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作:涙鳴

黄金の王子は、魔女を憎いほどに愛してる

彼にとっては十五年前の遠い日の記憶、彼女にとっては五百年生きた中のほんの一時の記憶。 それでも忘れないだろう。 彼は彼女への憎しみを、彼女は彼への償いを。 『絶対に……許さない……』 思い出すのは太陽に透ける綺麗な金糸の頭髪に、空のように澄んだ青の瞳を持つ心優しい少年のこと。 その彼が悲しみに涙を流し、憎しみに瞳を陰らせている姿を見た瞬間、彼女は己の罪を悟った。 (あぁ、私は彼から光を奪ってしまったんだ……) 彼を愛していたのに、絶望させることでしか救うことが出来ず、自分の無力さをこの日以上に呪ったことはないと思う。 『お前……お前だけは……!』 彼の瞳は、確かに闇に呑まれそうなほど陰っていた。 しかし、憎いが故に彼女を睨みつけるその瞳には、危うくも強い決意の光が見えた気がした。 (ならば、私を憎んだらいい) それで彼が生きる意味を見いだせるというのなら、それでも構わないと皮肉な笑みを浮かべる。 ──最も愛しい人へ、最も悪意を込めて。 『ふふっ、だって私は魔女。破壊することに快楽を覚えるの、憎みたいなら憎みなさい』 精一杯に悪役を演じたが、憎らしく笑えているのかが不安になる。 本当は優しくしたかった、憎まれたくなんかなかったのに、優しさは彼の心を壊してしまうから──。 (──さよなら、私の愛しい王子様。今日から私は、あなたに憎まれる破壊の魔女となりましょう)

更新:2017/11/26

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