設定というか、いわゆる『魔王と勇者』的なファンタジー観の、その使われかた(もしくはそれを採用していること自体)が好きです。この物語の筋だからこそ光る設定。この勇者と魔王、舞台設定の説明を大幅に省略できるため、ドラマの部分にのみ集中できる——という利点ももちろんあるのですけれど。でもそれ以上にこのお話ならではというか、普遍化された設定であるが故に生じるある種の寓話性みたいなものが、この物語の核そのものに対して落差として働いて、そのおかげで浮き彫りにされる無常感、あるいは残酷性のようなものが、胸にグサグサと突き刺さるかのようでした。  勇者による魔王討伐の物語。ハッピーエンド、無辜の民草からみた『めでたしめでたし』の物語は、でも当事者たる彼らにとっては必ずしも栄光に満ちたものではない、というお話の筋。きっとこの世界に永劫語り継がれるであろう伝承の、その裏側に存在する誰にも語られることのない悲哀。果たして彼ら自身はどう思ったのか、もしかしたら心残りなく覚悟の上なのかも知れないけれど、でも悲しいものはやっぱりどうしたって悲しい、つまりは観測者の立場で見るからこその残酷さ。  ハッピーエンドを主題に書かれたお話ではあっても、でも彼らのこの行く末を決して「幸せ」とは呼びたくない——と、そう読んでいたところに最後の最後、堂々書かれた結びの一文がもう本当に好きです。  もちろん、この終幕で何かが帳消しになるわけではありません。勇者一行の足跡それ自体は何ひとつ変わらず、彼らの苦悩や悲哀はまだ人知れずそこにあるのに、でもどうしてこの一文だけで何かが救われてしまうのか? すごいです。この一文、未来を描いたことで示される確かな救済。起きた現実そのものは打ち消せなくとも、でも犠牲を払えばこそ成し得た彼らの偉業の、そのおかげで人々はもう苦しまずに済むという現実。それから長い時を経てなお、そこに捧げられ続ける感謝と祈り。幸せな方へと繋がり広がっていく世界を、この締めかたひとつで書き表してみせることの、このどうにも言いようのない気持ちよさ!  素敵でした。直接に、また具体的には書かれずとも、でもそこに『ハッピーエンド』が確かにあるのだと感じさせてくれる、悲壮ながらも優しい物語でした。

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和田島イサキ

滅びの国の氷姫

誰ひとり『正しさ』を捨てることはできない

 民衆の反乱により滅亡の危機に瀕する王国の、その第一王女の半生を綴った回顧録。  というか、思い出話というのが正確かもしれません。偶然知り合った迷子の少女に、おとぎ話という体で語られる物語。舞台設定としてはハイファンタジーで、いわゆる剣と魔法のそれというか、ワクワクできる要素もしっかり詰まっています。  内容はなかなか骨太で、国家規模の動乱を王女の目線から描いた物語です。民衆と王族の階級闘争、あるいは互いの正義がぶつかり合うお話。一見、主題の部分をストレートにぶつけてくるようにも見えるのですが、でもこれがなかなかに曲者というか、読んでいてどうしても〝ひっかけ〟のようなものを警戒せざるを得ない、視点の罠を駆使した書き方が特徴的です。  主人公である王女ライラと、その親友であり護衛役でもある魔術師のメル。すべての物事が完全にこのふたりの視点を通してのみ書かれているため、ほぼ一方の偏った言い分を聞いているにも等しい状況。ましてや王族ということもあり、どうしても脳裏にちらついてしまう「もしかしてダメな為政者と化しているのでは?」という疑念。いわゆる叙述トリックあるいは〝信用できない語り手〟の変奏というか、こういった手法で読み手の側からの積極的な考察を誘発する、その罠にまんまと乗せられた感じです。果たして正義はどちらの側にあるのか? いやそれぞれに異なる正義があるのですけれど、でも自分だったらどっちにつきたい? という、その問いをずっと考えさせられている状態。  結果どうなったかはまあ、是非本編で——というわけで、以下は思い切りネタバレを含みます。  物事の善悪、自分ならどちらにつくかの判断材料は、結局最後の最後までほとんど伏せられたままでした。ヒントがあるとすればこの物語が『ハッピーエンド』であると、そうキャッチコピーで予告されているところ。というのも、単純に結果だけ見たならこれ、まごうことなき悲劇なんです。  一度は自らが王女となり統治せんと思っていた国を、でも何ひとつ守ることができなかった、という結末。彼女の視点からは最後まで民衆は唾棄すべき悪として捉えられており、しかしおそらくは国外に逃亡したと思われる彼女の、その得た後日談(隠匿されていた蜂起の理由)の正確さは果たしていかほどのものか。いえわかります、さすがにここが誤情報というのは希望的観測がすぎると思うのですけど、でもせめてそうであってくれないとあまりにも救いがないというか、だって取り残された無辜の民草の今を思うとあまりにも……という、もはや完全な八方塞がりの状態。  さてそれでは希望的観測を捨てた上で、この物語をあくまで『ハッピーエンド』と読むなら? 王族という重荷から解放され親友と共に過ごす〝彼女個人の幸せ〟か、でなければ傲慢な王族を打倒し息を吹き返した〝国家とその民衆の幸せ〟と取るか。あちらを立てればこちらが立たず、このあまりにも残酷な二律背反。『ハッピー』のために差し出さねばならないコストの重さ、その容赦のなさに打ちのめされたような思いです。  内容、というか細かい一要素なのですけれど、玉座が好きです。座り心地の悪い椅子に腰掛けて、それでもなお平然としていた王。一度でもその座についていれば見えていたかもしれない『何か』が、あるいはそんな『何か』などどこにもなかったという可能性も含めて、しかしその機会もないままただ運命に翻弄されるしかなかった無情。結局何も確証のようなものは得られず、だからこそ考えても詮ないはずの『歴史のif』を望んでしまう、悲しくも壮絶な物語でした。

