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カクヨムファンタジー短編完結

EGGMAN

〈おれはとてもしあわせだった。〉  終わりに見る光景がどんなものがいいかって、たぶん、終わりも知らない人間が気軽に語っていいのだろうか、とは思うのですが、でももしも終わりを前に、しあわせ、を感じるとしたら、彼が終わりに見たような色彩なのではないか、と感じました。  日本で発症を確認されたのがおそらく二例目とされる奇病中の奇病、俗に〈エッグマン病〉を発症した〈俺〉は、体が縮みハンプティ・ダンプティのようになっていく病魔に蝕まれながら、入院先で孤独に過ごした。そして退院の日、身寄りのない状況に困っている〈俺〉を迎えにきてくれたのが、幼馴染のモモこと桃園陽一だった。モモは縮んでしまったりはせず、そしてふたりは旅に出ることになった。……というのが、導入です。ですが、奇病の妙なリアリティ、旅の中で見る景色、感情を交わしていくふたりの姿の魅力は、縷々とあらすじを綴ってみたところで伝わるものではないでしょう。ぜひとも私のレビューなんかよりも、本文を読んで欲しいところです。 〈モモがペダルを漕ぎ出すと、世界の感覚が一気に変わった。最初はかなり揺れて気分が悪かったが、しばらくするとおれは残された手足を使って、クッションを敷いたキャリーの中で居心地のいい姿勢をとれるようになった。〉  何故、会社をひと月休んでまでモモが、〈俺〉と一緒にいることを選んだのか、そこに関する一応モモの口から語られる部分はありますが、必要以上に、詳らかに明かされることはありません。でも分かりやすい言葉を当てはめるよりもそのほうがずっと、心を寄り添わせやすい。  進行の続く病のいまを写し取るような変わっていく文体に、彼らのいまを感じ取りながら、幕を閉じて、切なくも静かな余韻に包まれる感覚がありました。

5.0
  • 作品更新日:2021/10/21
  • 投稿日:2021/11/14
カクヨム恋愛連載:2話完結

桜の咲く頃、梅は散る

 青い梅の果肉に孕んだ毒を紡いだ静謐な文章のにおいに誘われて気付けば読み終えていました。無垢な罪も、残酷さも、善悪も、きれぎれな心も。人間の感情、という些細なものなど慮ることなく、世界は、季節は淡々と流れていきます。それらは別に人間の感情の都合で動かないものなのに、ひとは勝手に世界を都合よく解釈して、過ぎ去った時を、あの頃は良かった、という空虚な言葉に当て嵌めます。  本作には、そんな甘い逃げを許さない犯した罪の葛藤が描かれているように思いました。呼び方ひとつさえも繋がれた枷となるそれに揺さぶられる感情は、愛への呪詛にしか感じられぬひたむきな愛を、絶望の果てにしか見えぬ希望を抱いた時に似ているのかもしれません。読むのが下手な私は多分どこかを読み違えているような気もして、レビューを書くのにためらいもあったのですが、ただひとつだけ確かなことがあって、私はこの作品が好きです。

5.0
  • 作品更新日:2018/3/24
  • 投稿日:2021/11/14
カクヨム恋愛連載:16話完結

今宵、あの藤の下にて君を待つ。

 読み終えて、輪郭がくっきりとした状態で改めてはじまりの景色に戻ると、その世界の色がまったく違って見える。静かな言葉の中に、情動に訴えかける力強さのある、とても素敵な短編だなぁ、と思いました。 〈唐棣の家の庭には、見事な花を付ける一本の藤がある。二年前――ちょうど一人娘の薄紅が病に罹った頃から年中花を咲かせるようになり、枯れることのない藤を見て畏怖した人々がいつしか「鬼憑き」と呼ぶようになっていった。〉  美しい藤に隠れた妖しい魅力に引き寄せられていく薄紅の恋慕の情、その薄紅色の恋が向かう先に、曖昧だった記憶が重なって、立ち上がる像は儚くも切なく、確かにそこにふたりだけの世界があるのだ、と信じさせてくれます。相手のみをよすがにその感情のままに奔るひたむきな恋を紡いだ言の葉に身を寄せて、色彩豊かな登場人物たちによって描き出される物語を愉しむ。あぁ小説って楽しいなぁ、と再確認できるような小説でした。  素敵な小説をありがとうございます。

