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ハッカ味ドロップス

あなたと一緒にいるありかた

 私自身双極性障害の診断を受けたことがあるので、作中アスペルガー症候群の診断を受け動揺する花澄の描写を見て(多分いい意味で)冷静に読むことができず、当該部分を繰り返し読んでしまいました。  とはいえ、まずは最初の方から。情景、音の描写が美しく、作品の持っている空気感に佐倉島さんの作品だなという印象を受けました。作家性を云々できるほど佐倉島さんの作品を沢山拝読しているわけではありませんが、とにかく冒頭から漂う美しい空気感を好ましく思いました。  花澄と凛、対照的なキャラ付けをされた二人。単にキャラ付けとして対照的なだけでなく、凛を語り手とすることで花澄の異質な点が浮き上がるつくりになっています。二人の違いを描く上で効果的な書き方だと思いました。  凛によって語られる普段の花澄のコミュニケーション不良に少し病的なものを感じていると、アスペルガー症候群の診断が出たという話。まだ戸惑っている花澄と、あくまで花澄に対するスタンスを変えない凛。凛は“ドロップ”な、つまり(悪い意味ではなく)周囲とは異質な存在である花澄ととっくの昔から付き合って来たのであり、診断が出ようが花澄自体が変わらないのであれば付き合い方は変わらないのだと。そして花澄との関係性を考えて、自分は“缶”ではなく、花澄と同じく“ドロップ”であり、そのようにこれからも彼女と一緒にいるのだと思う。  実は最初読んだ時スカッとしなくて。なんでかなと考えて理由は分かったんですが、でもスカッとしないのがこの作品の方向性だし狙いだよなと思いました。どういうことかと言うと、私はアスペルガー症候群の診断に戸惑う花澄の描写を読みながら、無意識に“救い”を期待していたんです。“ドロップ”からの救いではなく、“缶”からのトータルな救いを。けれども凛は凛で余裕が無いというか花澄をトータルで救うようなことはできない。その辺りで私はスカッとしなかったのだと。でも、そういう話ですよね。救い救われの一方的な関係ではなく、同じ“ドロップ”としてこれからも付き合っていくという話なのですから。彼女なりのリアルな付き合い方であり結論だと思います。誠実だと思いました。  小説を書きたくなる小説でした。

5.0
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辰井圭斗

惑星パレパレの待合室

上質な異文化交流もの(変化球)

 上質な異文化交流ものでした。デティールからいくと、年間平均気温摂氏25度の花咲き乱れる惑星パレパレは鬱鬱とした気配がまるで無く、パレパレ人は造形、言語ともにとてもラブリーです。もっとこの惑星の文化や人を見せて、と言いたくなるような設定は異文化交流ものを書く上での大きな強みだと思います。好きなところはパレパレ人の子供が退屈して脚を伸ばしたり縮めたりして遊ぶところです。その身体を持っている子供ならすごくやりそうなことで、これを書けてしまうのはすごいなと思いました。パレパレの描写だけで十二分に楽しめます。  さて、本題に入ります。異文化交流とは何か。私は三つフェイズがあると思っています。  ①各種の限界は抱えつつも異文化の人々と交流を図る。  主人公の翻訳機が旧式であり、“相手の言いたいことは何とかわかる”程度であるのは、それ自体コミカルであるとともに、異文化交流に必ず付いてまわるある種の限界を示していて、いいギミックだなと思いました。互いに完全に分かりあうことはできないけれども、意思疎通を試みることはできるというバランス。  ②相手側と自分側の差異や類似点に気付き、異文化への理解を深める。  地球人とパレパレ人では身体のつくりも言語も全然違うけれども、小さい子供が「うんこ!」と楽しげに言うようなところは同じで。その辺りの気付きが主人公だけでなく読み手であるこちらにとっても心動かされるものでした。  ③それによって自分側の世界に対する眼差しが変わる。  自分とは異なるものを見ることによって、自分の世界に対する認識が従来とは変わるということ。  ……ここが本作の難しいところだなと思った箇所で。話がこの③に乗りそうになって、乗りきらないんですよね。もちろん私が勝手に考える三つのフェイズに乗らなければならない決まりなど無いのですけど。  主人公はパレパレ人の子供と無関心な父親の様子を見て、自身の子供時代とほとんど構ってくれなかった父親のことを思い出して腹を立てたりして、「こうなったらこいつをかまってやろう」なんて思う。自分で自分のこども時代を少し救う話になって、違うドラマが走り始めるんです。そして“遠い異星の地に、日本の子供と同じく「うんこ」という言葉で爆笑できる子供が誕生したことに、不思議な感慨深さと喜びを覚えて”幕。この最後のところで主人公が自分の過去のあれこれを分かりやすく解消したりしない所が、この作品の穏やかなところでもあり、大人なところでもあるなと思いました。  基本的には異文化交流のフォーマットにきっちり乗りながら、最終的にはちょっと横に軟着陸する作品。とても楽しみながら読みました。

