その花は、夜にこそ咲き、強く香る。
最終更新:2020/8/5
作品紹介
『なんで、アイツの顔見えるんだよ』 相貌失認(そうぼうしつにん)。 女性の顔だけ上手く認識できないという先天性の病を発症している少年、早坂翔(はやさかしょう)。 夏休みが終わった後の八月。彼の前に現れたのは、なぜか顔が見える女の子、水瀬茉莉(みなせまつり)だった。 他の女の子と違うという特異性から、次第に彼女に惹かれていく翔。 中学に進学したのち、クラスアート実行委員として再び一緒になった二人は、夜に芳香を強めるという匂蕃茉莉(においばんまつり)の花が咲き乱れる丘を題材にして作業にはいる。 ところが、クラスアートの完成も間近となったある日、水瀬が不登校に陥ってしまう。 それは、彼女がずっと隠し続けていた、心の傷が開いた瞬間だった。 ※第12回ドリーム小説大賞奨励賞受賞作品 ※表紙画像は、ミカスケ様のフリーアイコンを使わせて頂きました。 ※「交錯する想い」の挿絵として、テン(西湖鳴)様に頂いたファンアートを、「彼女を好きだ、と自覚したあの夜の記憶」の挿絵として、騰成様に頂いたファンアートを使わせて頂きました。ありがとうございました。
評価・レビュー
騰成
花に隠れた痛切な毒にやられる青春小説
相貌失認――他人の顔が見えなくなってしまう病を患い、特に女性の顔を認識できない主人公、早坂翔。そんな彼の前に現れたのは、唯一顔を認識できる少女、水瀬茉莉。 小学校で初めて出会い、中学校で距離を縮めていく二人。しかし、茉莉に惹かれていく中で、翔は彼女に秘められた陰を知る。 読みやすい文章に導かれるまま読み進めて行くと、終盤で待ち受けている毒に、翔共々苦しめられることになるでしょう。読了後も残る毒は、切なくも不思議と明るく爽やかな余韻を味わわせてくれます。 残酷な暗部を孕んでいるからこそ、咲く花は美しく尊い。痛切な毒でより美しさの際立った物語に、ぜひ痺れてください。
葉霜雁景