5.0
  • 作品更新日:2020/7/15
  • 投稿日:2021/11/14
ノベルアップ+ミステリー連載:4話完結

ぼくの偽札騒動記

 高校入学前の春休みにアルバイトとして、隣り街に住む老婦人の家で引っ越しの手伝いをしていた〈ぼく〉は、手伝いの謝礼としておばあさんから受け取った一万円を貯金しようと、銀行のATMの入金を試みるが、何度やってもはじかれて戻ってきてしまう……。その時に、ようやく〈ぼく〉はそのお札が本物と違っていることに気付く。  ということで、ここからがネタバレ込みの感想ですが、まだ読んでいない方は、ぜひ作品のページに進んでくださいね。  本作は親切そうなおばあさんに騙されたと思い込んで、もやもやとした気持ちを抱えた少年が、世の中の昏さ、現実の厳しさを知る……という物語ではもちろんなくて、隣人のおじさんと出会ったことによって、それが現在の一万円ではなく、〈旧札〉だったと〈ぼく〉は知ることになります。明記されている時代背景を考えると、福沢諭吉の旧札を〈ぼく〉は眺めていたのでしょう。  そう、ここで読者は本作がほっこりとした、日常の謎系統の作品だった、と知る、  ……というわけでもなく、  実はこの作品、ここからはもうひとつ新たな展開が用意されています。一万円札を新札と交換してくれたおじさんに感謝しながら家まで帰った〈ぼく〉には知る由のないことですが、実はおじさんは骨董品収集が趣味でそのお札がプレミア価値の付くものだと気付いて、親切ではなく下心からお札を交換していたわけです。自身の儲けのために少年に嘘を吐いたおじさんは天下の大悪人ではないですが、小悪党というか、小狡い印象を抱いてしまう人物で、そんなおじさんに天罰が下るように意外な事件の存在が浮かび上がってきます。  そんな本作はユニークで、穏やかな読み心地の中に、甘さだけではない、苦味を混ぜたような良質さがあります。

5.0
  • 作品更新日:2020/6/27
  • 投稿日:2021/11/14
カクヨムその他短編完結

ストロベリーポップキャンディー。

〈『もしあなたが人を憎むなら、あなたは、あなた自身の一部でもある彼の中の何かを憎んでいるのだ。我々自身の一部でないようなものは、我々の心をかき乱さない』〉  暑さと湿気にうんざりする土砂降りの日、五十嵐晴こと〈僕〉は同じクラスになっても一度も話したことのなかった十時楓から声を掛けられ、無性に怒りが込み上げる。いつもと変わらない日常は、自らを〈ふう〉と名乗るクラスメートの言葉によって壊れて、そしてそれは件の女子高生が二日後にいなくなるなんて周囲は知る由もなかった日の出来事だった……、というのが、この作品の導入なのですが、物語の導入を説明することは、この小説の魅力、すくなくとも私が感じ取った美点を語るうえで、あまり意味を持たないような気がします(それは決してストーリーが良くない、という意ではないので誤解なきよう。構成の素晴らしさもあって、物語自体も強く惹き込まれるものだと思います)。  何よりもまず言葉の魅力があり、例えば、映画とか小説であらすじを聞いただけで内容を知った気になって、実際にその作品を鑑賞することはないまま、ってことありませんか? あんまり褒められた話ではないですが、私にはそういう経験があります。実際に触れてはじめて分かる面白さ、それがどれだけ不幸なことかを特に実感させてくれるの、ってたぶん小説ではこういう言葉の魅力に溢れた作品を読んだ時なんじゃないかな、と思います。  これは嘘の中から真実を探すために言葉を読む物語なのかもしれない、とそんな考えが、ふと頭に浮かびました。それは現実によりうまく似せている、とかもちろんそういう意味ではありません。  本心とは誰にもさらけ出さないからこそ、本心、と呼ばれるのであり、  読む側は言葉から言葉通りではない感情を、探し、見出し、想像していく。 〈ガリッ。噛み砕いたストロベリーポップキャンディーは狂おしいほどに甘ったるい嘘の味で、所詮これはつくりものの苺なのだとふと思い知った。〉  つくりものの先にある心を読み、見てくれではない本質を探し、  そして本質は、安価なポップキャンディも、名前の呼び方も、その意味を変えていく。  これは、小説、言葉でしか読めない感情の旅なのかもしれません。