5.0
0
辰井圭斗

小さな夜の夜想曲

今度は私があなたに手を伸ばすのだ

 夜を吐いてしまう女の子の解呪の物語。複数の物語軸が並行して進行し、それがばらけることなく一つの物語を編み上げていくさまに圧倒されました。和田島さんも書いていらっしゃいましたが、ます#1で掴みこまれます。童話的・幻想的光景が広がるものの、それへうっとりと耽溺することを許さない“吐く”という行為。魔術的美しさに感嘆しきることもできず、小夜のやりきれなさをこちらも感じざるを得ません(だからこそ終盤の展開が光るのですけど)。物語の基層となる要素が#1で提示されている構造はとても好きです。  物語軸の一つは小夜と妖精イリシオンの出会いと再会。二人は最初から一方的にどちらかが与えられる関係ではなく、互いに与え合う関係です。“カウンセラー”マーニの治療中は小夜が呪いによって一種“封印”された状態にあるのでマーニから救われる状態になりますが、最後は小夜がイリシオンとの記憶を思い出すと共にイリシオンを救う側になるという展開。これに個人的にぐっと来てしまって。あなたに救われるだけでなくて、あなたが苦しんでいる時に私も手を差し出せるようになりたいんだ、と密かに思っている相手がいるものですから、そう来なくてはと思いました。  もう一つの物語軸は小夜の過去・現在との対峙と解呪。過去や現在に何がしかの心理的な傷を負って、それが(必ずしも魔術的な意味でなく)“呪い” として自己を蝕んでしまう、そして(他者の助けなどもありながら)その呪いを解いて本来の自分の力を発揮するというのは、青春もの女性神話の王道である気がします。すごいのはこの軸と、前段で挙げた軸のクライマックスポイントが同じところにある点で、だから互いがばらけずに強固な一つの物語を編み上げているのだと思います。なんてよくできているんだと。  とても楽しみながら読ませていただきました。

