書簡
最終更新:2016/11/25
作品紹介
小さなイリスは王宮のお茶会で、尺取虫を見つけた。周りの少女たちに見つかったら、きっと使用人に命じてつぶしてしまうだろう。その前に、こっそり逃がしてやらなければ。 尺取虫を救おうと奮闘するイリスに、手を差し伸べたのは一人の騎士だった。 あらゆるいきものを愛する令嬢と、小さなレディがかわいくて仕方がない騎士の、能天気な日常とおてがみ。
評価・レビュー
aruhi
こぱ
胸締め付けられるおとぎの恋
どんなちいさな命も尊び、愛することのできる少女・イリスと、ひょんなことから彼女と手紙のやり取りをすることになった騎士・フェリクスの物語です。 イリスは心優しく聡明で、茶会のみんなが嫌がるシャクトリムシだってへっちゃら。どころかそっと逃してやるのです。 物語の構成の隙のなさ、情景が浮かぶようなうつくしい文章、イリス視点のどこまでも優しい世界への眼差し、フェリクスの愛情深さ。その全てが水のように溶け合い、ふくらみ、まるでお伽話を読んでいるような心地になります。 どうして彼らが惹かれ合うのかを、不用意に愛や恋といった単語を用いず、嵐のような愛憎を挟むこともせず、おだやかな海のような物語全体で説得力を持たせている手腕は、実に見事です。 それでいて、間違いなくこのお話はふたりの「恋物語」なのです。せつなくなるほど。 きっと物語の結末にたどり着いたとき、登場人物たちとの別れが寂しくなるし、彼らみんなの幸せを願うほど、いとおしくなると思います。 フェリクスの過去は本作ではあまり書かれませんが、番外編もありますので、気になった方はどうぞ。
バケタ