白銀の狼
人と狼の二つの姿を持つ人狼という種族に生まれながら、狼の姿を持たないために、村の中では肩身の狭いレティリエ。 一方、幼なじみのグレイルは群の中でも抜きんでた実力を認められており、彼女は恋心を抱きながらもそれをひた隠しにしていた——。 なんとも甘酸っぱいレティリエの恋と、次々と襲いかかるいくつもの苦難。 彼女を救おうと奮闘しながらも、捕えられてしまったグレイルのために、あらゆる手段を尽くして立ち向かう姿は、守られるばかりではない、まさに今の時代の勇敢なプリンセス像にぴったりです。 でもやっぱり恋する相手の前では動揺しっぱなしの女の子になってしまうギャップがとっても可愛らしく素敵でした! 苛酷ないくつもの苦難を乗り越えてようやく幸せを手にした二人の、その後の番外編は、たっぷり甘く、少し大人の雰囲気も。 甘いだけでなく、苦難を乗り越えた先にある切ない恋の成就がお好きな方におすすめの一作です。
- 作品更新日:2021/10/21
- 投稿日:2021/8/6
マリオネットインテグレーター
水晶木という精霊の宿る木が選ぶ女王が統べる国ラザフォード。 その国で、三人の幼馴染の少年少女がとある秘密の場所で小さな黒いかけらを見つけるところから物語が始まります。 女王に一目惚れし、彼女に近づきたい一心で宰相にまで上り詰めた男。 次代の女王選定の儀式で、思わぬ運命に巻き込まれるかつての幼馴染の三人の男女。 父を知らず、母をも亡くした上に、突然精霊の導きによって騎士に任命された少年。 それぞれが見えない糸に操られるように、思わぬ運命に巻き込まれていきます。 精霊の言葉によって安寧を得てきた国で、人々はどのように生きていくべきなのか。国を治めるということは、あるいは、人を愛するということとは。 登場人物たちが投げかけるさまざまな問いは、読んでいるこちらにも深く突き刺さります。 個人的には、ひどく身勝手に見えたヴィットリオもまた、そもそもの初めから運命の糸に絡め取られ、けれど抗い続けてきたにもかかわらず、彼が選び取った運命を思うと、何ともやりきれない気がしてしまいました。 少しずつみんながすれ違ってしまっていったそれぞれの想いが、「あれ」の意思によるものなのか、あるいはいずれにしても避け得ない運命だったのか……。 とはいえ、自身もまた運命に翻弄されながらもまっすぐに立ち向かっていくカートと、彼を見守り、時には共に戦うピア、そして、何とも鼻持ちならない意地悪な少年だったアーノルドがふとしたきっかけで変わり、成長していったことで、たとえ困難が降りかかるとしても、自ら考え、行動を起こせば未来を切り開くことができる——そんな風に希望を感じることができた気がします。 丁寧に織り上げられた世界観と、複雑に絡み合った人の想いと、少年たちのまっすぐな意志と強さ。じっくりと読んで、ぜひ、この世界に浸って欲しい一作です。
- 作品更新日:2021/4/11
- 投稿日:2021/8/6
シダル 信念の勇者と親愛なる偏奇な仲間達
辺境に暮らす圧倒的な力を持つ青年が、神のお告げによって勇者に選ばれ、魔王を倒す旅に出る。 ファンタジーの王道ストーリーのはずなのに、この物語の勇者とその「剣の仲間」たちは一味も二味も違います。 癒しの力は圧倒的だけれど、敵である竜にまで情けをかけて勇者の剣を止めて隙をつくらせてしまう「神官」。知識と魔術は素晴らしいものの、魔王そのもののような容貌と雰囲気の「賢者」。目を奪われるほど美しく圧倒的な魔力を持つのに、戦闘中にシチューを煮始めてしまうような行動が読めない「魔法使い」。唯一、常識人に見える美しい「吟遊詩人」は、血が苦手でやっぱり戦いには向かない。 そう、勇者以外の仲間は、ほとんど戦う力を持たないのです。 けれど、読み進むにつれて、どうして彼が勇者に選ばれ、そして彼らが勇者の仲間——剣伴として選ばれたのか、むしろ彼らでなければならなかったのか、が徐々に明らかになっていき、同時に本当に強く優しい彼らを好きにならずにはいられません。 さらに物語に花を添えるのが、勇者と魔法使いそれぞれのとても個性的な恋。二人の純粋さがとてもとても厄介なそれぞれの相手の心を動かしていく様子が、本当に切なく美しいのです。 世界の淀みと人間の罪という重いテーマが根底にありながらも、思わず爆笑してしまうような楽しいエピソードと試練や苦難のお話のバランスがよく、退屈する暇もなくあっという間に読み切ってしまいました。 ドラゴン、ドワーフ、人魚など幻想的な生き物が生き生きとしている魔法に満ちた世界で、多くの困難と向き合いながらも、シダルたちならばきっと大丈夫、と何となくそう信じて心の底から楽しむことができる正統派ハイ・ファンタジー。ぜひ彼らと共に旅をして、勇者シダルと仲間たちの物語を見届けてください。 最後にこれだけは言いたいのですが——ハイロが最高に可愛いです!