5.0
1
辰井圭斗

飛んで火にいる

しずかに違和

先に申し上げておきますが白旗をあげます。つまり褒めしか書きません。  私、草さんの作品を読むのはこれで4作目なんですが、どれも背後に殺伐……というのは正確じゃないな、ほのかな、或いは明らかな死の雰囲気を感じます。今回はなんでだったんでしょうね。藤宮という女の人の静かなやばみからでしょうか、それとも蛹になってしまったからでしょうか。 “好きな子に芋虫を渡された男の話です”というキャプションを読んで一瞬微笑ましいものを想像したんですが、そんな話ではなかったという……。草さんの書く小説は毎回「なんでそんな話思い付くの泣」という感じで今回も悲鳴を上げました。  まず“理解したので受け取った”のところで理解するな! と叫び、直後芋虫が喋る辺りで目を疑い……。けれどどうもこの世界では虫は普通しゃべらないらしい、犬とかライオンとかはしゃべるけれど。なぜ藤宮が彼に芋虫を預けたのかは結局のところ謎なんですが、一晩置いて考えるとしゃべってしまう虫だったからか? と思えなくもないです。“いいこにして待っててね”なんて優しい声で言うけれど、藤宮は内心どうあろうが必要であればそういうことをやってしまいそうなので。でも、最後の芋虫のセリフを見てもっと違った理由かもなと思ったり。うーん。  ここから上手いところをピックアップしようと思ったんですが文章を眺めればことごとく上手いので飛ばします。最初のひとかたまりのお気に入りは、芋虫のプリティーさが伝わってくる“おなかがすいたらよびます”とカーテンが揺れるという、それはそうだとは思いつつ思い付く人にしか思い付かない情景描写です。  次も上手い。“それは藤宮がキリンかアサヒかでエビスを選び、唐揚げかフライドポテトかでオクラ納豆を選び、猫か犬かで芋虫を選ぶような女だったからだと思われた”。見事です。特異な人をこうもしずかに、けれど鮮やかに書くかと。しずかに。静かにではなくしずかに。思いましたけど、この短編は全体にしずかなんですよね。起こっていることはそれこそ「なんでそんなこと思い付くの」なんですけど、勢いでぶん回して異次元に連れて行く感じではない。私達とはズレている人達がしずかに実在感を持って不可思議なことをしている。  それで蝶々の話。儚いいきものです。それをかわいがっていたあたり、暮野さんこと“俺”のパーソナリティが伺われるなというか、あなたは本来その女に惚れてしまってはいけない人だよというのが分かってしまいます。そしてそれを聞いた藤宮が蝶々の話を聞くでもなく、「なんの花を摘んで帰ったんですか?」。もうこの人の意図が分からない、ということが分かる。見事でした。  で、芋虫がかわいい。ひたすらかわいい。後から見れば振りですけど。あのまま直で動物園に行って藤宮パートが続くと死んでしまうので、ここに芋虫が挟まれるのは本当にありがたいです。  そして動物園。喋る動物は沢山いるのに、というか動物園に行きたいって言ったのに、藤宮はその中でも静寂に包まれる昆虫類のコーナーに行ってしまう。もう、手の出しようがないというか、ここで藤宮が喋る動物のコーナーに行くような女であればまだつけ入る余地もあろうものを、こちらからのアプローチはかけようがない。そして静かな虫を愛でる藤宮を見て、その一方でしゃべる芋虫のことを考える。  ここで「ああ、安定してきたな」と思っちゃったんですよ。ああこの世界観に慣れてきたと。でもその後いきなり宙吊りにされるというか、本当に「……あ?」だし“なにもわからない”んです。でもそれは説明が不足しているからじゃなくて、そして芋虫にも藤宮みたいな口調で返されて途方に暮れる、読者であるこっちも途方に暮れる、そんな終わり方。でも、もうなんだか心地いいんです。もう藤宮にも芋虫にも恋しているので。そしてタイトルを見て、『飛んで火にいる』か……単純に考えたら“俺”のことだけど、もうちょっと何かありそうだぞと思いました。  そんな風に読みました。あの、本当に「待ってくれ」という感じでとても楽しい時間を過ごしました。ありがとうございました。

5.0
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辰井圭斗

林檎と甜橙、女奴隷とその主人

そして私もあなたも生きていくのだ

めっちゃくちゃ面白かった!! 帝国のトップエリートかつインテリである主人公レティが奴隷市場をうろついていたら、そこに彼女でも分からない言葉を喋る謎の男がいて騒ぎが起きている……という出だし。それ自体も面白いんですが、デティールがたまりませんでした。例えば、 ”子供でも知るように、この帝都のうちで三つ目に来る名すなわち氏族名を名乗ることは貴族にしか許されていない。僭称すると最悪死刑である。わたしは宮廷貴族で領主貴族ではないから所有領地を示す四つ目の名は持たないが、それでもこのような場所で威風を払うくらいには十分だ。” とか。こういうの大好き。主人公の最初の名乗りの時にこれが書いてあるものだから、もう格好いい格好いい。しかもこの設定、後々大変重要なんですよね。 その他にも文章の端々から作品の背後に膨大な知識と作り込みを感じるんですが、本作、読み口がかなりライトでサクサク読めてしまいます。その上「待ってました」のポイントはしっかり押されてしまって、書けるものの幅が広い作者さんだなと思いました。 物語上未回収に思われるものは、あれとかそれとかあるのだけど、未回収や余剰が積み重なってそれでも日々を続けていくのが人生ではないでしょうか。 そう、読み口ライトなエンタメでありつつ、魅力的な登場人物たちの人生の物語でした。

