かりそめ館 海鳴りの館
サイトさんでもレビューを書かせていただきましたが、何より「それは流れるような当たり前」と書くのが非常に上手な作家さんです。大賞取られたのですね、本当におめでとうございます。 擬音にも惹かれました。中原中也のように奇抜だ。しかし凄くわかりやすい。想像が出来る、頭の中に琵琶が鳴るのです。 琵琶というのは一見地味でいて、しかし持ち手が(ギターでいうところのネック)非常に狭いため、1音もそれほど鋭さがないんです。 大抵の弦楽器等、ギターでいうところのドラムではないような楽器は、一度五線譜音階に音を拾い直すのではないかと思う。この作品は、その音階では現せない。 どうして琵琶だったんだろうか、というのもきっと、それらを踏まえると答えになるのかな、と思ったのでネタバレレビューとしました。 演奏の後の余韻、どうしてだろうかあれらはピタッと止まるはずなのに、空気の振動が胸に来る。そしてそれは恍惚なのか…寂しさなのか、晴れた日なのか曇った日なのか。けれど、音は目に見えない。サイトさんレビューでも触れたが「黒い水」って果たしてなんだろうか。 読後の光のようなものは汗なのか涙なのか、私には見えなかった、わからなかった。ただ、呆然がそこには広がっていたように思う。
- 作品更新日:2019/2/8
- 投稿日:2021/7/19
うさぎの奴隷
芥川龍之介は「将来へのぼんやりとした不安」という言葉を遺したそうな。 虚無というものの行き先を考えることがある。人は血生臭いと捉えるのか血潮に充ちていると捉えるのか(ちなみに食べると酸っぱいらしいと言うのは昔から聞く話)、という話ですが意味合いは同じようだが恐らく我々は真逆、対照的な意味合いで頭の中の辞書を引くのではないか、と思う。だが本当にその引用はイコールなのだろうか、=は眺めれば平行線じゃなかろうか。 それが交じる線は≠…あらあら、意味合いが違うな。 不純と純粋は果たしてどう違うのだろう。誰もが一瞬にして「完全に相反してる、対照的だ」というのかも知れない、一瞬は。なんせ「不」は打ち消し要素だ、しかし誰も「不」を悪いとは言わない。 その答えは多分、一生出てこず、お遍路巡りよろしく錫杖が立てられ骨皮になったのが見つかるのか、それとも同じ骨皮でも別の見付かり方をするのだろうか。先が見えない。その巡りを裁断するフィクション。まるで刺繍糸のようじゃないか? 青春、人生とは、なんだろう。 やがてを考えたとき、貴方は一体どこにいるのか。骨と皮に血生臭さを感じるか、血潮に満ちたと考えるか。
- 作品更新日:2017/12/21
- 投稿日:2021/7/19
紺青の鬼
所謂、伝承とは、という頭で入り出すのかなと思うのですが、読んでいくうちに前後不覚になっていくような。 しかし浮かぶ「うしろの正面」…進むしかない。 個人的な話、浄瑠璃をこよなく愛しているのですが、あれを見ている気分。あれは江戸タイムリーなんだそうですが(新聞:今でいうところの瓦版。しかしそれよりも早く足を運び取材に出掛けたそうな)浄瑠璃のよさというのは「人形だからいい」なんですよね。 人間版でやってみた(歌舞伎)ですと違和感がある。 ではこの作品はと言いますと、フィクションだからいい、がある。というほどに突っ込んでいる。 「あぁ面白いフィクションだった」 「あぁ、これはフィクションでなければダメだ」 と、二方向の読者がいるのではないかと思う。ネタがわかれば尚更です。 後ろの正面って果たしてなんだろうか。そう考えたら足場は果たして…と、ホラージャンル、なるほどじわじわくるな。というお話です。
- 作品更新日:2020/3/19
- 投稿日:2021/7/19
月台