5.0
  • 作品更新日:2016/4/15
  • 投稿日:2021/11/14
カクヨムヒューマンドラマ連載:2話完結非公開

君を死なせないための一千字

 感情を込め、夢中になって歌うことを、絶唱、と言います。もちろん私は作者ではないので、作者の実際の感情を、本心を、知ることはできないわけですが、この作品を読むたびに、絶唱するように言葉を紡ぐ作者の姿は明瞭になっていきます。作者の本心は知りません。ただ私がそう感じただけの話なのですが、すくなくとも強烈な感情を見出してしまった私には、この作品は時に劇薬にもなります。  読むたび、と書きましたが作者とは別のサイトで知り合った私(※これはカクヨムに寄せたレビューです)は、三つのサイトにおいてこの作品に触れる機会があり、多分通読で五回は読んでいると思います。これは別に回数を誇りたいわけではなく、一回でも私よりも丁寧に読み解いてしまえるひとは多いでしょう。数はどうでもよくて、私にとって大事なのは、この作品を読むごとに変化する私の作品に対する感情で、読むのを繰り返すごとに、この作品に言葉を費やすことへのためらいが生まれるのです。私にとってこの作品はどこまでも愛おしい、でもこの作品への愛を語れば語るほど、私の拙い愛情表現によって色褪せていくのではないか、という恐怖にも似た、そんなためらいです。  それでもやっぱりこの作品は素晴らしい、ということでレビューを書こう、と。  塾講師のバイトのかたわらウェブ小説を牧伸太郎というペンネームで書いている〈俺〉の自宅に、その〈牧伸太郎〉の名を口にする青年が訪れる。出版社の人間が来たのかもしれない、と一瞬の甘い希望も打ち砕かれ、そしてその人物が黒崎啓一であることを知る。黒崎啓一は〈俺〉の創った半自伝的小説に登場する〈俺〉の生き写しであり、美化された〈きれいな〉面も持ち合わせていた……。そんなメタフィクション的な要素を取り入れた本作には、生き写しであるからこその、強い共感と、そんな相手にだからこそ抱く葛藤があります。鏡と対話するように本音をさらけ出せる相手の存在って、ちょっとした憧れかもしれません。  もちろんネタバレはできないので細かくは書きませんが、前編の終盤以降、〈俺〉は、人間の死生、救い、そして作家の業と対峙していき、その中で自分なりの答えを出し、物語は決して読者にその答えの〈正しさ〉を強いようとはせず、私なんかはそんなところにすごく魅力を感じてしまいます。  この物語は〈なぜ人は生きるのか〉という問いへの安易な解答の空虚さを知っているし、生や救いへの違和感にもがいている。だからその絶唱の果てに待つ余韻が、刺さる、のかもしれない。好きだな……、本当に。

5.0
  • 作品更新日:2022/3/13
  • 投稿日:2021/11/14
カクヨムその他短編完結

アリス・イン・ザ・金閣炎上

〈特にすることもなく取り残された夕暮れの和室、安心しきった寝顔を間近に眇める私の、その胸の裡に湧き上がる未知の情動。この汚れひとつない無邪気の塊を、簡単にその身を預けてしまえる雛鳥の無垢を、でも特段の理由なく滅茶苦茶に穢してしまいたくなる、このどこまでも粗野で根源的な人間の本能。〉  小説は言葉でできている。何当たり前のことを、という向きもあるかもしれませんが、そんな当たり前になり過ぎてついつい忘れてしまうことを思い出させてくれる作品があります。例えばそうですねぇ、と例として挙げたくなる作品がひとつ増えました。「アリス・イン・ザ・金閣炎上」です。いつも大体レビューの時は簡単な導入かあらすじらしき何かをちょっと偉そうに書いてみたりしているのですが、これには書きません、というか書けませんなる気持ちも本心としてはあるのですが、実際の言葉に触れない「アリス・イン・ザ・金閣炎上」は、カレーライスのルー抜きみたいなものですよ。得てしてそういう作品と出会った時、語りたい人間と語りたくない人間がいて、さらにその中に、そういう作品を語るのが得意な人間と下手な人間がいる。私は、本当ならひっそりと宝物にしたくて語りたくない人間で、さらに言えば、語るのがとても下手な人間だ。ならなぜ語る場に立ったか、というと、まだ足りない、読まれている数が、と思ったからです。あと一千、一万と読まれているなら、そりゃ私だって黙る立場を選ぶさ。まだ足りない、もっともっと、と私の内なる声が叫んだわけです。  小説は言葉でできています。書いた人間が丁寧に紡ぎあげた言葉を、読む側が拾いあげながら、言葉のみを頼りにして、新たに世界が再構築されていく。読むひとのぶんだけ無数に広がっていく。そういう作品に出会うと、すくなくとも私は、あぁやっぱり小説、っていいなぁ、と嬉しくなります。成人、という言葉に引かれた一本の線、性、という言葉に引かれた一本の線。奔放にも見える言葉の包みの切れ間に、不安や恐怖、そういった繊細な心の揺らぎが見えて、とても素敵な魅力があります。そしてその部分が見えるからこそ、かわいいのです。ベリーキュート。  酔っていません。酒には。  酔いました。言葉には。

5.0
  • 作品更新日:2020/7/13
  • 投稿日:2021/11/14
カクヨムその他連載:4話完結

腐ったアタマで考えられっか!