- 作品更新日:2022/5/5
- 投稿日:2021/7/12
洪猷狼煙
序章から、そのまま風景が目に浮かぶような漢字に埋め尽くされた圧倒的な表現に惹き込まれます。 硬質ですが、豊かな表現と心地よいリズムに、久しぶりに音楽を聞くように文章を読むだけでも心地よいと感じることができました。 一方で、中華風の世界を舞台に由霧という謎の瘴気や、どうやら泉が世界の中心で大きな役割を持っているらしいその世界観、謎めいた当主に、いまひとつ優柔不断ながらもだんだんとその本領を発揮する若者など、魅力的な登場人物たちが物語を彩ります。 圧倒的な筆力で語られる中華風ファンタジーの群像劇。彼らの行く末をぜひ最後まで見届けていただきたい一作です。
- 作品更新日:2021/5/21
- 投稿日:2021/7/12
暗殺者の結婚
辛い過去を持つ元暗殺者のサザは、ひょんなことからかつて英雄と呼ばれたとある領主の青年の結婚相手として選ばれることに。けれどその国では暗殺者だと知れれば死刑となってしまう。思いがけないほど温かく優しい彼に惹かれていくからこそ、何としても過去を隠し通さなければならない——。 主人公のサザは暗殺者という過去を背負いながらも驚くほど純粋で優しく、その結婚相手となったユタカも何か秘密を抱えている様子はあるものの、優しくサザを包み込み、やがて二人は互いに心の底から愛し合うようになっていきます。 その結婚は、ほとんど偶然のなせるものでしたが、物語が進むにつれて、サザがサザであるからこそ、またユタカがユタカであるからこそ互いを支え、慈しみ、守ることができる。そこにリヒトという少年が加わることで、本当の家族ではなくとも、奇跡のように温かい絆が生まれます。 戦争や貧困といった重いテーマが根底にありながらも、人が人を思う優しさや切なさ、そして何より二人のまっすぐさが胸を打つ物語でした。 二人のその後や、勝手に結婚を申し込んでしまった彼女たちのお話をもっと見てみたいなあなんて。 素敵な物語をありがとうございました!
- 作品更新日:2022/1/17
- 投稿日:2021/7/25
【完結】朔の風
最初から最後まで、遥かな古代の悠久を感じさせる繊細な描写にうっとりと惹き込まれます。古事記や日本書紀に見える、美しくも血なまぐさい歴史の渦に巻き込まれる夕星の行く末が気になり一気に読んでしまいました。 夕星本人や葉隠やその他の登場人物たちの夕星への揺れ動く想いがとても切ないけれど、きっとこの結末しかありえなかったのだろうな、と思わせるラストでした。 しばらくして始まった外伝、そして第二部は、さらにこの世界の深さと広がりを感じさせてくれる、素晴らしい物語でした。古代の歴史好きな方にはもちろん、いままであまり古代史に触れたことのない方にも、和製ファンタジーの傑作として、大変おすすめしたい一作です。
- 作品更新日:2021/12/3
- 投稿日:2021/7/12
一匹狼は群れたがる
超能力が普遍的に確認されるようになり、ランク付され、管理されるようになった時代。 「自身テレポート一メートル、念動力推定二キログラム、Cランク」 という微妙な超能力を持つことで、店舗への入店を制限されるなど不自由はあるものの、高校生としてのんびりと過ごす清楓は、ある日、ひょんなことからその能力を使って大型犬のような青年を拾ってしまったことから、やがて厄介な事件に巻き込まれ——。 緻密に作り込まれた超能力が存在するという世界観と、それを描き出す硬質な描写でまず惹き込まれ、さらに、主人公の清楓(さやか)ちゃんが狡くどこかアンバランスな大人の窪崎に惹かれていく様子がなんとも甘酸っぱいのです……! 清楓はそれでも受け身で待ち続けるわけではなく、時には自分の能力と創意工夫で危機を乗り越え、大切な人のためには自らの危険も顧みない強さを発揮します。次第に窪崎も、そして事件を通して関わった富沢さえも惹きつけられていき……。 彼女の持つ能力、暗い過去と親友との関わり、秘められた祖父の思いなど、複雑に絡みもつれた人間関係の糸が、やがて彼女と窪崎さんの想いで切り開かれていくラストは本当にああよかったー! と幸せな気持ちになれる見事な大団円でした。 おすすめです!