忘れていいよ。 忘れないよ。彼方にはある。君はそう、そこにいるんだよと、心の中にそんな言葉が浮かんだ。そう、主人公に言ってあげたい言葉。 月って果たしてまばゆいのかなっていう心の中の何色かを、少しセピアに思い出す。どうして忘れられないことってあるんですかね、でも、それを「悪くないんだ、暖かいね」とあの白い光を見上げられたら、ほんの少しだけ嬉しいことがあったような気分に変われる。 人の感情は難しい。それは多分、シンプルだからなんだろうな、後悔、情景、憧憬、その場その場の宝物になれたら。この作品が貴方の、その一つであって欲しい。たまに見る星が綺麗だったな、という、大切なものに。 全然関係ないのですが私の大好きな歌を思い出しました。
- 作品更新日:2019/2/23
- 投稿日:2021/8/15
八七六〇時間の忘却
まず、サイト掲載されている作品紹介文(内容欄や概要欄とも言いますか)の言葉に刺さるものがありませんか?私はそれで入ったのですが。とはいってもあまりあらすじというのを最初に読まない派です(笑) ですが始め、パッと目に入った言葉で作品を読みました。読み終えたあとに「なるほど」と思いました。何が言いたいかって、作品まとめですらも光る言葉選びが出来る作者さんだなと思います。 内容も勿論あらすじ通り、刺さりました。これはセンスとしか言いようがなく。 曖昧な人間関係、勿論物語ですからオチがあるわけで、投稿サイト故にエンタメなオチなのかもしれませんが、作品全体をみると、もう少し深く掘り下げてある。そう、猫ってとても神経質な生き物ですよね。間違ってしまうと病んでしまう、難しい生き物で。 それをどう受け入れるか、…彼はとても優しく、いや、彼らは優しいのです。臆病なことは人間いくらでもある。 対人間という機密さをこの作者さんはよくみているなと思います。故に、優しい。その上で“刺さる”のです。 彼らの生活を是非、読んでいただきたい。少しだけ世界が明るく見える…気がします。
- 作品更新日:2019/9/18
- 投稿日:2021/9/11
あの人に似て
おお、いま↑表示されて気付きましだが恋愛ジャンルだったんですか。尚更良さに気付きました。おお、大分捩れているな。 確かにそうですね…恋愛ですが、作者の裏の意図が見えるような、という新しい感想がこんな形で出てくるとは。 最後一文でこちらが「はっ!」と突き放される系のお話なのですが、まずこの2000字あまりを読んでいる最中、誰が誰に話しかけているのか、と言うのがある。では、話しかけられている側に行けば「一体何を言われているのか」になる。ですが主人公一人称なので突き放されてしまうわけです。あくまで私たち読者は「事象の傍観者だ」と思わされますが、内容が衝撃的で、そういうタイプの「余韻の無さ」がある、ので、かなり中毒的なお話です。 それが、短い。さっと呼んで欲しい、多分しばらく読書から帰ってこれなくなります。
- 作品更新日:2017/11/8
- 投稿日:2021/9/11
その秘密を、知るということ。
作者読みしています。 高校生って、非常にナイーブだよなと、大人になると思ったりします。当の彼らはそれが「日常」なのだが、考えてみればあの箱詰めされた期間のあの「日常」「常識」が通用した期間というのは案外短い物です。 だからこそ非常にナイーブであり、実は「貴重な体験」なのかもしれないと思ったりする。彼らは彼らで、貴重な体験の中で沢山の一喜一憂をする。 夏木ほたる さんはそういう機密さを書くのが本当にお上手な方です(他のも読んでみてね!)。 前提になってしまいましたが、「その秘密を、知るということ。」とは一体なんなのか。青春時代の悩みは大抵、誰が振り返っても「変わった悩み」であり、けれども「貴重な悩み」であったりする。 知った、知らない、知られた、知られたくない、様々な形があり、それを「捉える」というのは非常に柔らかい。柔らかいから柔軟なのか、傷付きやすいのかというのを考えさせられた物語でした。ジャンルをご覧ください、「BL」です。大人になれば固い悩みですよ。 囚われず縛られず。読んだ当初、初めは私にもあったような「その頃の当たり前」が甦ったので柔らかさに触れる物があった。読了してから「そうか」と、歳甲斐なく振り返った、それは爽やかな喉触りでした。 良作です。是非とも読んで欲しい1作。囚われず、縛られず、守るように。