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和田島イサキ

影のあなたの

怪異に魅せられている人の心境とは

 両親を亡くし親戚に引き取られた不遇の少女が、散々にこき使われる日々の中で〝影〟と交流するお話。  ホラーです。と、完全にそう言い切ってしまうとたぶん語弊しかないのですけれど、でも相当にホラいです。ジャンルは現代ファンタジーとなっており、もちろんその通りの内容ではあるのですが、でも登場するものがどう見てもホラーのそれというか。だって作中の「影さん」がどう考えても〝あちら側〟の存在、読者の胸の奥をゾワゾワざわつかせてくれるタイプの何かなんです。つまり『読者に恐怖を提供することを主目的とする作品』という意味でのホラーではないのですけれど(たぶん)、でもそれ以外はホラーだと思います。手触りとか味わいとか。  で、その上でタグにある通りの「ハッピーエンド」をやってしまうのですからとんでもない。  以下はその結末に触れるためネタバレ込みの内容になります。  これがハッピーエンドしていること、そう読まされてしまうことがもう凄まじいです。だってこれ普通に考えたら絶対ダメなやつで、少なくとも〝あちら側〟に取り込まれているのは確実なはずで、つまり普通ならバッドエンドの要素しかないはずの幕引きが、でも一切の疑問も含みもなく「よかったね」と思える。しかもそれが自然になされているので最初はなんとも思わなかったのですけれど、でも考えれば考えるほどすごいというか、いやなんでしょうこれだんだん恐ろしくなってきたんですけど?  というのも、たぶんこのお話、ホラーとして(=読者を怖がらせるのを主目的とした話として)書いたらそのままホラーになっちゃいそうに見えるんです。  というか、現状でも結構ホラーしている。作中の「影さん」はざっくり言えば、主人公を苦境から救い出す超常的な存在としての役割を果たしているわけで、言うなれば「魔法使いのお婆さん」や「無敵のヒーロー」と同じ役回りのはずが、でもそんな要素は一切ない。救済をもたらす存在なのにポジティブに書かれていない。徹底してただ〝正体不明のあちら側の存在〟としてのみ書かれて、というかどう読んでも本当にただの怪異そのもので、にもかかわらずのハッピーエンド。あれっどういうこと? 自分はいま何を読まされた? いや読了時点では普通に(もちろん多少のゾッとするような手触りは残しながらも)「よかったー」ってなってたんです。でもこうして内容を意識的に振り返ってみると、どんどん困惑が増していく。  たぶんこれ、ほぼホラーそのものの話を「素敵ないい話」として読まされてるんです。でもですよ、だとすれば今の自分はもしかして、怪異に魅せられている人間と同じ状態なのでは……? そんな疑念が拭えないというか、いやすみませんやっぱりこれホラーだと思います。たとえお話自体がファンタジーであっても、彼女に取ってはそうだとしても、でも読んだ時点で一個上の次元でホラー化しちゃう……というか、彼女は救われたのに自分だけホラーの中にいるんですけど? おかしくない? おうち帰して?  いやもう、凄かったです。個人的な趣味に寄りすぎた読み方かもしれないですけど、本当に。  あと最後にどうしてもここだけは言いたいのですけれど、終盤点前で明かされる真実が好きです。本当は彼女自身わかっていたこと。眠いばかりの素直な子だと思っていたのが、でも突然開示されるあからさまな欺瞞。嘘そのものよりも「これくらいの嘘なら自然に吐ける」という事実、暗黙の何かを破壊するレベルの鈍器で頭を殴り付けられた瞬間の、あのびっくりするくらいの気持ちよさ。最高でした。彼女、ワーリカさんの眠りが永遠に幸せでありますように。