〈つまり、君は読者でなおかつ作者。  まだ書き終わっていない物語を、もう読み始めている。〉  という表現を読んで興味を惹かれた方にはぜひ読んでもらいたい作品です。物語の本筋は、渋谷のファストフード店、上野こと語り手の〈私〉と高嶺が待ち合わせするシーンからはじまります。ふたりは別の高校に通う高校生で、高嶺は中学の時にスカウトされてから、タレントをしている。ふたりはその時、ゾンビのフェイク動画をきっかけに、ゾンビの話をし、馬鹿話で終わるはずだったそれが、〈まさかこんな冗談が現実になろうとは。〉  というのが、物語本筋の導入になるのですが、あんまりこんな導入を説明しても意味がなくて、〈物語本筋〉と曖昧な言い方をしているように、本作は〈物語〉が〈物語〉であることに自覚的である〈物語〉になっていて、よく見掛けるパニックものの作品が、新しく鮮やかな光を放つような作品になっています。物語そのものに対して違和感を覚えたことのあるひとには、ぜひ読んで欲しい作品です。  物語の内容について、これ以上はあまり語らないほうがいいでしょう。虚構から裂け出た虚構が放つ強烈な自意識が絡む、切なくも高潔さが感じられる、素敵な余韻がすごく好きです。

5.0
  • 作品更新日:2020/2/14
  • 投稿日:2021/11/14
カクヨム青春・ヒューマンドラマ完結非公開

空想家

〈彼女は静かに目を瞑った。彼女の瞳の裏に映った木陰が今まさにこの場に現れている。〉  古本店“揚姜堂”。故郷に帰還した優一が、かつての記憶をたどるように訪れたのは、前の店長に世話になり、現在は友人の才人が運営している古本屋だった。理由は、一冊の本で、それは前店長との間で、ある約束を交わした本だった。条件付きで。その条件を優一がまだ達しているようには思わない、と才人は言うが……。  物語の中に、過去から現在、と流れていく時が描かれ、そこに嵌め込まれた喪失や過去への憧憬、優しさは、なんら派手な言葉で飾られることなく、穏やかで、淡々としていて、染み入ってくるものがあります。  未来を舗装する言葉を、中原中也の作品を、チェ・ゲバラの言葉を引用し、そして作者自身の言葉で、紡いでいく。読後、ほの見える先の光景に想いを馳せながら、ふ、っとちいさく息を吐いていました。素敵な作品。

5.0
  • 作品更新日:2021/11/9
  • 投稿日:2021/11/14
ノベルアップ+SF短編完結

長き夜を迎えて

 春樹と夏美。秋の終わりに、仰向けになって18歳の男女が青空を眺めている。春に結婚した二人は春から秋までの間を、共に生まれて初めての農作業をしながら過ごした。長い冬を乗り越えるためには、何よりも食料の確保が大切だからだ。  さて、ということでネタバレありきの感想になるわけですが、でも、そもそもこの作品はできるだけ事前の情報を遮断して読んだほうが、展開の驚きを楽しめると思うので、もし未読でここまで読んでいる方がいるのなら、ぜひ作品のほうへと戻っていただきたいものです。  では、準備は良いですか?  中盤以降、この作品の舞台は人類が居住できる地球外天体、準惑星Ellipsisという場所で、二人が地球を救う鉱物資源を採るための植民者であることが明かされます。短い1年程度の春夏秋、約60年という永遠の夜にも似た冬。身近に迫る、冬、は私たちが知っているような気軽なものではなく、言葉通り、どこまでも果てしなく続いている。そんな冬の到来を待ちながらコバルトブルーの空に込めた願いとともに、物語は幕を閉じます。  読者はその結末の余韻から一文目に戻って、いつか二人にまた訪れる青空を信じたくなるのかもしれません。描写は簡潔ながらも、詩情を感じて、とても琴線に触れる作品でした。

5.0
  • 作品更新日:2020/10/7
  • 投稿日:2021/11/14