- 作品更新日:2018/7/5
- 投稿日:2021/7/19
YANKEE AND BITCH
と、当時私は名付けましたが、情報過多じゃないかこの造語。 と、思ったのですがいや、過多じゃないですね。作品ページに飛んで頂くとわかりますが「アクション×コメディ×恋愛」ですので(笑)つまりは入り組んでいます。が、くんずもつれつぐちゃぐちゃに捩られ…て訳ではない。 刑事物ってまぁまぁ入り組むんですよ。そこに何を乗せて絡めるかという話なんですがてゆうか、「ヤンキーとビッチ」ですよ。もうパワフルじゃないですかこれ。 話も軽快でそう、作者様もあらすじで書かれている通り「ノンストップ」です。 情報過多っ! といいましたが間口が広い。ジャンルにとらわれず、ジェンダーフリーで読んでいただきたい。爽快痛快です。 さて、彼は最後何を考えたのかしらね。
- 作品更新日:2019/2/10
- 投稿日:2021/8/15
縺れた糸
私はあまり、学校で見た夕方なんていうものを覚えていない。多分意識していなかったんだ。大抵それは、大人が見れば「ああ奥ゆかしい」と思うものだったりする。 彼女達はいまそこにきっと照らされている。これは青春なんだけど、青くはなく、どちらかといえば人の皮膚の色に似ているもの。 あのときどうして締め付けられるような熱さを感じ得なかったかのかな。だからきっと、何かが刺さったままなのかなと、感じてしまった。これはつまり、「感情移入」かもしれない。 まだ上げ初めしなんちゃらの~なんかではない(別の詩人を出してすみませんがセクシャルな話しとして)アニマ。ペルソナというものはなかなか相手に気付かれないものです。 混沌とした白い寂寞、それが何気ない青春かもしれない。 …と、叙情的な話はこれまでとして、内容、感情移入へのひとつの要因ですが、このお話はこの二人でないとこの「青い秋」は生まれない。それは本人達の知らないところ。私たち(読者:傍観者)は見守ることしか出来ません。だから疼く、心が。揺れてくれ、読む人たちへ。
- 作品更新日:2021/3/17
- 投稿日:2021/8/15
鵺 (第八稿)
鵺という妖怪は見る人により形を変えるというのはわりと有名になってきた伝説なのかなと思いますが、なるほど。 私はこの物語を読みながら「即身成仏」という教えがぱんっと頭に思い浮かんだ。これもさぞ気が狂いそうになるのではないかと私は思っている。 禅の問答とは、という点と、敵対する「妖怪」という概念の絡め方が非常に秀逸。読んですぐ「なるほど」と一人で呟いてしまった。 頗る上手い。第八稿ということですが果敢に挑戦されたのですね。確かにそうだ、禅問答のような。あれには答えなど実質無い、だから「無」であり(気になった方は般若心経をついでに読解していただければ)返答はやはり自分に戻ってくる、これを坊主は「悟」と呼ぶのだろうとして……いやぁ、語るのは野暮だ。是非読み解いて頂きたいところです。 文体的にはどうだろう「ハードボイルド文体」に分類されるのかな(ちょっと純文好きでないとピンと来ないかしら。かっこいいおじさんが~ていうあれじゃないです。説明難しいのでググってください)。なので、淡と読みやすいです。だからこその深みを生む文体の使い方。本当に上手い。 純文学好きな方は是非。短編ですが読みごたえありです。
- 作品更新日:2020/6/7
- 投稿日:2021/8/15