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和田島イサキ

サキュバスネード

タイトル+キャッチを目にした瞬間のときめき、忘れない

 突如ニューヨークを襲った未曾有の危機、大量のサキュバスを含んだ巨大ハリケーンと、それに立ち向かう男たちの物語。  混ぜるまでもなく危険物だったはずのコメディを、さらに混ぜるな危険のコメディにしてしまった恐るべき作品です。ていうか暴力。こんなの発想力を凶器にした殺人だと思います。  緊迫しているはずのドラマチックな状況に、でも明らかに場違いな〝サキュバス〟の一語を混ぜるだけで、もういろいろどうしようもないことに。いやおそらくオマージュ元と思われる映画の時点ですでにどうしようもないのですが(サメの竜巻)、でもそのどうしようもなさをさらに上書き・倍増してくるこの発想。だって元が完全なインパクトの塊なのに、それに押し負けない出力という時点で相当な異常事態ですよ……こんなの思いついた時点でもう勝っている……。  いや本当すごいです。おそらく『パロディ』と言っていいくらいにネタ元を連想させるタイトル(及び設定)ではあるのですが、でもその魅力や面白み自体はパロディのそれではないんです。作品外の何かに依存しない、独立した作品としての面白さ。逆に言うと『独立してるのに綺麗に被せている』という、ある意味矛盾したことを同時にやってのけているのがすでにすごい。  お話の内容は徹底したコメディで、頭を空っぽにして楽しめます。わかりやすさと勢いがあって、その辺りは下敷きとしたモチーフ、B級サメパニック映画のそれをそのまま再現しているような趣を感じるのがとても好き。ジェットコースターのように進行していくスリリングな状況を、ただそのまま(そして細かいあれやこれやに笑いながら)楽しめばいい作品だと思うのですけれど、でも同時に意外としっかりした人間ドラマが描かれていたりするところも面白かったです。  主人公であるメイスン・タグチの来歴や境遇、そしてそこに生じる苦悩や葛藤など。それが本編の活躍を経て解決あるいは前進するなどして、つまりよく見るとしっかり物語しているのだから侮れません。バーバラの存在や父との確執、そしてマークに対する感情の変化等、むしろ分量の割にはドラマが多いくらいなのだからまったく恐ろしい話。  とまあ、すごいところや好きなところ、そしてコメディとしての笑いどころはいくらでもあるのですが。中でも一番好きなのは——若干ネタバレになってしまいますが、このお話のラスボスにあたる存在です。ある意味どんでん返しとも言える衝撃の造形(※場合によっては「やっぱり!」あるいは「待ってた!」かもしれません)に加えて、今までの淫魔に比べて破格の扱い。いやむしろその「今まで」の方が軽すぎるのですけれど、でも実際ハリケーンの中に何匹でもいる以上はそりゃ大安売りにもなるよね、というこの無常感。笑いました。それもこの笑ったという感覚に、謎の爽快感がついてくるような不思議な面白み。  凄かったです。心を鷲掴みにして離さない強烈なインパクトと、その傍らで丁寧に綴られる人間ドラマ。にもかかわらず『B級』っぽさを失わない、しっかりした芯のある作品でした。

