C-LOVERS
この作品を読み始めた時の第一印象は「奇抜」の一言だった。 というのも、OPENING act を読むと分かるが、この作品が小説兼「舞台」に思えたからだ。私たち読者は、いわば「観客」ということになる。 臨場感あふれる冒頭に魅了され、読み進めていくと、登場する主な「役者」は6人の男女。 話が進むにつれて明かされていく彼らの境遇は、決して恵まれているとは言えないものだろう。そして、その境遇であるがゆえに抱えたコンプレックスは、とても根深いものだ。 時にそのコンプレックスは、同じような悩みを抱えた「観客」たちの心を揺さぶることもあるだろう。かく言う自分もそのひとりだった。克服するには、自分から踏み込んでいく勇気が必要……と、頭では分かっていても、実践するとなると簡単には出来ないものだ。 だからこそ、彼らにより共感することが出来たのかもしれない。 時間をかけながらも、彼らはそれぞれ、自らのコンプレックスに向き合い、克服しようとする。共通するのは「ひとりで」ではなく、「みんなで」向き合っていくこと。改めて人との繋がり、絆が大切だと思わされた作品だ。 次に彼らの舞台に魅了されるのは、そこにいる「あなた」かもしれない。 あなたが辛いと思った時、笑いたいと思った時……舞台の「観客」として、客席に足を運んでみてはいかがだろうか?
- 作品更新日:2021/6/10
- 投稿日:2022/11/14
スマイリング・プリンス
主人公の佐古川歩は福岡県にある障害者支援施設「おおぞら」に勤務している青年。 そこへ、下半身不随により通所することになった鴻野尚也。 歩が尚也に声をかけるが、尚也から返事はなく、笑顔もなかった。どうにか尚也の心を開き、笑顔を取り戻そうと、歩は日々奮闘する。 施設の現場をリアルに描いた作品だが、内容は決して重いものではない。改めて、人とどう接したら良いのだろうかと考えさせられる作品でもある。 また、作中に多く博多弁が登場するが、他県の人が読んでも意味が分かる程度の方言なので、読んでいて苦にはならないだろう。逆に、ご当地感覚が増すことで、施設の現場をよりリアリティに、また、よりライトに読者へ伝えることが出来ているのかもしれない。 感動あり、そして、時々笑いもあり。 オタクで頑張り屋の青年と、心身のリハビリに励む少年の成長物語を、あなたも是非ライトな気持ちでお読みになってください。
- 作品更新日:2022/6/23
- 投稿日:2022/11/14
人魚の花
主人公・澪の住む人魚の隠れ里へ、「ニンゲン」である政府の役人が訪れる。 澪と、彼女が姉のように慕う砂帆が砂浜を歩いていると、役人を連れた大人たちの姿が……。 役人がこの地を訪れた目的は「人魚の妙薬」を手に入れること。 里の長老に命令され、砂帆は役人とともに外界へ……澪は暫しばしの別れを強いられることになる。 「その肉は不老長寿の秘薬に。 その生き血は万病の治癒に。 その胆と灰は死者の蘇生に。」 利用し、利用されて……本当に利用しているのは人間と人魚のいずれにあるか。 この作品を拝読した時、冒頭の描写から引き込まれました。 磯の香りや、波の音が今にも聞こえてきそうな……自分が今、海にいるような感覚になれます。 作中の冒頭にある、 「踏み締める白砂、その都度キュウキュウと不可思議な音が鳴る」 この後の文章でも砂の音の描写がいくつかされており、私は過去に北海道の室蘭にあるイタンキ浜で聞いた鳴き砂 (終盤でも「鳴り砂」であることが分かります)のことを思い出しました。 イタンキ浜以外にも、京都の琴引浜ことひきはまや島根県の琴ヶ浜ことがはまなど、全国の様々な場所で聞くことが出来るようなので、どんな音がするのか、実際に聞いてみたい方は場所をよく調べた上で、現地を訪れてみるといいかもしれません。 ハマナスの花言葉――それは、作者からの一言コメントにある「悲しくそして、美しく」 まさに、人魚である彼女たちの生き様を象徴している花だと言えます。 人魚の伝説を題材にしたシリアスな物語。 丁寧で美しい描写に、読者は最後まで引き込まれるでしょう。あなたも一度読んでみてはいかがですか?
- 作品更新日:2020/9/19
- 投稿日:2022/11/14