5.0
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辰井圭斗

安定限界

あなたの背中が見える景色

この作品を初めて読んだ時の感想は、「僕」が書いてくれているから、私は今の私が思ったことを書いてよいのだと思う。この作品のどこがすごいとか、そういうのではないことを(言うまでもなく本作はweb小説の中で屈指で好きな作品だし、私は今でも読んだ時の震えを部屋の空気と一緒に思い出すことができる)。 タグに目を遣る。「ノンフィクション(6割)」。――そういえば、私は今姫乃さんに「要するに七割フィクション」とタグをつけた作品を「読んでください」と言って渡している。小説だから嘘のかたまりだけれど、いくらかは私の本当なのだと。 web作家が画面越しに見せる「私」など虚構もいいところだ。丹念に作り上げたそれの一辺を目でなぞって、「あなたのことを知っている」などと言えるものか。何も知りはしないのだ。 ――けれど、それでも、どこかあなたの話として読んでしまって。 今のあなたと同じところや馴染みのないところを探して読んでしまって。 それは多分、借りたアルバムの中、親しい相手を見つけて小さく笑うのに似ている。 遠く、この世界のどこか、私の知らないあなたを写した写真。 恐らくこの作品を読むのは5回目くらいだと思うけれど、5回目は印象が変わって、この作品にこう言うのは変かもしれないが――幸せだった。 (2021/09/02) 僕のありもしない青春の傷がえぐれました。あんな経験はしたことは無い筈なのに不思議です。ああ、いいなあと思いつつ、あいたたたと呻きつつ読みました。この作品を読めて良かった。書いてくださってありがとうございました。 追記: 他の方のレビューで「本当に美しい作品」と書いてあってその通りだなと思います。 作者の姫乃只紫さんの作品はどれも透明感があって美しい。そして読めばそのあまりのうまさにゾクリとするんです。僕はこの作品を初めて読んだ時に幸福感で一杯でした。こんな素晴らしい作品に出会えるのかと(その一方ですげー痛くて呻いていましたけど)。実は読んでから大分時間が経っているのですが、この作品にいくつもある美しい情景が脳裏に焼き付いて離れません。 あと、姫乃さんの人物・心情描写って細やかでそして残酷なんです。そして僕はその残酷さも好きなのですが、誰か分かってくれる人がいるかな。 (2019/11/22)

5.0
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辰井圭斗

珈琲店アナログアンブレラ。

進めず終われず迷うその日々に

なるほど祈りたくなってしまう作品だと思った。 私の役割は何だろう。以前五水井さんの別作品に感想を書いて喜んでいただいて、薦めていただいた作品だから、また自分のありったけを尽くしてああいうものを書くべきだろうか。世界観がいいと言葉遣いに魅了されると、この作品の素晴らしいところを連ねて、まだ見ぬ読者に是非この作品を読むよう宣伝する、そんな――。 書きたくない。 なんだか、線を重ねれば重ねるほど目の前のものから遠ざかって行く気がするので。この作品に近からんと打鍵すればするほど決定的に距離を感じそうなので。 だから、通りすがりの一人の読者が何を思ったかということを、とりとめもなく書き連ねるのだけど。 知り過ぎたと思った。私が五水井さんと知り合ったのは先月のことで、やり取りの回数も容易に数えられるし、私が五水井さんについて知っていることは限りなくゼロに等しく、けれどこの小説を単にストーリーとして読むには知り過ぎたと思った。 「あの」現実を、「その」現実を、この人はこうやって小説にするのだと、そう思いながらずっと読んだ。文字の向こうでこの小説を書く人のことをずっと考えていた。何も知りはしないくせに。 この小説が「分かり」ますと、他の人とはできない話をあなたとできますと、言えればよかったのだろうか。そう言いたかったけれども。 ”ほんとうの絶望を知らないくせに” ――そうですね。才能は求められましたが、あまり殴られずに育ちました。 きっと私たちはほんとうには分かりあえないし、私のことばは「本質的には届かない」のだ。「それでも」。 祈りたくなってしまう作品だ。ムーウが書く小説の登場人物のことを、ムーウのことを、五水井さんのことを。でも、いつか救われる日が来ることを祈っていますなんて書きたくはない。 救われる日なんて心の底からは信じられないし、進めず終われず迷う日々の中にも胸を突かれるほど美しいものはあって、その中をどうしようもなく生きているのだから。 だから、ただ見ている。どうなるのか。 最後に、死にたさもかなしみもあるけれど、淀まない、雨が降ったばかりの透明な水たまりのような文章が素敵ですと、それだけ書く。