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和田島イサキ

ハッピーエンドへの導き方

『ハッピーエンド』の主体と客体

 ネタバレを嫌うひとりの男性が、逆に平気でネタバレしてしまうタイプの男性と出会って、いろいろ揉めたりするお話。  という、上記の一文はほとんどただの導入部分でしかないのですが。でもこの『ネタバレ』という要素の使われ方がなかなか面白いというか、物語の入り口として機能しながらもガッチリお話の本質に食い込んでいて、思わずむむむと唸らされたような部分があります。  タイトルの通りこの物語は『ハッピーエンド』にまつわるお話で、そしてなるほど『ハッピーエンド』という概念は、その名前そのものが重大なネタバレの要素を含んでいる、という事実。いや普通に当たり前のことではあるのですけれど、でもそれを〝実際にやる〟とどうなるか、という形で物語にしてしまう、その発想そのものに小気味よいものがありました。  ここから先はややネタバレを含みます。  構成が面白いです。前編と後編でくっきりふたつに別れたお話。前編だけを見るとちょっとしたショートショートのような趣ですが、それを踏まえてさらに踏み込んでくる後編の感じがとても好きです。物語の芯というか、面白みを感じさせる部分の変調ぶり。オチの切れ味が魅力の口当たりの良いショートショートから、読み手の思考や感情を動かしてくるどっしり手堅い内容へ、というような。要は落差と言えばそうなのですけれど、でも別に前編後編で話が切り替わっているというようなことはなく、文章やお話はスムーズに連結した上でのそれというのが大変綺麗で好みでした。  さらにネタバレ気味になりますが、やっぱり好きなのはその後編で語られている内容。主人公に共感、というか彼の立場になって考えたときの(ここが地味にうまいというか、単純な共感でなくこっちから彼の身に立って考えるように仕向けられている感じがもう大好き)、このなんとも絶妙な座りの悪い感じ。隔靴掻痒というかなんというか、きっと非の打ちどころのない幸せな終幕なのに、でもそこに行き着くしかなかったこの状況そのものに納得できない感覚。ちょっと捻れたようなこの不思議な状態を、そのまましっかりひとつのお話の形に仕上げてしまう、その構造というか構成というかがとても美しい作品でした。

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和田島イサキ

龍王ここに崩ず

終幕における幸せのかたち

 山とか谷とかもう陸そのものってくらいに巨大な龍と、その臨終に立ち会う羽目になった小さな妖精の、その対話とその後の顛末のお話。  いかにもファンタジーらしいファンタジー、というわけではないのですけれど(この言い方だときっと剣とか魔法とか冒険の旅のイメージが強そう)、でも「ファンタジーだからこそ」を目一杯使ったお話です。特に龍ことガイルベロンさんなんかは非常にわかりやすいというか、この体の巨大さに寿命の長さ、なにより生きてきた足跡のスケールの大きさなんかは、まず人間のそれとはまるで比較になりません。この大きさそのものがすでに魅力的というか、なんだか足元がソワソワしちゃうような壮大さをしっかり感じさせてくれるところが素敵です。  とにかく巨大で、小さな妖精や人間からはとても想像のつかない次元から物事を見つめてきた存在。本来なら対話など叶わないはずのその龍に、でも念話の力を持つ妖精の協力によって、初めて成り立った意思の疎通。それにより明らかになる龍の内心、いやあるいは望みというかむしろ性格そのものというか、その意外さがとても好きです。ややネタバレ気味の感想になってしまうかもしれませんが、ただこちらの予想や想定を裏切ってくるのではなく、その結果にとても共感させられてしまうところ。また対話相手としてそれを受ける妖精の感覚というか、その内心の変遷のコミカルさも面白かったです。期待から困惑、あるいは呆れのような感情になり、なんなら半ばツッコミ役みたいな役回りまで。こうしてみると龍も妖精も非常にキャラクターが立っているというか、性格そのものは自然な味付けなのに(極端なのはその大きさ小ささくらい)、でも造形そのものが実に生き生きとしている。この辺りが読み口に自然な味わいを与えているのだと思います。  そして、龍の最期とそれを踏まえての結末。余韻が美しいのもあるのですが、「ハッピー・エンド」という章題とあわせて考えると、より深みを感じさせてくれる幕引きでした。

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和田島イサキ

【××クロスオーバー(仮)】

もし、異世界転生者が別の異世界に住む住人に出逢ったら?!

