作業用ロボットのコタローは、主人の帰りを待って、毎日放送されるラジオを聴きながらリンゴ畑の手入れを続けていた。だが、何年経っても主人が帰ることは無くて……
ラジオ放送を通じて描かれる大災害の影響で帰れなくなった主人を何年も何年も待ち続けるロボット達の姿が健気で、切ない。日常を奪い去った災害とそれからの月日の長さが、どれだけ残酷なのだろうと思う。
作中に登場するいくつかのワードが、約10年前、現実に起こった大震災のことを思い起こさせる。あの大震災が奪いとったあの頃の日常が戻ることは、もう無いのかもしれない。それでも、それでも人は、あの日起こったことを忘れずに、いや忘れないで生きてゆくのだ。とても考えさせられる作品である。
この作品を初めて読んだのはもう1年近く前のことになる。それでも、ずっと頭の片隅でこの物語のことを覚え続けている。この作品には、人を惹きつける強力な力がある気がしてならない。誰かにとって忘れられない一作になることを願う。
登録:2021/7/12 20:43
更新:2021/7/23 17:15