- 作品更新日:2021/4/17
- 投稿日:2021/7/12
奈落の神の福音【3月31日 消去予定】
今より少し未来の日本。 巨大な船上に作られた実験都市オルカで、新人の監察官、百目鬼 由佳は探偵業を営む呪術師と出会う——。 全体としては非常に緻密で硬質な文章でシリアスなシーンが語られているはずなのに、随所で飛び出す絶妙な言葉の組み合わせと登場人物たちの突飛な台詞回しで、気がつけば思わず爆笑してしまうという不思議な作品です。 呪術を使って事件解決をサポートする探偵をはじめ、登場人物たちは語り手の由佳を含めて、(本当にびっくりするほど!)圧倒的な個性を秘めています。 前半はどちらかというと軽妙な語り口で笑いを誘われ、テンポよく展開する物語に引き込まれますが、だんだんと江破の素性に関わる部分が明らかになってくることで、否応なしにその運命に巻き込まれていく仲間たち。 それだけでなく、登場人物一人ひとりの抱える心の闇というか——縺れた人と人との関係性が丁寧に描かれています。 ともすれば、読んでいるこちらの胸にまで重くのしかかりそうなそれを、けれでも、彼らはお互いにほどよい距離でそれを時に見守り、時に支えることで、重苦しくなりすぎず、暖かな希望をまだ感じさせてくれます。 後半からは、いよいよ姿を明確にした邪悪な敵との戦いが始まり、江破さんの軽やかさは変わらないものの、次第に緊迫感が高まっていき、そして、映画のようなクライマックスへ。 ラストは、ああ……と思わず声が出てしまいました。これしかない、という見事なエンディングだったと思います。 何を書いてもネタバレになってしまうのですが、最後まで本当にわくわくどきどきできる作品でした。ぜひ、結末まで皆さんに読んでいただきたいおすすめ作品です。
- 作品更新日:2022/2/25
- 投稿日:2021/7/12
宙の花標
資産家の祖母の遺言で小惑星のひとつの相続人として指名された紫陽(しはる)。 幼い時からそばにいてくれた優秀な秘書の安藤と共に、その小惑星へ管理人を見極めるために訪れたことから、驚きの事件に巻き込まれて——? 知的でクールでどこか謎めいた安藤、対照的に一見よれよれで粗野に見えて、いざと言うときは頼りになるし、意外と絆されやすく(最高に格好いい!)優しいツバメ。そしてどことなく感情の読めない紫陽自身や彼女の家族の秘密。 やわらかい紫陽の語り口は穏やかなのに、次々と起こる事件と謎に、一体この先どうなるのだろうと気になって最後まで一気に読み切ってしまいました。 それぞれが驚くような過去を抱えていて、それでもなんだかみんな優しく温かい——。 個人的には紫陽さんのツバメに向ける仄かな恋心と戸惑うツバメさんに思い切り悶えてしまいました……! できれば彼らのその後が見てみたいなあと思わずにはいられません。 びっくりする仕掛けと魅力的な登場人物たちが織りなす物語。 おすすめです!
- 作品更新日:2023/11/12
- 投稿日:2021/7/13
剣士と赤竜
赤竜に襲われる都で、その討伐団の主力として団長と共に皆を率いていたジェラベルド。 その竜との戦いで深傷を負ったことで引退を決意し、別の道を歩もうと考え始めたところから物語は始まります。 美しく鮮やかな世界の描写と、登場する人々の心の動きが本当に細やかに描かれていて、どちらかといえば剣と魔法の冒険ファンタジーかな、と思って読み始めたのですが、あまりに心揺さぶられる人間ドラマの物語でした。 ジェラベルドが相手を想うあまりに自分の想いを封じ込め、さらには初めは自分を蔑んでいた別の相手とやがて心を交わすようになるその過程が丁寧に丁寧に語られます。 亡き妻の最後の告白の本当の意味を知った時、久しぶりに物語を読んでいて不覚にも泣いてしまいました。最後は爽やかに、それでもやっぱり少し私には切なく思えました。 あまりにも優しすぎる元剣士と彼が大切にする人たちとの物語。 おすすめです!
- 作品更新日:2020/7/2
- 投稿日:2021/7/13