1 物語の始まりは 紫電のテスト飛行の場面から始まっていく。順風満帆と思われた帰還飛行中に突如警告音が鳴り響く。一見何もないように思えた空は歪んでいた。異常な魔力濃度に反応したためと思われる。一気に加速し、危険領域からの離脱を試みようとしたのだが……! 2 関連の物語について 【異世界に創作キャラと転生しました。】 転生者が生まれ落ち、ロボットが存在する世界 〈こちらの作品のあらすじ〉 天界での書類上の手続きのミスで学校からの帰宅中に事故に遭って死んでしまいオタク少女。現実世界での輪廻転生までの待ち時間は150年。 担当の女神に猛クレームを入れた結果、異世界転生する事になった。そしてお詫びとして、主人公がよく知り、信頼するパートナーを一緒に送り込んだと言われるのだが……? 【片翼の鳥~出会いと別れの物語~】 の剣と魔法、そして呪われた存在がいる世界 〈こちらの作品のあらすじ〉 表向きには平和に見えても、絶えず争いの怒っている世界で、人間の殺めた魔族により呪われ、強大な呪いの力に苛まれる者たちが存在した。彼らは“呪い持ち”と呼ばれており、身近な者たちに不幸を呼び込み死に至らしめる呪いを“喰神の烙印”と呼ぶ。その力を継承し、永遠を生き続けることを余儀なくされた一人の少女が、世界の混沌とした流れを作り替えた手記、『黎明の立役者』の物語。 上記二つの登場人物が出てくるコラボ作品。 3 関連の登場人物について ・若桜 昶(わかさ あきら)手違いの事故により異世界から転生した元オタク女子高生。しかし一般的なイメージのオタクとは異なるマニアックなものを好む。射撃の名手や鉄道など。 ・涼月 亜耶(すずつき あや)若桜 昶の1次創作作品から産まれた人物。女神によりこの世界に転生された。想像上の人物でありチートレベルの能力を持つ。 〈呪いの烙印のある二人〉 ・ビアンカ 好奇心旺盛。彼女たちの辿り着いた世界の住人。 ・ヒロ 普段は優しく、にこやかな人? 彼の仕事は彼の領分である海の秩序と治安を守ること。 呪いの烙印は、人格を持っているようである。 4 物語について ある空間に吸い込まれ、謎の少女に”また逢いたかったから呼んだ”と言われた二人だったが、彼女との面識はない。抗議するものの、謎の言葉を残し、二人は別世界へと送り込まれてしまう。 着いた先で最初に出逢ったのは、以前に逢ったことのある人物たちであった。異世界から異世界へというのは、なかなかないのではないだろうか? 時間を超えるなどのスタイルならば見かけるが。ここでいろんなことを考えさせられる。異世界に転移した経験のある人間は、やはり”慣れているのか?” と、いうもの。例えば仕事なら、同じ職種につけば”慣れており、初動が分かる”などの利点もあり得るが。そう考えると、とても興味深い現象だと感じる。 果たして、二人は元の世界に戻ることができるのであろうか? 5 感想 異世界転生により、異世界に行った住人が更に別の世界に行くというのは、面白いと思う。異世界ものとファンタジーの違いは、異世界ものというのは”前世の記憶”を持っていることが多く、元の世界は現代である。すなわち、異世界もしくは空想の生き物や存在に対しての予備知識があることが多いのだ。自分が異世界に居ることに驚きはしても、ある意味耐性を持っていると言っても過言ではないのではないだろうか? 異世界同士というのは、とてもややこしい状態になるのだなと感じた。例えば地球に暮らしており、インターネットなどを活用することができるなら、他の国に対してそれなりに知識を得ることはできる。何が違うのか? どんなモノが共通なのかを事前に知ることができるということだ。 しかしそれが異世界であったなら、未開の地と同じ。無知であり、何が通じるのか分からない状態だということ。例え言葉が通じたとしても。そんなことを疑似体験できる物語だな、と感じた。 6 見どころ 異世界(同士)コミュニケーションというのは、異文化コミュニケーションと非常に似通っているなと感じた。もし似て非なるものが存在し、その事に気づかず話を進めていたならば? 噛み合っているような、嚙み合っていないような、誤解を招いたままその事に気づかず話が進み、何となく納得してしまうのではないだろうか? そういった笑いがここにはある。 元の世界に戻る方法のない昶たちは、ビアンカの力を借り伝言を受けとる。その事によって次の目的地が決まるのであった。しかしこの時点でも、二人をこの世界に呼んだ人物の詳細は不明。次の行き先で無事に見つけ出すことはできるのだろうか? 果たしてその正体とは?! あなたもお手に取られてみてはいかがでしょうか? お奨めです。

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crazy's7

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