殴り書きの正三尺玉
最終更新:2021/8/15
作品紹介
1949年3月下旬。終戦から4年の歳月が過ぎて、かつて長岡空襲で焼け野原となった街にも復興の波が押し寄せていた。 背が高くて兄貴分の勇(いさみ)、 色白小柄でお調子者の幸雄(ゆきお)、 東京出身で、元疎開児童のヒカリ──。 小学校の同級生だった三人は、戦争孤児になったあと、同じ蒲鉾工場に住み込みで働いていた。 15才になった今も、互いを心の拠り所として暮らしている。 ある日、三人に長岡の花火を見に行くチャンスが転がり込む。 慰霊の花火へ、出征して亡くなった兄や父、病死した妹、空襲で亡くなった親族への想いを重ねられたら──。 4ヶ月後の特別休暇を反故にされてたまるか、と仕事に精を出す三人。 しかし、運命の歯車は緩やかに軋み始め……。 【ミッドナイトチェイス 2021夏の陣】 街の修理屋との一騎討ち企画第3弾、 今回のテーマは『戦争花火』。 ふたりの書き手が同じテーマで短編小説に挑戦します。 ルールは3つ 「読み切り短篇」「共通テーマ」「真剣勝負」 ぜひ読み比べてみてください。 直接・間接問わず、時代も立場も問わず、戦争によって奪われた全ての命のご冥福をお祈り申し上げます。 慰霊の想いを言葉の正三尺玉に込めて。
評価・レビュー
純文学と大衆文学の狭間
削ぎ落とされた、物語に作者が邪魔にならず淡々としていて、わかりやすい。しかし内容はもちろん文体なども「エンタメ」ではない作品。 と、ついつい書き手視点の感想を書いてしまいましたが、文章は本当に「どちらの良いところも捉えている」からこそ、自分に持ち帰り易い作品で、ついつい考えてしまいました。私は戦を知らない世代ですが、読んでる瞬間はありありと肌でそれを感じる。 大抵戦争物は押し付けがましくなるものですが、作者様は正直な方なのだろうと思います。知らないことは知らない、自分で考えたり感じたりした自分の中のものを出しますよタイプの。気持ちも恐らくそう。今を生きている何一つ代わりのない人間の「思い」。でもその人の身近の単語に「戦争」がある世界観。それが「現実(リアル)」。 だからこそ語り継ぎ感じなければならないのだ、本音は忘れたいときだってある…それも悪いことではない…と、ついつい熱くなってしまいレビューがまとまらなくなってしまいましたので終わります。 私は作者様にも思いを伝えたい。良作ありがとうございました。色々考えさせられました。
詩木燕二
届かない花火
1949年の新潟。ヒカリと勇と幸雄の3人は慰霊のために打ち上げられる正三尺玉を見たくて、仕事の休暇を取ろうとしていた。だがある日の仕事終わり、海辺に居合わせた3人はとある事件に巻き込まれて…… 終戦から数年後の新潟を舞台に繰り広げられる3人の少年少女の青春。工場での毎日、数ヶ月後の慰霊花火、大切な人たちのこと。それらが確かな文章力で丁寧に表現されている。 これから大人になるという彼女らにとっての当たり前の日々は、一発の機雷によって吹き飛ばされてしまった。クライマックス、ヒカリの思いがひしひしと伝わってくる。大切な二人を失った彼女の心に正三尺玉花火は届かなかったのだろう。 彼女のそれからの人生に少しでも救いがあるといいなと思う。心に残る一作だった。
石嶋ユウ