5.0
0
辰井圭斗

瑠璃色の髪の乙女

宇宙の中の柔らかさとロマン

「みひつのこい」を拝読した時にも思ったんですが、冒頭で状況を示すのが本当にお上手で。 書き手の方は分かってくださると思うんですけど、冒頭って焦るじゃないですか。ああ、あれも提示して、これも言ってって、どうやって読者を物語に乗せようか腐心する。読者が想像を働かせて物語に入っていけるだけの情報は示さないといけない。それでややもすると、すごく説明くさくなったり、或いはそれを避けようとした結果、なんだかよく分からなくなる。 でも本作はすごくすんなり読ませた上で、物語の背景とかがしっかり分かるようになっていて。あの、好きなセリフ挙げていいですか。 「さぁ起きて、オーナー。今日も地球がきれいよ」 一回目に読んだ時しばらく固まりました。あまりに見事なので。そりゃ、読む前にキャプションは見ているのでそういう場所の話だということは分かっているんですけど、小説本体の冒頭は、「ああ近未来なんだな」くらいでどこか分からない。でもあのセリフでいきなり”位置関係”を叩き込まれるんですよね。世界がわっと広がる。実際地球見えましたし。このセリフがあるから次の” ここは地球と火星の間にある、小さな燃料スタンド。”という一文がすとんと入ってくるんですよ。それを読んだ途端、地球と火星を入れ込んで宇宙の中の燃料スタンドを捉えた遠景が目の前に広がる……という。見事です。 レビューのひとこと紹介は悩んだんですけど、宇宙の中の柔らかさとロマンで。柔らかさはオーナーとシレーネの関係性であったり、文章が持つ雰囲気の柔らかさであったり。オーナーとシレーネの関係いいなあと思います。別にオーナーの気持ちが直截に語られるわけではないけれど、接し方から十分心情が見える気がします。お腹いっぱいです。 ロマンの部分はやはり舞台設定であったりシレーネの設定から。いや、もうこの設定の段階でそりゃもえますよ。あと、髪、ですよね。 事程左様に感嘆しながら拝読しました。

5.0
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辰井圭斗

生環

めぐる死と生の環

「死」をテーマに何かを書こうとすると、意識的にであれ無意識にであれ「生」に接近していくよなと思います。生と死が対照を成しているからか、表裏一体だからか、実はごく近いものだからか、つながっているからかは分かりませんが。以前ある有名なインド滞在記の終わりの方に書いてあった(気がする)ことなんですが、自分の存在の起点を生と死のどちらに置くかによって、当然のことながら生死に関する見方って変わってきて。起点を生に置く人々は「死にたくない、死にたくない」と怯えることになる(それをその本は西洋的だと書いていましたが)。一方起点を死に置く人々はどうか、自己の周りが死に満ちていると感じ、それが一種のデフォルトだと思っている人々はどうなのか……ということは確か明確に書いてなかった気がします。ただ、きっと起点を生に置く人々がかえって死を見てしまうのとは反対に、死の中からかえって生の方向を見るのだろうなとは思うのです。 では、この小説の主人公はどうなのか。この人を完全に後者の人だと位置づけるとかえって解釈が狭くなるのかもしれません。ただ、彼は過去を含めた自分の周りのふとしたところに死を見る。それは虫であったり、もう少し大きくて鹿だったりする。そして彼自身も自己が失われていく定めにある人であり、彼もそのことは知っているに違いないのです。そして彼は死の中で死を見つめ、そしてほとんど痛ましいまでにその向こうに生を見る。植物の死してなお続く生のかたち。生物としての生について話してほしくて"死"について訊ねたこと。 ――私たちは死んでもまた、この地球に取り込まれて、それで別の生命としてこの地球で生まれるんじゃないかな? この彼女の言葉を聞いて彼がどんな心境になったのか、それは安易な推察を拒むところがあります。 ああ、でもここまで書いておいて何ですけど、やっぱりこの捉え方はちょっと狭いというかズレている気がします。生から死を見るとか死から生を見るとかそういう二極対立的で直線的なものより、彼はこの世界に死と生の円環を見出しているので。死と生に対する視線はめぐるし、いと小さきものも人の命もその環の中にある。これは地球に過去から幾重にも重なってきた円環の中で彼という人間がどのように生き、そしてまた生きていくのかという物語。 ここからは縋十夏ファンの呟きなんですが、最初読んだ時は、らしくないなと思ったんです。ちょっと作風が変わっているように見えて。でも二回読むと驚くほどらしいというか。少し笑いました。色々と懐かしく。

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辰井圭斗

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